アンデッドの少女 001
レベル1の僕が新たに習得したスキル――【
ステータス画面には、「苦痛と引き換えにあらゆる怪我や傷を瞬時に治すことができる」と記されている。
「えっと……」
突然習得してしまったスキルに対しわかりやすく狼狽していると、
「困惑と混乱を極めているイチカくんのために、順を追って説明してあげよう。我ながらお節介焼きなカミサマだ」
こちらも突然姿を現してカミサマが、得意気に語り始めた。
「結論から話そう。私は君に【
「……そのスキルってやつが、【不死の王】ってことですか?」
「いや、そうじゃあない。私があげていたのは、死の淵から一度だけ生還できるスキルさ。いわば一回こっきりのウルトラC……そのくらいなら、お詫びとして丁度いいと思ったんだよね。同時に、イチカくんが隠しスキルを発動して生き返ったら、君の前に現れてネタばらしをしようと画策していたんだ。だから私はここにいる。サプラーイズ」
「つまり、やっぱり僕は一度死んでいて、あなたのスキルのお陰で生き返ったと」
致命傷や右足首が再生していたのは、だから初めにもらっていたスキルの効果なのだろう。
通りで苦痛を感じていなわけである。
「その通り。ゾンビに殺された君は、私のあげたスキルによって見事復活を遂げた。そして、新たなスキルを偶発的に会得したわけだ……嬉しい誤算というか幸せな計算間違いというか、これに関しちゃ、私の意志は絡んでいないんだけどね」
じゃあ僕は、偶然でとんでもないスキルを得たというのか?
レベルが上がったわけでもないし、そんなことがあり得るのだろうか。
「もちろん、偶然を引き起こす必然の要素は存在した……具体的には、君の中に流れる私のマナが原因だよ。これはスキルをあげた後遺症だと思って諦めてほしい」
「僕の中に、カミサマのマナが……」
「人体に影響はないだろうと思って無視していたんだが、今回はそれが上手く作用した。君を殺した魔物のマナと私のマナが結びつき、際物のスキルを生み出したのさ」
僕の腹部を貫いたゾンビの腕。
そこから流れ出たマナが、元々存在したカミサマのマナに反応したと。
そういう理屈らしい。
「何だか、にわかには信じられない話ですけれど……そんなことが起こり得るんですか?」
「そりゃ、私のマナだからね……とは言っても、今回はそれだけが原因の全てじゃあない。偶然を引き起こす必然の要素は、もう一つあった」
言って。
墓石に腰かけているカミサマは、自分の背後を指差す。
正確には、墓石の裏側……こちらからは死角になっていて見えない部分を、指差した。
「……?」
僕は快復した身体を動かし、カミサマの後ろに回って――発見する。
一体のゾンビが、溶けるように地面に倒れているのを。
「その子が、この墓所に眠っていたゾンビの正体さ。正確に言えば、ゾンビの変異種だね」
魔物は体内にマナの結晶であるコアを持つが、それが何らかの原因で変質したものたちのことを、まとめて変異種という。
とても珍しい存在なので、僕も知識でしか知らなかったけれど。
「ってことは、このゾンビがあなたの言っていた強力なアンデッドってことですか?」
「十中八九そうだろう。変異種は往々にして、特殊で強固なマナを持つ。イチカくんの中にある私のマナに反応し、新しいスキルを生み出してしまう程にはね」
「……まあ、そこら辺は何となくで理解しますけど、このゾンビはどうして倒れてるんです? それに、こいつ以外の大量のゾンビはどこに消えたんですか?」
「さっき言ったろ? この墓所に眠っていたゾンビの正体は彼女だ。故に、君やミアくんを襲ったというゾンビの大群は、この子がスキルによって作り出していた分身だろうね。私のマナに触れた所為で意識が飛び、分身を作っていたスキルも解除されたんだろう」
あの大群が、全部このゾンビ一体の仕業だってのか?
変異種の名に恥じない強さである。
「あ、そうそう。君は心配していないようだけれど、ミアくんは近くにあった小屋へ運んでおいたよ。仲間のことを気に掛けないなんて、意外と薄情なんだね、イチカくんは」
「それは、質問するタイミングがなかったと言うか……」
いや、言い訳はよそう。
忘れてた、ごめんミア(クズ男)。
ただし、このカミサマが何とかしてくれたんだろうという謎の信頼があった上での忘却だと、一応明記しておこう。
「……あの、そもそもの話をしてもいいですか?」
「別にいいけど、質問は簡潔に手早く済ましてくれよ。私も忙しい身なんでね」
結構頻繁に姿を見せているけれど、本当に忙しいのだろうか。
まあ、カミサマが多忙でないというのもおかしな話である。
「じゃあ、えっと……このゾンビ、あなたが何とかしてくれと言っていた強力なアンデッドですけど、こいつは今までどこにいたんです? サリバの住人やギルドですら、こいつのことを把握していませんでしたよ?」
「何とかしてくれとは言っていないが、まあいいか。その質問に対する答えはシンプルだ……単に、私の物覚えが良過ぎたわけだよ」
「……はあ?」
「いやね、段々と記憶もハッキリしてきたんだけれど、サリバでゾンビ騒ぎがあったのは三百年くらい前の話なんだ。結局解決せずにいたから、最近起きた出来事だと勘違いして覚えていたんだよ。記憶っていうのは厄介な代物だね」
「……」
三百年前って。
記憶違いのスケールが大き過ぎて、突っ込むに突っ込めない。
ということは、このゾンビは三百年前にサリバの住人を震え上がらせ……そのまま退治されることなく、いつしか墓場の地下で眠りについたのだろうか。
「本来は忘れ去られ消えていくはずの魔物だったが、これもまた面白いことに、私のマナを持つイチカくんがこの場所に現れてしまった。それに呼応するように、眠っていたアンデッドが目を覚ましたということさ」
「ことさって、じゃああなたの所為じゃないですか」
強力な魔物を目覚めさせるトリガーにもなってしまうなんて、カミサマのマナ、物騒にも程があるだろ。
「私の所為だと言うが、イチカくん。ここに来ると決めたのは君の意志だろう? 好きに生きた結果を他人に押し付けるのは頂けないね」
「ぐ……」
駄目だこの人、鼻高々に言い逃れる術を用意してやがる。
「君もミアくんも無事生きているんだし、悲観的になることもないだろう。不死身のスキルを手に入れたのだから、むしろプラスと言ってもいいくらいだね……ただまあ、問題は解決していないが」
解決していないどころか、問題を噴出させてしまった形である。
長い間眠っていた無害の魔物を呼び起こすという、とんでもない問題。
「……このゾンビ、倒せるんですよね? 僕のスキルを使って生命力を1にすれば」
「結論から言えば、この子を討伐するのはかなり難しい。少なくとも君には無理だ。無論私であれば造作もないが、それは設定上できないんでね」
「……生命力を1にしても、倒せないと?」
「倒しても無駄、と言った方がニュアンス的には近いかな。この子のコアは相当強力な不死性を有している。そういう風に変質している。だから何度退治しても死なない」
アンデッド系の魔物は、その名称に反して普通に殺すことができる。
だが、この変異種のゾンビは文字通り、不死身のアンデッドらしい……頭痛が痛いみたいな表現だが、つまりはそういうことなのだろう。
でも、僕に倒せなくてカミサマも手出しができないなら、一体どうすればいいんだ?
まさかこのまま放置していくわけにもいかないし……。
「まあ、間接的にではあるが私もこの件に絡んでいるからね……退治するのは設定上無理だが、手を貸すくらいはしてもいいか」
言いながら、カミサマは墓石から飛び降り、ゾンビの足元に立つ。
「……手を貸すってのは、具体的に何をしてくれるんですか」
僕の発した当然の疑問に対し、
「簡単だ。今からこの子を人間に戻す」
カミサマは、当たり前のようにそう笑ったのだった。
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