第40話 是都の話④

 少し前から、ダンスする地方の女子高生をよく見るようになる。

 アイドルのマネージャーをしてた時の癖というか、光る人材にはつい目が入ってしまう。


 名前は『MUTUNA』。


 最初はスルーしてたけど、何回目かの動画で、女の子の顔がアップになった時があった。

 ああ、この子は坂田の娘だ、とその時やっと分かった。


 地方のアイドルか…。


 セミナーの詐欺の噂が出てしまったので、もうデート商法もやる意味が無い。そろそろあのグループを解散させて、新しい事を何か始めようと思ってたところだった。


 グループを解散するにあたり、事務所がメンバーと面接する場に同席させてもらう。

 ほとんどのメンバーは、アイドルを辞めて新たな道へ進む方向で考えているが、1人「やっぱりアイドルを続けたい」という人物がいた。

 『エンリィ』だ。


 エンリィは負けず嫌いで貪欲だ。そして指示したことはクリアしようと頑張ってくれる。デート商法でも、頑張ってくれたようだ。

 ちょっとヤバめの、ストーカーにに近いファンがいるが…。

 それも含めて、利用してやろうか。


 そういえばエンリィは間川を追い出した主犯格だ。

 似てる者同士、反発すれば酷いけど、上手くいけば強いか?


 じゃあ、地方の太客を掴んで、全国へ向かうという程で、ハイスペックファンクラブの設立を目指すか。


 都会は競争率が高く、既に飽和状態だけど、地方はまだまだ埋蔵金があるはず。


 その計画のために、エンリィをたらし込んだ。

 そしたら何故か俺に恋愛感情らしきものを持ち出した。


 …悪くない。


 好き好き光線を出されると、男って駄目なもんだな。

 この時、坂田が間川に手のひらで転がされた時の気持ちと同期した。


 でも、あのオフ会にファン、〔モミジン〕を仕込んでくるとは思わなかった。特に害悪なことは無かったが。

 後で聞いたら、間川と距離が近くなるのを阻止する為だと言う。

 その時、嫌な予感はしてたんだ。


 その予感が的中する。


 エンリィには、「間川とはまた力を合わせて頑張ってもらわないといけないから、早まったことはしないように」と釘を刺していたのに、階段から突き落とすとは…。


 大した事件ではないし、事故と言い張ればなんとかなりそうか?

 間川には脅しをかけてあるし、母親の借金もある。


 大丈夫だろう。


 鷹を括ってた俺の思惑は外れ、俺は逮捕されてしまう。


 ー終わった。


 絶望感に襲われるかと思っていたけど、何故か安堵の気持ちが強かった。


 俺にも良心というものがあったということかー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る