是都〔ゼットロス〕の語り
第37話 是都の話
これが俺の肩書きだ。
地元の大学を卒業して、同じく地元の証券会社に就職する。入社するまで分からなかったが、今で言うブラック企業だった。
証券会社なんて、どこもこんなもんだろうと思って、厳しいノルマや上司や先輩からの叱責にも耐え頑張ってみたものの、2年目で鬱病を発症し、退社した。
退社する前に先輩に相談した時、
「たったの2年?そんなんで辞めるなんて、根性無いな。これだから今の若いモンは…。鬱病とかさ、気の持ちようだろ?
怠け癖なんかつけたら、どこに就職したって結果は同じだ。次行ったってすぐ辞めるさ。」
と軽くあしらわれ、蔑んだ目で見られた。
当時はパワハラ当たり前、鬱病なんて根性のない奴が会社を辞める言い訳とういう風潮の時代だったので、しょうがないと言えばしょうがない。
でも俺は悔しかった。
そりゃ、せっかく頑張ろうと思って入社したんだから、自分だってこのまま働きたいと思ってた。
俺はすぐ辞めたいと思っていたが、この言葉が悔しくてもうしばらく続けることにした。逃げたと思われたくなかったからだ。
気持ちを切り替えて営業に行った。そしたらすごく良い契約が取れた。
俺は有頂天になって喜び勇んで会社に報告しようと思ってたのに、その先輩に横取りされてしまう。
「先に営業かけたのはオレだ。今回たまたまお前が行って契約になっただけで、本来ならオレが担当なんだ。それに、いつ辞めるか分からないお前には任せておけん。」
と、抗議した俺を睨みつけた。
俺はそれで本当に心が折れた。
結局そのまま退職となる。
その時の先輩というのが、隅田だ。
我啼に入社してから、ネットで隅田のサイトを見つけた時、心の奥底から湧き上がる怒りを抑え切れなかった。
いつか、コイツをどうにかしてやるー。
証券会社を退職した後、しばらくは鬱が酷く、働くことも家から出ることさえもままならなかった。
それでも時間が心を回復させてくれて、少し体調が戻ってきはじめた。それに伴い、このままこの山口にいても駄目なんじゃないかと思うようになる。
俺は貯金も殆ど無く、無一文の状態で上京することを決意する。
当てがないこともなかった。大学時代の友人がゲームクリエイターとしてゲーム会社で働いているのだが、ほとんど家に帰れないくらい激務で、無駄にアパートを借りてるから好きに使っていいよと言ってくれたのだ。
俺はその言葉に甘えて、友達の部屋を間借りし、東京で就職活動を始める。
だけど、入社2年で退職した俺を拾ってくれる会社は無く、受けては落ち、受けては落ちを繰り返す。
落ち込んで信号待ちをしてる時に、ガードレールに寄りかかっていた俺にぶつかってきた奴がいて、そのせいで俺が手に持っていた求人情報の雑誌がぶっ飛んでしまった。
そいつは急いでいたのだけど、その雑誌を拾い上げて丁寧に謝ってくれた。
俺はそいつにペコリと頭を下げ、黙って向こうへ歩いて行こうとしたら、
「あの、仕事探してますか?」
とそいつが追いかけるように声をかけてきた。
それが、我啼株式会社を引き継ぐ少し前の現社長だった。
現社長は俺より少し年上で、その当時は専務だ。専務なのにフットワークが軽い感じで、しっかり日に焼けた肌は汗でキラキラしていた。汗なんて、ジトジトとして嫌なものだが、その時の彼の汗はとても輝いていたのだ。
専務は初めて会ったにも関わらず、新しいことを始めていきたいと、冴えない顔をした無職の俺に熱く夢を語ってくれた。
この人は好きだ。
この人の会社に入りたい。
俺にも専務の熱い情熱が乗り移って、すごくやる気が出てきた。
後日、本当に専務から連絡が入り、会社で面接を受け、見事に採用された。
「気になる芸能事務所があってね、そこと提携したいと考えてるんだ。その事務所はいい子がいっぱいいるんだけど、人員不足で上手く仕事が回ってないんだ。
君の前職の営業は、きっとその事務所で生かされると思うんだ。
だから、出向という形で、その事務所でマネージャーという仕事をしてほしい。期待してるよ。」
と専務直々にお願いされた。
俺には断る理由など無い。全力で働く。
テレビ関係者やイベントの会社に頭を下げて回り、いろんな仕事を勝ち取ってくる。オーディションを受けさせたりスケジュールを組んだり、タレントの卵たちが現場に行く時付き添ったり、業界の人に新たなコンタクトを取ったり。
兎に角、担当の子の仕事が上手くいって、どんどん仕事が増えるように頑張った。
あるアイドルグループを担当することになる。
この子達は、最初こそ下手に出て可愛らしいところもあったが、ちょっと売れてきだすと、段々と我が儘になり、俺の事を執事か下僕のような扱いをしてくるようになった。
マネージャーとして、まだ若い彼女らを教育しなければならないのだが、俺の言う事は聞きもしない。
挙げ句の果てに、影で俺のことを『コメ付きバッタ』と揶揄してることを知った。
それが1グループだけではない。担当が変わり、いくつかのグループを受け持ったけど、やっぱり女子は俺のことを馬鹿にするようになるのだ。
アイドルはクソだ。
いつかこんな奴ら…
そう思いながら、俺は専務の為にと思って、怒りを抑えて顔では笑っていた。
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