見えない君を道連れに
ゆりえる
第1話 こんなにも違う中で……
小学1年生の弟、哲矢の前には、熱々のハンバーグ2つ。
もちろん、お父さんとお母さんの前にも、同じように並んでいた。
アツアツの出来立てで、美味しそうな匂いをした湯気が僕の鼻まで漂って来て、食欲をすごくそそられる。
ぐぅ......
お腹の音が鳴った。
本来、その食欲を満たしてくれるであろう夕食の団欒の時間。
なのに、育ち盛りの中3の僕、森岡
ハンバーグを焼き、もう片面を焼こうと引っくり返した時に、はみ出したパラパラの挽肉と玉ねぎのみじん切りが、まるでサラダ用のレタスの上にドレッシングやクルトンの如くばらまかれていた。
他の人のと見比べなければ良かった。
部活の有る日のように、自分のお皿だけしか見てなかったら良かったんだ。
部活が終わって戻ると、僕以外の家族は、先に夕食を食べてしまっていて、僕の分だけが残っているから、自分だけ周りと内容が違うという事に気付かないでいられたのだから。
こんな見るからに、僕のお皿だけが悲惨な状態になっているのに、それを当然のように受け止めて、その事については、誰も何も言わない。
多分、その方が無難と思っているから……
以前、お腹が空き過ぎて、自分の粗末な食事内容では我慢できなくなって、つい文句を言ってしまった事が有った。
けど、次の瞬間には、お母さんの冷たい視線を浴び、その口から出て来る言葉を待たずして、後悔した。
「そう、そんなに、この食事が不満なの? だったら、食べなくていいわ!」
お母さんは、そう言って、お腹の空いている僕の目の前で、その僕の分の食事を残飯のように生ごみ袋に入れて片付けた。
「ごめんなさい。もう文句言わないから、ご飯食べたい!」
必死に謝ったけど、後の祭りだった。
「今さら、もう遅いわ! 見ていたでしょう? ご飯もおかずも無いから」
冷たく言い放って、お母さんは、お腹ペコペコの僕の前で、哲矢やお父さん達と何事も無かったかのように美味しそうに食べ出した。
僕は、あの夜、空腹過ぎたのと、悔しい気持ちでずっと眠れなかった。
一晩中、背中に付きそうなお腹がキリキリと痛かった。
そんな事が有ったから、それを2度と繰り返す事の無いように、僕は用意された食事、それが、どんなに粗末な内容でも、決して文句を言う事は無かった。
哲矢やお父さんは、もしかしたら、疑問に感じていながらも、見て見ぬふりをし続けているのかも知れない。
自分達の分は、ちゃんと用意されているのだから。
そこだけ見て美味しく食べていたら、我が家では何事も無く、皆が穏やかに過ごせるのだから。
我が家では、誰もが、お母さんには逆らえないんだ!
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