第32話 歌蘭の話②

 私が誰かの人生を壊したのは2人目だ。


 1人目はダンス教室の坂田田原の元夫さん。

 2人目は投資セミナー講師の隅田さん。


 私をアイドルグループから追い出すために仕組まれた、高校時代のイジメは、本当に私はやっていない。いつもつるんでる友達が面白半分で始めたことが段々とエスカレートしたのだ。私はいつも止めていた。

 でも、そう言っても信じてくれないどころか、と言う。納得はいかなかったが、だと、全会一致の解釈だ。

 私はちゃんと助けてあげてたのに…。


 投資セミナーができなくなって、しばらく私の仕事が無くなった。

 是都が騙したお金で多額の利益を出し、それを騙された人達へ補償金として渡したので、警察沙汰になりかけていたのも立ち消えとなった。

 そして私は、ほとぼりが冷めるまで自宅待機だと言われる。


 少し間が空いて、次に是都これとから連絡があった時、「次はゲームに関する企画を立ち上げようと思うんだ。今までに無いものにしたいんだけど、それには今の流行りを押さえなきゃいけない。だから、オフ会を開いて、ゲーム好きな人の意見を自然な形で集めようと思うんだ。手伝ってくれるかい?」と言ってきた。


 今度は詐欺じゃなくて、まともな仕事そうだな、と思った。

 だけど、開催場所はまた山口県。

 なんで山口なんだろう…?

 不思議に思ったので聞いてみたけど、

「東京から離れてるし、投資セミナーのその後が気になるからね、ついでにちょっと様子をみたいんだ。」という理由で、大したものではなかった。


 「それから今回は、間川さんだけだと目立つので、友達を1人誘ってほしい。

 ただし、私も間川さんも、もう1人用意してもらう子も、知らない者同士という設定で。」

 という条件が付いた。


 ー私に友達なんて…いない。


 困ってた時、私が所属していたアイドルグループのメンバーで、元同級生だった絵梨エンリィから連絡が来た。

 エンリィと、“イジメられてた”と証言した子が話をしたいと言ってきたのだ。

 何今更?と思ったけど、暇だったから会うことにする。


 何の文句をまた言われるのかと心構えしてたら、2人とも「ごめんさない」と謝ってきた。

 まさか謝ってくるなんて思ってもなかったので不意を突かれ、不覚にも涙が出てきた。


 エンリィは「歌蘭が、汚い手を使ってセンターにいるのがどうしても許せなくてあんな事して追い出したけど、私はもっと最低だった。私がイジメのストーリーを作り出して、その通りだったと光莉ひかりに証言させたの。本当にごめんなさい。

 結局、グループは今度解散することになったんだ。だからっていう訳じゃないけど、どうしても歌蘭には謝らなきゃと思って…。」と打ち明ける。


 光莉は「駄念イジメの張本人さんが私をイジメてた時、ほとんどは間川さんのいない時で、“暇だから”ってやられてたの。でも、いつも気付いて止めてくれてたのに、こんな酷い仕打ちをしてしまってごめんなさい…。

 あの時の事は忘れようと思ってたから、つい、間川さんもそこにいたような?って記憶違いしてた。でも、よくよく考えたら違う、逆だと思って。」と言った。


 私はマジ今更と、モヤモヤして素直に許す気にはならなかった。でも自分も困ってたので、条件を出した。


「私と一緒に、山口で開催されるゲームのオフ会に参加してほしい。そしたら許してあげる。」

というものだ。


 エンリィは、解散に向けての活動があり、それなりに忙しく、しばらく時間が取れないと言う。

 光莉は割とゲーム好きで、是都が指定したゲームにハマってたそうだ。


 同行してくれるプラスワンは光莉に決定した。


 ただ、本当にただの市場調査的なものかと思ってたけど、最後に参加してきた〔松下村〕のせいで、状況が変わる。

 是都が、「〔オカジ〕が内緒でって言ったけど、『松下村』は〔オカジ〕の会社の社長らしい。

 これさー、運命だと思うんだ。間川さんさ、この社長のさ、弱味握ってよ。」と言い出した。


「ムリですよ!私、そんなことできません!」と強く断ると、


「プランはオレが考えるよ。ていうか、もう思いついてるんだ。君はその通りに動いてくれればいいから。」


「え?君って…?」


「もちろん、君と、一緒に行く子の2人で。」


「友達を巻き込むなんて、やめてください!私もオフ会は行きません!そんな詐欺や恐喝の手伝いなんてできません!」


「ふうん…じゃあさ、お母さんに『お金返して』って言ってよ。」


「お金?何のことですか?」


「お金を貸したのは君のだけどさ、別れて連絡が取れないらしいじゃん?

 だから、君のお母さんに返してもらわないとね。」


「そんな…。…いくらですか?」


「600万円。なかなかの金額でしょ?君が払う?」


「…そんなお金、ありません…。

 でも何で600万円なんて是都さんに借りたんですか?」


「ウチの会社の金融に借りにきたのを見かけてね、声をかけたんだ。彼がね『事業を始めよう思って』って言ってた。

 だから『ウチの会社、誰でも借りやすいけど、金利が高いから返すの大変ですよ』って言って、私が個人に貸してあげたんだ。すごく喜んでくれたよ。

 借用書には、君のお母さんのサインもあるんだよ。連帯保証人てやつ。

 それにね、私には色々手伝いをしてくれる恐くてありがたい人もいるんだ。逃げられないよ?」


「反社ですか?会社員がそんな人達とつるんでもいいんですか?」


「人が聞きが悪いね。普通に生活してる人でも恐い人はいるんだ。そういう人はパッと見分からないから…コワイよ?

 それから、恐喝なんてしない。そんな分かりやすい犯罪なんてしないさ。オレ品行方正だから、法に乗っ取ったやり方するさ。」


「…分かりました。私はやります。でも、友達は巻き込まないでください!全然関係無いですよね⁉︎」

 私の気迫に負けて、是都は渋々了承した。


「君が酔って具合悪くなったフリして、ホテルに連れ込んでよ。簡単でしょ?」

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