第35話 歌蘭の話⑤
あの日、まず
それとはまた別に光莉にも来てもらう。
エンリィは私と同じく田原さんの教室に通っていたのでもちろん知り合いだ。
隅田さんの息子さんとは、光莉がエンリィと一緒に隅田さんのお店に飲みに行って知り合ったみたい。話の流れでエンリィがアイドルグループに所属してることが知られて、そこから私の話も出たみたい。ネットで検索すれば、詐欺セミナーのアシスタントが元同じグループにいたことはすぐ分かる。
でも私はまだ息子さんとは会ったことはない。
3人をそれぞれ別に呼び出したのは、それぞれの事情が違うので、不必要な説明を省くため。
まず隅田さんの息子さんに会おうと約束の場所に向かおうとした時、エンリィから連絡が入る。
「ねえ、隅田さんに会う前に、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
そう言われて、公園の端の
「どうしたの?息子さんの前ではできない話なんだよね?」
「そう…ていうか、事前に何の話するか聞いておいてもいい?」
「あ、そうだね。どうせエンリィも聞くことになるから…。あのね、隅田さんのセミナーで、詐欺に関わってたことを告白しようと思ってるの。」
「…やっぱり。
ダメだよ。」
「え?何で?」
「最初はさ、疑われてるのが迷惑だって言うのかと思ってたの。だから呼び出しに協力した。でもさ、歌蘭ラが告白したら困るの。」
「困る?どうしてエンリィが困るの?」
「だってそうじゃない!引退したとはいえ、元同じグループだよ?私達まで影響するじゃない!
それに歌蘭ラは今、
「ごめん、でも、もう決めたの。本当にごめん。」
エンリィが酷く怒った顔になって、このまま話してたら3人と会えなくなるかもしれないと思ったから、私は逃げるようにエンリィから離れようと後ろを向いた。
その瞬間、ドンッと背中を押された。
え?っと思って振り返ろうとしたけど、強く押されたせいでバランスを崩し、階段から転げ落ちてしまったー。
それからしばらく意識不明になってたみたいで、気がついたら病院にいた。
頭を強く打ってたみたいで、その時の記憶がすっぽり抜けていた。
警察に事情を聞かれた時、うろ覚えに覚えてた3人と会う約束を話した。
…どうせ警察に話してもらう予定だったし、警察の方から事情を聞きに行けば一石二鳥だと思った。
そしてもう1人、連絡を取らなければならない−。
私が〔キシャル〕こと中森さんと初めて会ったのは、あの山口のオフ会だ。
始めの自己紹介の時から、なんかクセがありそうというか、何でもお見通しのような鋭い目つきを隠してて、あんまり近づきたくない感じがしてた。
多分、私の事は知ってたんだと思う。
オフ会には〔ゼットロス〕こと是都がいるので、下手なことは言えない。それもあってなるべく遠くに座っていたけど、なんか常に視線を感じていた。
是都からも見張られていたけど、是都もなんとなく〔キシャル〕を警戒して、会の途中で私に「目立つことはするな」と、全く面白くなさそうな顔で言ってくる。
会が進むと、それなりに出席者がどういう人かなんとなく分かるようになってきた。
〔キシャル〕はきっとメディア関係の人だとピンときた。
キシャル…記者か!
苦手だと思うのは、私に後ろめたいことがあるからだ。
会ではほとんど話さなかったけど、終わり頃に〔キシャル〕からこっそり名刺を渡される。
『フリーライター 中森 雄太』
思った通りだ。
他の皆に気付かれないように私の連絡先も聞かれたけど、それは丁重にお断りした。
どこまで何を知ってるか分からないけど、なんか全部見透かされてる感じ。
中森さんと是都はお互いに警戒していた。
私が1次会の後すぐ会を抜けたこともあり、その時はそれで終わった。
でも、東京に戻ってきてから段々私の気が変わってきて、中森さんに全部話してしまおうかと思うようになる。
決定的だったのは睦菜ちゃんをターゲットにする指示をしてきた時。
私は決心した。
名刺の番号に電話して、会う約束をした。でも、なかなかタイミングが合わず、約束した3人と会った後に会うことになっていた。
でも、その前に私は階段から突き落とされた。
目が覚めて、意識がハッキリし、私の決意が戻ったところで改めて中森さんに連絡した。
そして誰にも知られないようにこっそり病室まで来てもらった。
アイドルグループの活動のこと。是都との出会いと詐欺セミナーの関わり。オフ会で〔松下村〕さんに仕掛けようとしたこと。睦菜ちゃんを狙ってること。
正直に全部話した。
「あのオフ会の出席者に会いに行ったけど、ほとんど会えなかったんだ。
会えたのは〔松下村〕さんと〔オカジ〕くんと〔あいを〕さん、そして今日君に会えただけ。
そもそもは君が出席するって知ったからあのオフ会に行ったんだ。詐欺セミナーを調べてて、君がアシスタントで関わってることを知ったからね。ずっと追いかけてたから、SNSもチェックしてたし。
そうか、〔ゼットロス〕が我啼の社員で、名前が是都か。アイツがあのセミナーで詐欺をしてたのか。
彼は偽名を使って変装もしてたから、なかなか正体が掴めなかったんだ。防犯カメラの映像も、画像検索でヒットしなかったし。
〔ゼットロス〕の携帯はゲーム専用だったんだろうな。追跡も出来なかった。〔みけりす〕も。あと〔モミジン〕にも会えなかった。」
「〔みけりす〕のは、〔ゼットロス〕から支給された携帯使ってたの。私もだけど。」
中森さんには、タイミングを見て記事を出してもらうようにお願いした。
そして出たのがあの記事だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます