第29話 継母の目覚め

 僕は不届きにも、いっそ、このまま継母が目覚めないでくれたら、どんなにか幸せだろうと願ってしまっている。


 こうして僕が目覚められたように、継母も、そんな事にはならないだろうとは思うけど……

 だからせめて、この哲矢やお父さんと協力し合って過ごす楽しい時間が、少しでも長く続くように祈っていた。


 そんな僕の淡い期待も虚しく、2週目週末のお見舞い時、いきなり、皆がいるタイミングを狙ったかのように、目を大きく見開いた継母。


「あっ! お母さん、目が覚めた!」


 まず、哲矢が気付いて叫んだ。


「お母さん、気が付いたのか?」


 お父さんは、この間を楽観的に過ごして来た僕とは違って、仕事から戻っての家事が大変で、それから解放されたのが嬉しかったのか、継母の意識が戻って顔がほころんでいた。


 そうか……

 そうだったんだよね。


 継母の意識が戻って、僕以外は嬉しいんだ……

 ああ、また、僕だけが、あの苦痛な時間に戻ってしまう事になるんだ……


「……随分と眠っていたのね、私」


 まだ目覚めた感覚に慣れていないような表情の継母。


「お母さん、大丈夫? 水とか、何か飲む?」


 継母に気を遣って、一生懸命に話しかける哲矢。

 いや、気を遣っているわけではない。

 哲矢は、継母が目覚めたのが純粋に嬉しい気持ちでいるんだ。

 僕とは違って……


「いいえ、要らないわ。何だか、頭が痛くて……」


「そりゃあ、あれだけ強打していたんだから、まだ痛くても当然だよ。でも、目覚めてくれてよかった」


 お父さんが、継母の手を取って喜んでいた。

 僕と哲矢の3人で頑張った日々なんかより、継母も一緒の時間の方が、お父さんにとっては、やっぱり大事なんだね……


 検査をして、特に異常が認められなかった継母は、その日のうちに退院する事を希望した。

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