第39話 是都の話③

 アイドルグループのデート商法をしてるのを見てて思いついたのが、“投資”だ。


 どこをどう繋げたら“投資”になるのか?


 俺は彼女達とファンがデートしてる時の会話を聞いていた。

 出身地や学歴、スポーツや趣味の話。まずは大体ファンが聞いてくるのだけど、長い時間を過ごすうちに聞くことが無くなってくる。そうすると今度はアイドルの方がファンのことを聞き出すようになってくるのだ。よくでる話題が仕事のことだ。会社によって仕事が全然違うので、アイドルの方も飽きる事なく話を聞ける。


 ファンの中では、推しの子が真剣に話を聞いてくれるのが嬉しくて、カメラの回ってないところでついつい会社の内部事情まで話してしまう人がいたのだ。


 俺はそれで閃いた。


 内部通達で、アイドルとデートできる人の選考基準を、勤めている会社が株式を公開してる人に限定した。


 最初の頃は第三者が付いてカメラを回していたけど、間川が脱退する頃には、2人にカメラを持たせて撮影させる時間がほとんどだった。そして更にカメラを回さない時間を増やすようにアイドルに伝える。


 また、デートするファンに、会社名と最近会社が取り組んでる改革などがあるか聞いて報告するよう、アイドル達に義務付けた。

 全員がペラペラと喋るわけでは勿論無いが、たまに“俺はすごい人”アピールする人がいて、そういう人は“俺だけ知ってる”体で自慢することがあり、それをキャッチする。


 その次は資金をどう調達するか。


 それは投資セミナーを開いて、投資家ビギナー達を集め、俺の勧める会社に投資してくれる人を探すことにする。


 俺は自分で自由に金を使って儲けたい。利益は全部自分の物にしたい。


 そう考えると、手数料を貰うだけでは絶対足りない。

 普通のやり方だと、儲けは全部投資家のものだから。


 架空の会社に投資してもらって、そのお金を俺が投資する。

 架空の会社には潰れてもらい、投資家には泣いてもらうかー。


 そもそも投資は博打だ。儲かる奴もいれはそうじゃない奴もいる。会社が潰れて泣く奴だってたくさんいる。

 早く泣くか、後で泣くかの違いだけだ。


 セミナーの講師に選んだのはもちろん隅田だ。

 部下に隅田のところへ話を持って行かせるが、決して俺の名前は出さないように指示する。

 開催地も、東京から離れていて丁度いい。


 アシスタントとして抜擢したのはあの間川だ。

 間川の人たらし能力は抜群だ。あれを利用しない手はない。契約社員として採用すれば間川にとっても良い話のはず。用が無くなれば切り捨てればいい。


 思った通り、間川はいい働きをする。


 俺は隅田の会社の名前が入った偽造の名刺を使って投資家を騙す。


 俺はセミナーには関わらないし、隅田に面通しだってしない。投資家に会う時は変装する。

 これでいけるだろう。

 

 アイドルに会社の内部事情を探らせてるので、俺の投資は負けなしだ。

 そんなに多くの情報が得られる訳ではないが、ここぞという物件にドンと賭ける。

 狙い通り多額の利益を出して会社に貢献した。


 ただやはり詐欺だという噂が出てきた。その対策ももちろん考えてるさ。その為に隅田を選んだのだから。

 俺の計画は成功した。

 隅田が疑われ、アイツの信用が丸潰れになった。

 思った以上の成果で笑いが止まらない。

 俺は証券会社時代の復讐を果たしてスッキリした。

 気分がすこぶる良いので、詐欺の被害者には救済してやろう。そうすれば、会社のイメージも上がる。


 俺が資金を増やしたのが起爆剤となって、会社の業績もそれぞれの分野で上がってきた。

 なんとなく暇になった俺が、次に気になってきたのは、昔上京する時にお世話になった友達のことだ。

 相変わらずゲームの会社で頑張っているようだけど、最近は「若い奴等に勝てない気がする」と落ち込んでいる様子。


 何か俺にできることは…?


 開発のお手伝いするほどの体力は、今の我啼にはまだ無い。

 友達の開発するゲームを盛り上げるというのはどうだろう。


 そうだ、いくらネットがあるとはいえ、田舎と都会では情報量が違うというか、流行りがそんなに多くない。年齢が高い層は、全くといっていいほどだ。


 市場調査として、田舎でオフ会を開いて、どんな方法で盛り上げていけばいいか考えよう。地方から火が付いて流行らせることだってできるはず。

 そういえば、ギルドのメンバーで丁度山口の奴がいたな。

 今度は通常業務なので、開催するのは地元の山口でいいだろう。


 〔オカジ〕というゲーム仲間と、オフ会の計画を立てる。〔オカジ〕という奴は、なんか素直で扱いやすい。

 SNSでチェックしたら、柳井田運送という会社に勤めているらしい。

 ん?“柳井田運送”?


 アイツだ。


 モヤモヤし出した頃に、柳井田本人が参加することになる。

 俺の心が騒めく。


 ただの市場調査にするつもりだったけど、俺のスイッチが入ってしまう。


 柳井田…アイツとは大学が同じだった。

 俺はアイツの事を知っているけど、アイツは俺の事を知らない。


 柳井田は“豪快な男”っていうイメージで、大きな声で喋り、よく笑う。いつも周りには人だかりができていた。アイツが1人でいるところを見たことが無いくらいだ。


 俺が大学2年生の時、母親が事故に遭う。信号の無い横断歩道を渡りかけた時、左折してきた車に巻き込まれた。少しぶつかったという程度だけど、車は大型トラックだったので衝撃が酷かった。

 その大型トラックの会社が柳井田運送だったのだ。


 母は両足と左手を骨折したものの、頭部や脊椎などは無事だったので、怪我が治れば普通の生活に戻ると言われたが、治っても少し片足を引きずる事があり、その歩く姿を見るたびに怒りが湧き上がる。


 柳井田運送は補償はキチンとしていたので、まだ救いがあったのだけど、俺の感情はそんなものでは割り切れるものではなかった。


 事故と柳井田本人は全く関係ないのだが、アイツが豪快に笑う度に、俺には陰の気持ちが蓄積した。


 ーしばらくずっと忘れていたのに…。


 柳井田をなんとか痛い目に合わせてやりたいと思案したところに思いついたのがハニートラップだ。

 別に、フリだけでいい。その程度で構わない。

 そんな気持ちでちょっと引っ掛けてやろうと思った。


 オフ会に参加してアイツと会っても、アイツは全く俺の事を覚えていない。

 話したことも無いから当たり前なんだが、そしてハニートラップも仕掛けようとしているけれど、なんか少し寂しい気持ちになった。


 ただの個人的な恨みではあったが、間川と間川の友達に


 だけど失敗した。


 まあいいか。

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