ビチクソ戦争
ロングブラック
第一話 テニス部
「先生!授業中すみません」
一人の男子生徒が
「どうしましたか?加藤くん」
名を呼ばれた加藤は
「トイレに、行ってもいいですか?」
「すぐ帰ってきてくださいね。ここら辺はテストに出やすいところなので、聞き逃して欲しくないんです」
「あぁ、残念ながらそれは無理そうです」
眉を
「はて、それは何故ですか?」
「それは、うんこだからです」
「.........そうですか。では」
先生は
「人間として、安全に帰ってきてください」
そんな先生の意味深な言葉を背に受けながら。
「行ってきます」
加藤は静かに席を離れ、教室後ろの扉を目指して歩を進めた。その間、教室も
ガラガラ、ガラガラ、トンッ。
加藤が教室を出た。
「はっ、はっ、はっ」
走っているのは加藤も同じだった。
教室を出た瞬間に、
汗が、昼休み明けで掃除したばかりの床に散る。
夏の太陽に照らされたその汗は、とても美しかった。日々の練習の
ちなみに、彼は
逃げているのだ。奴らから。
「加藤ぉおおおおお!」
「なっ、
「先回りだ、足だけは速いんだぁ俺は!」
「そんな
正面から走ってくる、テニス部の芝田の姿を
加藤は走りながら脳内に立体の学校の地図を
加藤のクラスは校舎四階。残念ながら、この離れの校舎にはトイレは無く、本校舎まで行く必要があった。ただ、本校舎に行く手段は二つしかない。二階の渡り廊下か、一階まで降りるか。
(コイツ、完全に俺の動きを読んでいるとしか思えない立ち回り......一体どうやって)
「ははは、教室の後ろの扉を出たお前は、教室を横切る方向には走らない!前の扉から出てきた奴らに簡単に
確かにそうだ。いくら足が速いとは言え、そうこうしている間に教室の一番右前に座っている奴に捕まってしまう。
その事を本能で
「だから、教室すぐ横の階段を降りてから、向かいの階段を上ってきたのさ!」
「あまりにも早すぎる!俺は陸上部だぞ!」
「追いついたのは事実だ。その現実とこの
「ッ!」
背中から抜いたのは一本のラケット。
グリップを右手で血管が浮き出るまで握りしめた柴田は、すぐバウンドしたボールをストロークでコート奥に返す勢いで中段を打った。
ボールは加藤だ。
だが、加藤はそれを軽々と飛び越えて
「なにっ!?」
「あまりにも低すぎる!俺は陸上部だぞ!ハードルだ!はははははは」
差し足からの抜き足。
「クッソ......石田ぁ!」
芝田は、加藤を追いかけていたクラスメイト数名の先頭を走っていた石田にラケットを投げた。彼も同じくテニス部
「任せろ。確実に仕留める」
ポケットからボールを取り出す。飛んできたラケットを受け取る。そこから打つ姿勢に入るために体をひねる。その一連の動作があまりにもスムーズ過ぎる。
「おらぁあああ!」
撃たれた球は一直線に、加藤へと飛んでいった。空気を切るラケットの音と、ボールが生み出した気流の渦が廊下に生まれた。
「さすが、《音速》の称号は伊達じゃない」
他校からは、その音を置き去りにするような球速を
だが、そのボールは加藤に当たることはなく、校舎
「くそ、もう階段に差し掛かっていたか」
「逃げ足の速い奴め」
「追え!まだ渡り廊下を渡っていない!」
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