第3話 =魅せられて=
その日は朝からやや緊張ぎみだった。美月を指名する初めての夜。淡い初恋のときを思い出すような不思議な感覚だった。
悠人の初めての恋人は高校一年生のころだった。中学の同級生で、卒業式に思い切って告白した。初めてのキスも彼女とだった。
しかし、悲劇は突然訪れる。付き合い始めて三ヶ月後、彼女の家族が引っ越ししてしまう。通学の沿線が違ったため、色々と距離ができてしまい、少しずつ疎遠になり、進学校に通っていた悠人は、やがて本格的な受験期を迎えるにあたり、彼女と会うことを諦めてしまう。若気の至りとはいえ、永遠に愛し合えることを信じていた悠人には、深い心の痛手となった。今宵の悠人は、その頃の気持ちを思い出すような感覚だったのである。
いつものように家を出た悠人は、電車に乗っていても、勤務中も、夜のお楽しみのことなどおくびにも出さないが、心の中ではずっと駅のホームや部屋の入り口に設置されている壁時計との睨みあいだった。
この日ほど時間の経つのを遅く感じたことはなかったかもしれない。短い針が真上に到達し、そこから徐々に数字をなぞっていく過程をドキドキしながら眺めていた。会議でもあれば気を紛らわせることもできたのだろうが、あいにく会議も打ち合わせもなく、ただ部下たちの企画を添削していた。
企画部には三つの班があり、それぞれ五人ほどの人員が割り当てられている。英哉は制作部の主任と一緒にクライアント先の百貨店に出かけており、残りの面々はその準備に勤しんでいる。
もう一つの班は、来月に開店するレストランのオープニングフェアのポスターやチラシの最終の仕上げにかかっていた。
最後の班は瑞穂が所属する班であるが、とある食品加工会社が新しく手がけるパスタソースのパッケージデザイン案を企画中であった。しかしながら、パッとした案が出ずに煮詰まっているところだった。今までに悠人の前に提出されたデザインは、いずれもありきたりで、何かの模倣を少しずつアレンジされたものに等しいレベルだった。そんな出来栄えにOKを出せるはずもなく、練り直しを指示している。
悠人は困り果てているリーダーを呼びつけた。ここのリーダーは木下という悠人が部長になったタイミングで新たに主任として起用された新進気鋭のホープである。
「デザイン案は誰にやらせてるん?」
「正木くんと小泉くんですが」
「秋山くんや清水くんには何をやらせてるん?」
「色つけとかトリミングとかですが」
「頭を抱えてるくらいやってら、若いもんに任せてみたらええねん。完成品はできんやろうけど、そのあとの色付けを正木と小泉にやらした方が面白いもんあがるかもしれんで」
「はあ、まあ、やってみます」
木下は、班のメンバーを呼び寄せて、悠人の案を説明する。同時に秋山という若手と瑞穂にもコンセプトを説明し、時間限定で案を練らせた。
するとどうだろう、秋山から三案、瑞穂から二案、立て続けに出てきたではないか。しかも今までの案にとらわれない作品である。
木下もこれには満足し、先輩勢がこれらの案を捕捉していく。中でも秋山の力作はとてもよい仕上がりになった。
「これでどうでしょう」
木下は、自信に溢れた表情でその作品を悠人に提出した。
「うん、ええやろ。これでいこ。早速秋山くんを連れてプレゼン行っといで。念のために第二候補ももっていってな。それも秋山くんの案やろ」
「はい、清水くんの作品も良かったんですが、今回は秋山くんの路線でいきます」
悠人は瑞穂を呼び、ねぎらいの言葉をかけた。
「いいセンやった。次もがんばり」
「はい。つこてもらわれへんのは残念でしたけど、ちょっと自信もわきました。けど、つこてもらわれへんかったんで、残念会開いて下さい」
「こらこら、そんなんで残念会やっとったら、毎日やらなあかんやんか。それに、木下と秋山が戻ってきたら忙しなるで、今日は残業も覚悟しときや」
今宵の悠人はすでに予定を決めている。寄り道する気はさらさらない。瑞穂も可愛いが、所詮は会社の部下である。深入りは禁物だ。それよりも今は美月に会いたい気持ちばかりがざわついている。その気持ちで木下と瑞穂を持ち場に帰して、自らは再び時計との睨みあいを始めるのだ。
できれば英哉たちが帰って来るまでに会社を出たかった。きっと宿題をもらってくるに違いないと予想できるからである。その宿題を悠人に投げかけることまで想像に難くないので、今日だけは早めに仕事を切り上げたかった。
やがて終業時刻の時報が鳴る。一応の定刻は六時である。それを知らせるためのチャイムがセットされており、ここからは帰るも残るも自由である。但し、仕事が終わらぬ者にとっては、恨みのチャイムでもある。
悠人は遠出の英哉が戻ってないこと、さらには隣の席の木下が戻っていることを確認すると、スッと席を立ち、
「悪いけど、先に失礼するで」
と言い置いて、誰の返事も耳にすることなく部屋を出た。あとはあの店に向かって一直線に進むだけである。
夕暮れの風は、悠人のほほに余裕を与えてくれる。さらに、そろそろ暑くなる時期を目の前にして、名残惜しき残春の空気を胸いっぱいに吸わせてくれた。そのおかげか、悠人の足取りは軽く、今にもスキップしそうな勢いだった。
やがて目の前に見覚えのある建物が見える。『ピンクキャロット』は、昭和の彩りを残す煌びやかなネオンに着飾られた裏通りの角にあるビルの二階にある。すでにオープンの時間は過ぎており、店の前にはチカチカとピンクの看板が光っていた。
入り口のドアを押すと、軽く「キイ」という音を立てて中の様子が伺える。同時にドアに装着されているベルが「カランカラン」と鳴り響き、奥からボーイが現れる。
「いらっしゃいませ」
胸に『川田』と書かれた名札をつけたこの男は、悠人がミクを目当てに通っていた頃から常勤しているベテランである。もちろん悠人のこともよく見知っている。
「今日は誰をご指名ですか」
「美月さんをお願いします」
「美月さんは初めてですか」
「指名は初めてです」
「えっ?」
「ヘルプで一度ね。申し訳ないけど鞍替えです。今日はその子はおらんけど、おっても今日の指名は美月さんで」
「わかりました」
そんな会話を交わしながら、入店のやりとりをしたのち、フロアへ入る。今宵のシートは一番席だ。このシートはその日のナンバーワンが座るシートである。ミクもマイもそこまでの人気嬢ではなかったので、悠人がこのシートに座るのは初めてだった。
「こんばんわ」
「ボクのこと覚えてるかな?」
「覚えてるよ、絵描きさんやろ?」
「ただの趣味やっていうたし」
「でもすごい印象的やったし」
「ボクは一目惚れやけど」
「うふふ、うれしいな」
そんな会話を交わしながらも、美月は悠人を誘惑することを忘れない。ウエルカムドリンクで乾杯した後、露わな肌を悠人にさらしては、少しずつ密着度を高めていく。
今日の悠人の目的は、まさに親密度を高めることだったので、大歓迎の仕種である。
「あの、キスしてもええかな」
悠人は美月の目を見つめながら、やや遠慮がちにお願いしてみた。すると美月はそっと両腕を悠人の首にまきつけて、静かに唇を合わせてきた。
その瞬間に悠人の中の何かがプッツンと切れたに違いない。悠人も負けじと美月の腰に腕を回して応戦する。互いの熱い吐息を交わし合った、初めての瞬間であった。
「ハヤテタロウ。ボクの名前覚えてな。ほんで時々ボクの心をいやしてな」
いうが早いか、悠人は唇を美月の首筋へ移動させた。そこにもまた違った彼女の匂いが感じられる。
「オッパイ見てもいい?」
今度も遠慮がちに言ったつもりだった。
「見るだけ?」
ニッコリと微笑む美月を確認した悠人は、自由な手を彼女の胸元に滑り込ませた。そこには温かくてふくよかな丘陵が悠人を待ち構えていた。
心待ちにしていたぬくもり。そして悠人の手の中にすっぽりと収まる形の良い丘陵には、その頂に薄桃色の石碑が鎮座していた。悠人はその石碑に誘われるように頬を寄せていく。
「なんかずっと前から知ってた人みたい」
もちろん、今日初めて会ったわけではないが、まだ初見から二回目である。でもずっと前から知り合いだった、そんな感覚は悠人も同じように感じていた。
そんなどこか懐かしさを感じる美月の肌は、反発するような未熟な蒼い果実ではなく、馨しい芳香を放って男を吸い寄せるような成熟した果実のようであった。悠人はあらためて美月の匂いを確かめる。キスを求めて吐息を、そして首すじを、その流れで胸元を。それはまさに悠人が求めていた匂いであった。
さらに悠人は、嘆願するかのような眼差しで、美月に許しを乞う。
「ねえ、ここにキスしてもいい?」
悠人の目線の先には、ふくよかな丘陵の頂にある石碑があった。
「ええよ」
美月は悠人の頭を抱えるように、自らの胸元へと導いた。
了解をえた悠人は、遠慮がちながらも赤子のように石碑を弄ぶ。片方の石碑に満足すると、もう一方の頂へも果敢に挑戦する。
そして次の欲望へとシフトチェンジしようとした矢先に、冷血なるアナウンスが流れてしまうのだ。
『美月さん、八番へリクエスト』
これは、新しく来店した客が美月を指名したアナウンスであった。
「ごめんね、すぐ戻ってくるから、ちょっとだけ待っててな」
そう言って悠人が座るシートを離れていった。残された悠人は呆然とした顔で夢世界の余韻に浸っていた。すると、またもや別のアナウンスが流れたことに気づいた。
『ケイ子さん、一番へラッキータイム』
これはヘルプ専門のケイ子さんがやってくるというアナウンス。
「あらま、来てたのね。こんどは美月ちゃん?まあそやな、あんたの好みやったらあの子やな。もう惚れてもたやろ」
遠慮なしにグイグイ押してくる。
「ん?こないだは誰やった?ああマイちゃんか、いや、あんたの好みやったらやっぱし美月ちゃんやな。わかるわ」
「ボクは貴女でもいいんですけどね」
「ウチはアカン言うてるやろ」
「一度OKしてもらいましたよ」
「ああ、あん時はひまやったからな。そやけど内緒やで。アンタは特別なんやから」
「特別っていう響きはいいですね」
「アンタは優しそうやし、口も硬そうやし、紳士やし」
「まあ、かいかぶりですよ」
「でもそのことを言いふらしたりしてへんやろ?」
「教えるのがもったいないだけですよ。二度とOKしてもらえなかったら、もったいないですからね」
「でも普通は自慢げにいいふらすで。でもアンタは違う。ホンマにええ人や。美月ちゃんをよろしくやで」
「よろしくしてもらってるのはボクの方ですから」
「あっ、美月ちゃん戻ってくるわ、じゃあまたね」
そろそろのタイミングでアナウンスがあったのだろう。ケイ子がシートを離れて美月が戻ってきた。
「ケイ子さんと仲良しなの?」
「縁が長いだけやし。ボクがここへ通い始めた頃からいてはるから」
「綺麗なひと、若く見えるけど、いくつやろ?」
「聞いてない?もう四つの坂越えたってよ」
「そうは見えんな」
「ところで美月ちゃんはいくつなん?」
「ワタシも三つの坂は越えてるで。そんな若くないねん」
「ええやん、ボクよりはかなり若いで。それにちょうど食べごろやんか。えっ?ほなもしかして人妻さんか?」
「えーと、バツイチやねん。あんまり縁がなかったんやな」
「ボクにとっては、ええ縁やけどな」
そこが会話のタイミング。悠人は美月を抱きしめて、またぞろ肌の温もりを求めた。
「タロウさん上手やな。思わずキスしたくなるわ」
「してくれたらええねん。最大のご褒美やんか」
膝の上にいる美月の方が顔の位置が高い。上から見下ろしながら、ゆっくりと悠人の唇に合わせにゆく。身じろぎ一つせず受け入れる悠人。まるで本物の恋人同士のようなまったりとした空気が流れていた。
しかし、蜜月の時間は永遠に続くはずもなく、非情なアナウンスによって二人の仲は裂かれていく。
『美月さん八番へ』
またぞろあの男のところへ行くのか。しかし、悠人にそれを止める術はない。
「ちょっと行ってくる。待っててね」
露わになった胸元を整え、悠人のシートを離れていく。顔も名前も知らない別の男のところへ・・・。
悠人にはわかっていた。美月が店の女の子であることを。そして図らずも芽生えてくる嫉妬心に苛立ちを覚える自分を責めるのである。
これは悠人の明らかな勘違いであることは明白で、男が陥りやすい感覚なのである。まさかその感覚に溺れるほど愚かな人間ではないという自覚が悠人にもあったのだが、嫉妬心というのは恐ろしい。そう思わざるをえない。
美月と入れ替わりにヘルプの嬢がやってくる。今回はミサキという嬢であった。年齢的には美月とどっこいか、やや上といったところか。スラっと背が高くてスレンダーなスタイルにかなりふくよかなバストが際立っていた。どちらかと言えば可愛いというよりも美人の系統で、悠人の好みとは少し違った。
「いらっしゃい。初めまして、ミサキです。このお店は初めて?」
「いや、久しぶりってとこかな」
「えっ、実は常連さんてこと?」
「そんなことないよ。過去にお気に入りの女の子がおっただけ」
「それを常連っていうの。もっと早うに会いたかったな」
「せやけどキミみたいな美人やったら、ボクなんかに頼らんでも引く手あまたなんちゃうん?」
「そうなったらええなぁ」
「大丈夫、自信を持ったらええと思います。ミサキさんすごい美人やし」
「はいはい、ええねん、そんなことは。折角一緒におるんやから、楽しも」
ミサキは悠人の手を取って自分の膝の上に置いた。まるで、悠人の手がいたずらをしないように確保するかのようだ。
いくつか他愛もない話をしていると、あっという間に時間は過ぎて、ミサキは軽くバイバイの仕草をして悠人から離れていった。
入れ替わりに美月が戻ってくる。この店では、おおよそ指名嬢とヘルプ嬢との着席が繰り返される。
「やっぱりタロちゃんの隣が一番いい。落ち着くわ」
「そういうてもらえるとうれしいな」
男というものは、まずは女性の外見に色気を感じるものである。但し、人によって好みがあり、多くの輩は胸や尻や脚のフェチに分類される。
悠人の場合は典型的な胸好きで、しかもある程度の大きさがある方が、より好みであった。ちなみに万里もかなり大きなサイズのそれを持ち合わせている。いや、悠人が今まで付き合って来た女性のほとんどがその持ち主といえる。
では、美月の胸はどうだろう。ホームページ上の情報ではDカップとなっているが、事実、形も美しく、立派な丘陵でる。悠人も満足していることだろう。
話はそれたが、要するに悠人は偏屈なマザコンなのである。実母とはあまりしっくりといかない仲だっただけに、なおさら女性らしいシンボルに憧れているのかもしれない。それが愛しいと思う人のシンボルなら尚更だろう。
悠人は、甘え過ぎないように甘えた。ただそっと手の中で感じたかった。しかし、もう一歩踏み込むことも忘れない。
「ねえ、ここにキスしてもいい?」
嘆願するような目と言い草が美月にどのように捉えられたか。
「ええよ。甘えるの上手やな。末っ子やった?」
「いいや、古い考え方の両親に育てられたバリバリの長男やで」
一般論的には甘え上手は末っ子なのだろう。しかし、そんなことは歯牙にもかけず、美月は悠人の頭を抱えて自らの胸に引き寄せた。
甘い香りに浸る間も無く、非情なアナウンスが二人を引き離す。
『美月さん八番へ』
まだ客足の少ない時間であったが、皆無なわけではない。悠人が美月を独占できる時間は限られていた。
「すぐ戻るから」
美月は子供をあやすように悠人に言い聞かせた。
美月がシートを離れてしばらくロンリーな時間を過ごしていた。すると、目の前のハイボールが乾杯以降、手付かずのまま汗をかいているのを見つけた。悠人は一気に半分飲んだ。それほどまでに喉が渇いていたのだ。
気がつけば、複数の人の気配がする。そろそろお気に入りの嬢を目掛けて馳せ参じる輩たちの時間が近づいてきたのだろう。にわかに嬢の数も増えた気がする。
それでも嬢の数が足りないのだろう、悠人のロンリーな時間は解消されない。悠人は別にそれでいいのである。気のない嬢におべんちゃらを並べるのは気がひけるし、好みでない嬢に触手が動くわけでなし。ましてや今は美月に夢中なのである。他の嬢とイチャイチャしてるところを見られたくはない。
そんなことを考えながら過ごしていると、美月が戻ってくるアナウンスが聞こえた。
「ただいまっ」
悠人の隣に座ると、すかさずキスの挨拶をくれる。そのサービスに堪能しながら、悠人は少しギャンブルに出てみた。
「時々でええねん。メールくれたりできるかな」
ようは連絡先の交換を申し出たのである。まだたった二回しか会ってない嬢にである。
ここで読者の方々に念を押して説明しておくが、通常、夜の世界の女の子たちは身持ちが硬い。店の中で男どもに見せている顔は営業用の顔であり、絶対である。そのサービスを提供することが仕事なのだ。つまり、普通は連絡先などを知るためにはもっと深く関わらなければならないということだ。だから、悠人の要求は暴徒とも言える要求なのである。
「ええよ」
それでも美月は、それが当たり前であるかのような返事をした。
言い忘れたが、嬢によっては店用のケータイとプライベート用のケータイを使い分けている女の子もいるという。しかし、美月はこの仕事が本業ではない。連絡先は自ずと個人情報である可能性が高い。
「ときどきでええねん。毎回返信せんでもええし。それだけでなんや女の子と会話してる気分になれるし」
「いつ送ってもええの?」
「別に大丈夫やで」
「ほんなら、近いうちにな」
こういう返事をもらったからといって、過度に期待してはいけない。これも営業トークである場合がほとんどなのだから。
それがわからぬ悠人ではなかったが、ひととおり満足したのか、
「待ってるで」
と、返事をして美月を抱きしめた。さらに、
「それと、キミを題材にして肖像画を描いてもええかな」
「ええ、そんなんええに決まってる。描いてくれるん。うれしいな」
思いのほか喜んでくれたようだ。これは是が非でも手掛けなければならない。俄然、やる気がわいてきた。久しぶりの大作に思いは募る。
今日はいくつもの収穫があった。全てが叶うわけではないかもしれないが、こういったやり取りも女の子との駆け引きも、楽しいお遊びなのである。
あとは、残された時間の限り、言葉少なに互いの息遣いや肌のぬくもりを探り合うだけだが、入店からツーセット八十分、そろそろ今宵の逢瀬が幕を引く時間である。
悠人は長居をしない。普段はツーセット、長くてもスリーセットと決めていた。少し名残惜しい程度がいいと思っている。今回も自身のポリシーを遵守したのである。
今宵も店内のタイムオーバーのアナウンスとともにシートを立った。
「また来るわ」
「また来てな」
出口までは腕組みで歩く。ドアは空いており黒服ボーイが待ち構えている。
離れ際、美月はそっと悠人の頬にキスをした。優しいキスだった。
手を振る美月を背にして店を出た悠人。
今宵は少しばかり満足した時間が過ごせたようだ。
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