ナイトウォーカー
僕とミアを取り囲む、無数のゾンビたち。
まるで僕らを追い詰めるかの如く、奴らは徐々に包囲網を縮めてきている。
この窮地を脱するには、戦う以外の選択肢はなかった。
「【
僕は右手を前方に掲げ、スキルを発動する。
どれだけの範囲に効果が及ぶのかは、正直わかっていない……だが、かなりの数のゾンビを巻き込めたはずだ。
次は、ミアの出番である。
「【ファイアストーム】!」
彼女のスキルの中でも攻撃範囲の広さに定評があるスキル、【ファイアストーム】。
ミアの両手から放たれた炎の渦が、緩慢な動きのゾンビたちを飲み込んでいく。
炎が通った後には、大量のコアが残されていた。
僕のスキルで敵の生命力を1にし、ミアのスキルで確実に1のダメージを与えるコンビ技……どうやら、ゾンビ相手にも問題なく通用するようだ。
「よし、これなら……」
目の前の光景を見て、ミアは小さくガッツポーズをした。
本来、レベル30とレベル1の人間二人では到底太刀打ちできない物量の相手ではあるが、お互いの長所と短所を補い合い、ゾンビたちを圧倒できている。
残る問題は、僕らの集中力がどこまで持つかという点だろうか。
ゾンビの数がわからない以上、終わりの見えない戦いをしいられるわけで……死と隣り合わせの極限状態を長時間保つのは、人間にとって厳しいものがある。
なにせ、僕はあいつらに触れられるだけで身体が腐ってしまうのだ。
既に腐り落ちてしまった右足首の痛みが、自然と緊張感を高めてくる。
「【神様のサイコロ】!」
「【ファイアストーム】!」
僕とミアは付かず離れずの距離を置きつつ、目配せをして攻撃する場所を決めていく。
ゾンビたちを近づけ過ぎないよう、また数が多いところを目掛けて、スキルを発動する。
真っ暗闇の中に、閃光と炎が舞った。
「はあ……くっ……」
どれだけの時間戦闘を行っていたかわからない……体感としては数時間、しかし実際には数十分程度しか経っていないだろう。
だが、押し寄せるゾンビの群れは途切れることなく。
突如――ミアの身体が、ガクッと崩れる。
「ミアっ!」
ゾンビに触れられた?
いや、僕レベルのスキル防御ならともかく、ミアなら触れられただけで卒倒する程のダメージは受けないだろう。
なら――マナ切れ状態か。
スキルの発動には体内のマナを消費するので、無暗に連発すればエネルギー切れ……マナ切れを引き起こす。
その状態になると一定時間スキルが使用できず、また意識を飛ばすこともあるのだ。
「くそっ!」
僕は残っている左脚に力を込め、ミアの元へ向かう。
今にも倒れそうな彼女の細い身体を受け止め、迫りくるゾンビにスキルを放った。
しかし、僕の【神様のサイコロは】だけでは奴らを倒すことはできない……生命力が1になったゾンビに、とどめの一撃を食らわせねばならないのだ。
「……」
迷ってなどいられない。
躊躇をする暇などない。
僕は腰からナイフを引き抜き、ゾンビの群れを迎え撃つ。
「はあああああああああ‼」
レベル1の僕ではあるが、防御力の低いゾンビ相手なら1ダメージを与えることはできるだろう。
しかしそのためには、リーチの短いナイフで攻撃をするしかなく。
奴らのスキル、【腐食】をもろに食らうことになる。
「――――――っ」
激痛。
ナイフを持つ右手が少しでもゾンビに触れると、触れた部分が紫色になり、肉が剥げていく。
少量ではあるが、確実に。
僕の右腕は、腐り落ちていくだろう。
「くそが‼」
右が駄目になったら、左手を使え。
腕がなくなったら、口で咥えろ。
何が何でも諦めるわけにはいかない。
僕が倒れたら、ミアまで殺されてしまう。
そんな事態だけは、絶対に避けなければ――
ブスリ
「かっ――――――はっ――――――」
ゾンビの腕が腹部を貫通したと気づいた瞬間。
僕の身体は、力なく地面に倒れる。
「……」
痛みは感じなかった。
ただ、赤々と流れる血液だけが、真っ暗な闇に溶けだしていく。
カミサマから最強のスキルをもらったにもかかわらず、Eランクの魔物に殺されるなんて……まあ、僕らしいと言えばらしいか。
結局、イチカ・シリルは第二の人生においても何も為すことができず、死んでいくのだ。
仲間一人守れず、朽ちていくのだ。
レベル1の僕が生き残れる程、この世界は甘くなかったということだろう。
僕は静かに目を閉じる。
◆
「こうも高頻度で会うことになると、まるで友達みたいでよろしくないんだけれど……まあ、珍しいものを見れたから良しとしよう。やはり転生者というのは面白い」
そんな白々しい声に揺さぶられ、意識が覚醒する。
目覚めた僕は冷たい地面に伏しており、周りには墓石が乱立していた。
ここを天国と呼ぶには無理がある……ということはつまり、地獄に落ちたのだろうか。
そこまで悪行の限りを尽くした覚えはないのだけれど、神様という奴は非情である。
「勝手に人を非情扱いしないでほしいね、イチカくん。むしろ情けに厚過ぎて困っているくらいさ……ほら、いつまでもそんなところで寝ていないで、シャキッと起きなさい」
僕は言われた通り上半身を起こし、それからすくっと両足で起立した。
我ながら素直な人間だが……違和感。
腹部に受けた致命傷と、腐り落ちた右足首が復活していることに気づく。
「えっと……」
僕は目の前で不敵に笑う人物――カミサマに視線を移した。
本人も言っていたが、随分と間を置かない再登場である。
ありがたみもクソもない。
「話を始める前にまず甘味をもらおうか。用意してくれたかい?」
「いや、まさかこんなに早く会うとは思ってなかったので、持ち合わせはないです」
「それは良くない、非常に良くないよ……あーあ、白けちゃったなぁ」
露骨にテンションを下げながら、カミサマは近くの墓石に腰かけた。
そんなところに座るな、罰当たりめ……と思ったけれど、罰を与える側がやる分には構わないのだろうか。
横暴なカミサマである。
「……もしかして、あなたが僕のことを助けてくれた、とか?」
「その表現は正しくもあり間違ってもいる。半分正解で半分無回答、と言ったところだ」
相変わらず意味がわからないが、こうしてこの人にムカついている自分は、確かに生きている。
しかもただ生きているだけではなく、致命傷や重症まできれいさっぱり回復している。
「まあ、とりあえずステータス画面でも開いてみなさい。話はそれからにしよう」
どうしてあなたがここにいるのかとか、大量のゾンビはどこにいったのかとか、ミアは無事なのかとか、そういった疑問を解決する前に、ステータスを確認しろと促された。
「……【スタート】」
僕は指示通りステータス画面を開き、
「……」
わかりやすく、絶句する。
その反応を見たカミサマは、いつも通りの無邪気な笑みを浮かべた。
「そこに記されている通り、君は新たなスキルを習得した。【
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