第2話 あの時だって……

 あの時もそうだった……


 あれは、2年半前。

 中学の入学式、僕は、お母さんが貰って来た親戚のお下がり学生服を着せられた。

 お下がりだから最初からくたびれていたけど、この2年半で、もう袖の辺りは恥ずかしいくらいにボロボロになって、昔の西部劇の衣服のようだった。

 そのせいで、学校でも学校の往復でも、周りから笑われる事も多かった。


 中学生活は、あと半年以上残っている。

 このままずっと笑われ続けるのも苦痛だから、新調してもらえるように、お母さんに頼んでみたけど、無駄だった。


「大丈夫よ、それくらい! 今更買うなんて、もったいない事しないわよ。だいたい、男の子なんだし、いちいち細かい事を気にしない!」


 高校生になったら、新しい制服を買ってもらえるだろうから、ボロは今だけだとガマンしようと思っていたのに……


「えっ、高校進学? 何、バカな事を言ってるの! 中卒で十分でしょう! 早く働いて、今まで育てた分の恩返しで楽をさせてね!」


 男なんだから、今時、大学まで進学するのが当たり前だと思っていたのに、そんな事を言い返されるなんて、夢にも思っていなかった!


 僕は、勉強もそれなりに励んでいて成績も上位にいるから、公立高校に進学して国公立の大学を目指すつもりでいたのに……

 もしかしたら、軽い冗談のつもりで言ったかのかもと思おうとしたかったけど、お母さんは、そんな風に言って来るような性格をしていない。


 僕に対してだけ、何故か、お母さんは昔から冷たい……


 小一の哲矢には、100点で褒めるのが当然と思っているのに、80点程度の答案を持って来ても、甲高い声でベタ褒めする。

 そのくせ、僕には……


「この前の中間試験、僕は、合計点がクラスで1位だったんだ!」


「あっ、そう」


 お母さんに、哲矢のように褒めてもらいたくて、こんなに頑張ったのに、たった、その一言だけだった。


 その時は、たまたま、お母さんの機嫌が悪かったとか、すごく忙しかったのかもと思おうとして、別の試験の結果を言った時も……


「この前の期末だけど、なんと、全校で3位だったんだ!」


「ふーん、それで?」


 それで……

 なんて、言い返されると思わなかった!


 お母さんは、僕が良い成績を取ったから、何かおねだりでもしてくるのかと勘違いしていたのだろうか?


 何もねだるつもりなんて無い!

 僕は、ただ一言欲しかっただけなんだ!

 

 『頑張ったね!』


 ……って。

 その一言で、僕の努力は報われるし、お母さんが僕にしてきた、あからさまなイヤな態度さえも、辛くないって思えるようになれたかも知れなかったのに…… 

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