第38話 是都の話②
芸能事務所のマネージャーとなってしばらくして、我啼株式会社の社長が交代し専務が社長に就任した。
俺は自分の事のように嬉しかった。益々張り切って担当の子達に心血を注ぐ。
その頃新しく担当することになったのが坂田だ。
坂田は北陸から上京してきてすぐの田舎の若者だ。大学に入学するのに上京したのだが、ダンスユニットを立ち上げる時のオーディションで選ばれた。
坂田は田舎者だと馬鹿にされないようにすごく尖っていたが、俺は嫌いじゃない。
むしろ出身は違うが、田舎者同士、心の中では応援していた。
尖っていても坂田は真面目で、きちんと挨拶もできる。流石は酒造メーカーの創業家の出だと思うくらいの品も待ち合わせている。
彼は、磨けば光る!
この業界はまだ浅い俺でも、ピンとくるものがあった。
ダンスユニットは男子ばかりで、まあ汗臭い感じだけど、俺に対する扱いが違って、女子のアイドルグループよりすごく感謝される。
俺は、社長の為じゃなく、初めてこの子達のためにマネジメントをしっかりやろうと思った。
ダンスユニットは雰囲気も良く、まとまっていて華があり、それが主催者にも伝わって、次々に仕事が決まりだす。
すごく順調なスタートを切ると思っていた矢先、女子のアイドルグループの未成年飲酒喫煙という不祥事がスクープされる。そしてその子が実はダンスユニットの1人と付き合っているということまでついでに記事にされてしまった。
それでも、記事に惑わされないよう、ダンスを頑張って行こうとなったところで、坂田がリハーサルで舞台の上から落ち、復帰までかなり時間のかかる怪我をしてしまう。
坂田は学業もあり、親からも説得され、ダンスユニットを脱退して、芸能界からも身を引くこととなる。
ユニットの主軸であった坂田が抜けた影響は大きく、チームをガタガタにしてしまう。先に受けてた仕事はなんとかやり遂げたが、それ以降新規で仕事が入る事は無かった。
先程の未成年飲酒喫煙の不祥事も尾を引いて、薬もやってるのではないかという噂まで立ち、収集がつかない事態まで広がり、結果事務所を閉鎖することとなった。
不祥事を起こした子は俺の担当ではなかったので、俺には責任がなく、出向契約は破棄され、俺は我啼の本社へ戻ることになる。
それからは与えられた仕事をがむしゃらにやり遂げる。
証券会社のような厳しいノルマも無く、直接上司から罵倒されるようなことも無いが、社員皆が自主的に夜中も休日も働くようになっていた。
そんな仕事ばかりの俺でも、恋愛したし結婚もした。でも、結婚してからも仕事ばかりしてる俺に愛想を尽かして妻は家を出て行ってしまった。
それから益々仕事一筋になるが、会社はそれと反比例するように業績が悪化する。
社長も役員も、社内全体がピリピリムードとなる。
社長は、専務時代は身軽に動けていたけど、社長業に追われ、あの頃の溌剌とした雰囲気ではなくなってしまった。
社内には、“もうこの会社潰れてしまうかも…”という噂も出てくる。
それでも、社長も社員も全員が、何とかしなきゃと強く思う。
この
そしてその責任者として俺が抜擢された。
俺は新規事業を立ち上げるが、ことごとく失敗する。
不甲斐ない俺に苛立つ社長から呼び出され、酷い叱責を受ける。こんな事は、あの証券会社以来の事だ。
そして社長は、こう続ける。
「君にはね、もっと期待してるんだよ!あの日、酷く暗く落ち込んでた君に声を掛けた時、君と話して、君は私と同じ情熱を持ってくれる人だと確信したんだ。
きっと辛い経験をしてそこにいるのだと思ったよ。
だから、きっと君はその経験を生かして、私の期待に答えてくれるはずだ!
多少どんなやり方をしても構わない。会社に迷惑がかからないならね。
今までのやり方じゃ駄目だと君も気付いてるはずだ。
ね、是都くん。」
社長ははっきり言わないが、正攻法じゃないやり方でも構わないと言っているのだ。
結果を出すしかないー。
部下にアイデアを募集した中に“アイドルのデート商法で売り上げを上げるイベント”という企画があった。
俺はそれを実行することにした。
俺が昔マネージャー業をしていた事務所はもう無いが、実は別の事務所と新たに提携していたのだ。
社長は若い頃、アイドルになりたい夢があったようだ。
またアイドルの卵か…。
正直、昔のことを思い出すとゲンナリするが、今の子たちはあの頃の子とは違うはず。時代は変わってるのだ。
でも、実際活動を始めると、最初だけいい感じで、次第にチーム内は皆ライバルで雰囲気がどんどん悪くなる。
企画自体もそんな雰囲気にしてしまう原因であることは間違いないが、チームなら切磋琢磨して盛り上げていくものなのではないのか?
そのうちに色仕掛けをする奴やら、女の武器を使って人気を稼ぐ奴やら。
そんな事したって人気など出る訳がない。下品な者には下品な者しか寄って来ないのに。
しかし、それよりも何よりも腹が立ったのは、坂田の事だ。
坂田は大学を卒業した後、ダンススクールの会社に就職し、その後結婚を機に独立していた。
坂田にアイドルの卵達のダンスレッスンをお願いしたのだ。すると、間川という男の扱いに長けた奴の術中にハマり、事務所関係者に間川をプッシュするようになってしまう。
俺は、坂田が推す通り、グループのメンバーにおいては1番センターになってほしくないであろう間川をセンターに抜擢させた。もちろんワザとだ。
しばらくは大人しく皆従っていたけど、やっぱり全く売り上げが上がらないので、センターを変えることにして火種を付けた。
奴らはなんと、間川を追い出すために変な噂を流して貶めたのだ。
結果、間川は脱退を余儀なくされた。
俺は呆れ果てた。
この頃には既に俺の中で、あのグループは終わってた。グループを人気者にさせるより、また別の使い道を考えていた。
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