第34話 歌蘭の話④
東京へ戻ったら、
「もう一つのさ、北陸進出の話、進めようかと思うんだ。一緒に来てくれるかな?
まあ、君に拒否する権利は無いけどね。
まずは前に言ってたあの子中心にダンスユニットを作って売り出してから、富裕層をターゲットにした社交クラブ的なファンクラブを作るっていうのはどうだろう?
都会から離れた場所にはさ、そういうの無さそうだから、メンバーの厳選と、やり方次第ではかなりイケると思うんだ。
もちろん君もそのユニットに入るといい。そしたらまたあの世界に戻れるよ。」
また悪巧みのお誘いだ。
「それなんですが…、あの北陸の動画の子、ダンスの先生のお子さんだとご存知ですよね?
私、彼女にめちゃくちゃ嫌われてるので、私が一緒だと話にならないと思います。」
と言ってみた。
そう、是都は前から動画で少し注目されている女の子に目を付けていた。調べたら、私が所属していたアイドルグループが、ダンスレッスンを受けてた先生のお子さん、
今度はその睦菜ちゃんを使ってまた悪いことを企もうとしているのだ。
「あれ?君は彼女に尊敬されてるんじゃなかったっけ?
確かさ、『私、歌蘭さんに憧れてるんです!』って言ってたような記憶があるけど?」
「よく分からないんですけど、今は嫌われちゃってます。」
「ふうん、まあ、気にしないでいいさ。また手懐けてよ。」
と全く意に介さない。
やっぱりこんな言い訳通じないか…。
私は、是都が睦菜ちゃんを狙ってるって知った時から、動画のコメントに悪口を書いた。
名前を変えても睦菜ちゃんになら分かると思った。
私自身、どこで誰に監視されているか分からないので直接連絡は取れない。こんな方法しか思い付かない。
本当はすごく素敵な動画だと思ってるけど、世間に、特にZには注目されてほしくない。
いや、是都の事半分、私の嫉妬も半分あるかもしれない。だけど…
どうにかして動画を辞めさせて、是都からのターゲットから外させたいのだ-。
でもこの男には、そんな小細工通用しないか…。
お金の事はなんとかしなきゃと思う。母の彼と母が借りたのなら返さないと。
でも…悪いことの手伝いなんて…それは違う。
私はこんなこと、もう辞めたいと思う。是都の言う事なんて聞きたくない。ただ、是都の周りにいるらしい、“怖い人”がもし本当にいたとしたら?
私が“もうやめる”って言ったら、私もお母さんも何されるか分からない。
私はこの先どうしたらいいか、一生懸命考える。
…まずは、母をどこか安全な所へ連れて行くべきか?でも、まだ体調が悪い。
悩みながら家に帰ると、母が嬉しそうな顔をして「ねえ歌蘭、私ね、今日病院に行ったら、『もうだいぶ良くなりましたね。』って言われたの。でね、嬉しくて元彼に連絡したら、『あの借りたお金を元手に始めた事業が、もしかしたらいい感じなんだ。体調がいいなら手伝ってほしい』って言われたんだ。だからね、彼の所に行くことにした。」と言ってきた。
詳しく聞くと、北関東の穏やかな町で仕事を始めていたらしい。
ゲームしてゴロゴロして、母にお金にたかるだけのダメ男かと思ってたけど、ちゃんと仕事始めたんだ…。
てっきり母は捨てられたのかと思ったけど、生活基盤を立て直すための一時的なものだったらしい。
まあそこは本当かどうか分からないけど、でも今は心から、母をお願いしますと言いたい。
母の引っ越しの手伝いをし、向こうにも一緒に行って、しばらく母に付いて体調を管理する。
その間は誰とも連絡を取らなかった。この場所を是都には絶対知られたくない。
ここを絶対安全な場所にする!
久しぶりに母の元彼に会ったら、随分しっかりとした感じに変わっていた。
そもそも悪い人ではなかった。私にも優しかったし、ゲームなら一緒に遊んでくれてた。ただただグータラだっただけで。
それが、仕事が上手くいったらこんなにも自信のある大人に変わるんだなと思った。
-私も変わらなきゃ。
北関東の、近くにも遠くにもある山を眺めながら、私は決心する。
私が山籠りしてる間に連絡してきた人に連絡をして、全員を同じ日に同じ場所に集める。
その人たちに…訴えてもらうんだ…
まず、私を!
そして是都を!
光莉の用事は[松下村]さんの事だと言う。言いにくそうな感じからすると、[松下村]さんのは、10万円の窃盗だろう。これはもちろん私ではない。
でも、これを逆に利用しよう。
あの時、是都が上手くいかなかった腹いせに、コッソリ財布から抜き取っているのを見た。
セコイ。余りにもセコイと思う。何が法に触れないやり方だ?
投資詐欺で億のお金を騙したのに、目先の10万円にも手を出してしまう奴。普通に泥棒じゃん。
この瞬間、私の中で是都の価値が下の下になった。こんな奴についていけない。もう言いなりになりたくない!
田原さんには聞かなくても分かる。睦菜ちゃんの件だ。
彼女には営業妨害でも名誉毀損でも、何でもいい。
そしてファイナンシャルアドバイザーの隅田さん。これが一番デカい。
騙した人達へ救済をしたとはいえ、完全に犯罪なのだ。そして隅田さんを廃業に近い休業へ追い込んだ。
この件を無しにしては、私は次へ進めない。私の犯した罪は償わないと…!
本当は投資詐欺だけでもいいのかもしれないけど、救済が済んでしまっているから被害者の方も今更関わりたくないと、証言をしないかもしれない。だから、大きい事件だろうが小さな事件だろうが、全部まとめてやろう。そしたらきっと大きくなるだろう。
私が直接警察に話すれば早いのだけど、私にはそれが出来ない。
私が全ての連絡を経って母と雲隠れした時、うっかり携帯の電源を入れてて、着信があった電話に出てしまった。こっちに来てから携帯をもう一つ用意したのだけど、それは母だけに伝えていて、それが鳴ったと勘違いしたのだ。
すると、変声期で
「逃げたらコロス。警察行ったらコロス。オマエも家族も。」
と喋ってきた。それだけ言って電話は切れた。
是都が言ってたコワイ人なのか、是都本人なのかは分からないけど、正体が分からない人に言われると、物凄く恐怖だ。身体中が振戦する。
只の脅しだと思うけど、もし万が一…。
時間を少しずらして全員に会い、私のした事を警察に話してもらうようにお願いする。その後私は逃亡する。きっと警察は私を探すだろう。
そしたら是都も調べてくれるはず…!
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