第18話 イメージの大切さ

 病室のベッドに横たわる僕の姿を見た時には、苦々しい思いしか無かったけど、シアニーの言葉によって、僕は少しずつ希望を取り戻しつつあった。


「この身体の手足も、頑張れば、3次元の身体のように動かせる事が出来るの?」


「最初は、潤滑油が必要なくらい、ぎこちないかも知れないけど、そのうち自由に動かせるようになるよ」


 潤滑油……って?


 あっ、前に鍵が錆びた時、鍵穴に射し込めなくなって、専用の油をお父さんが噴射したら、スムーズに開くようになったけど、そういうような感覚かな?

 今の僕は、錆びた鍵って事なのかな?


「手足を動かすのも、出来ると信じる気持ちと、そう出来ている事をイメージする想像力が必要なんだよね!」


「そう、それが、君にとっては潤滑油みたいなものだよ。だから、スムーズにイメージ出来るようになると、もっと自由にラクに動かせるんだ。試してみなよ!」


「うん!」


 僕は、僕より30cmくらい身長の低い哲矢の耳元に向かって、出来ると信じながら少しかがんだ姿勢をイメージしてみた。

 まだかなりゆっくりにしか動かせないけど、何とか哲矢の耳元まで僕の顔が迫る事が出来た。


「スースースー」


 自分では、哲矢と呼んだつもりだったが、吐息のようになって、思いっきりかすれてしまって驚いた!


 もちろん、僕の息が哲矢の耳に、実際に吹きかかる事なんてないだろうけど……


「今、僕に対する言葉の出し方と違って、3次元の人間に向かって話す時の言葉は、とても難しいんだ。さっき移動した時みたいに、哲矢君に声が届く事をイメージしながら話してみて」


 シアニーに言われた通り、僕は、僕の声がスムーズに哲矢の耳に聴こえるように強くイメージをしながら、声を出してみた。


「て……つ……や……」


 一語ずつ発声するのが、やっとな感じ。

 頑張っても、繋げて話せるような気がしない。


「すぐには出来ないよ。何度も試みているうちに、声を届けやすくなるから」

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