第16話 哲矢の反抗

 哲矢に向かって話す時は、いつもなら優しい笑みを浮かべながらなのに、今は厳しく怒った口調になっている。

 それじゃあ、まるで、僕に話しかける時のようだよ、お母さん。


「いつもだよ! 僕はいつも不思議に思って、ずっと、お母さんに聞きたいと思っていたんだ! でも、それを言うと、お母さんが僕にも冷たくしそうな気がしたから、だから、怖くて言えなかった……」


 哲矢、そうだったんだ……


 お母さんの僕らに対する態度の違いには気付いていたけど、自分までそんな冷たい態度されるのが怖くて、言い出せず、今まで気付かないふりをしていたんだね。


「お母さんが、哲矢にそんな冷たくするわけないじゃない! 哲矢は、私のすごく大事な子なんだから!!」


 わざとらしいくらいの笑顔を向けて言ったお母さん。


「僕だけ? お兄ちゃんは、大事な子じゃないの?」


 哲矢の真っ直ぐな視線を向けられたお母さんは、思わず顔を背けた。


「哲矢、その話はまた今度にしようか」


 お母さんの気持ちを察して、助け船を出したお父さん。

 

「イヤだよ~! お兄ちゃんが、こんな事になったら、今度からお母さんは、僕に冷たくするようになるんだ!」


「お母さんは、哲矢にそんな事はしないから」


 お父さんは懸命に哲矢をなだめようとしている。

 お母さんは、哲矢の言葉に耳を塞いでいる。


「シアニー、僕が今、話している事は、皆の耳には届かないの?」


「皆に聴こえるようにする事は無理だけど、特定の誰か1人なら、力を振り絞れば、少しくらいの言葉は届ける事が出来るよ」


 そうなんだ!

 この状態でも、誰か1人に向かって話すなら可能なんだ!

 だとしたら……僕は、誰に話しかけたい? 

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