間川 歌蘭の語り
第31話 歌蘭の話
私は
母はシングルで私を産んだ。父親は誰か分からない。私の父は母の勤め先のラウンジのお客さんらしい。でも当時はモテ期で、何人ものお客さんと同時に付き合ってたので、どの人が本当の父親か分からないみたい。よく、本人だけはどの人か大体分かるらしいって聞くけど、付き合う人のタイプが似通ってるし、生理が不規則だし、いつも酔ってるから覚えてないと言う。
超テキトーな母だけど、それなりに私を育ててはくれた。“ただ一緒に寝泊りしてくれて最低限の必要なお金をくれた”というのが正しい表現かもしれない。私に対して全く関心は無かった。母には頼る人もお金も無かったし、私よりも精神年齢の低い少女のような人なので、しょうがないとは思う。
まあ、男を見る目が無いのが困るくらい。
お客さんの時は羽振りが良かったはずなのに、付き合い出したらヒモになるやつとか、最初からお金の無いやつとか。
母は、どうしようもない男を作り上げちゃう性分らしい。男に対してだけは、母性本能が働くそうだ。
高校生を卒業してフリーターをしてた時、母の彼氏はお金儲けのために「アイドルになれ。」と言って、私に半強制的にオーディションに応募させた。
当時はアイドル戦国時代と呼ばれ、アイドルの大型グループがいっぱいデビューして盛り上がっていた頃だ。
私は母に似て顔もスタイルも良いので(太れるまでの食べ物が無いというか…)、自信はあった。それに元々興味もあった。だから二つ返事でオッケーした。
オーディションを受けた事務所は、母の彼氏が「ここ受けろ」と指定したところで、簡単に合格できた。
後で聞くとキャンペーン中で、合格者の紹介者や応援者に1万円が当たるから、そこを指定したのだった。
その事務所を選んだ理由はどうあれ、私は受かったし、母の彼氏にも、なんと意外にも母にまで褒められて、認められた気がしてすごく嬉しかった。
ちゃんとレッスンも受けて、売れるアイドルになりたいと頑張る。
母から期待された事なんて一度も無かったのに、初めて母からも期待されて、益々ヤル気が出る。
アイドルで成功すれば、お金も母の関心も手に入れることができる。だから絶対にセンターを取りたいと思った。どんなことをしても…!
母譲りの色気で、レッスン先の先生を味方に付けて、私を猛プッシュしてもらうよう仕向ける。
もちろん人一倍レッスンするし、努力もする。絶対負けたくない!
そう思って頑張ったら、念願のセンターに抜擢されたの!
嬉しかった。母もすごく喜んでくれた!
でも、全然人気が出てくれない。アイドル戦国時代も陰りが見えてきたのか?埋もれて芽が出ないのか?いや、売れてるグループだってあるし、まだ大丈夫なはず。
事務所が提案した、『デートできるアイドル』っていう、何かを真似したようなキャッチコピーも売れるための戦略と、素直に受け入れて、人気もお金もトップに立てるようにまた頑張る。
母に、ファンの気持ちを掴むのってどうしたらいいかな?って相談したら、意外にも本気で考えてくれて、初めて私の目を見ながら語ってくれたの。
おかげで、私の“デート”では、皆喜んでいっぱいお金を使ってくれた。
それでずっとセンターをキープできた。
なのに…同じグループの敵にやられてしまった。
そう、グループのメンバーは仲間じゃない。皆、敵だった。
誰一人、私の味方をしてくれる人はいなかった。
私はグループを脱退せざるを得なくなる。
そんな時、母の体調が悪くなり、母は仕事が出来ない状態になってしまう。
相変わらず彼氏は使い物にならなくて、病気と同時に去って行ってしまった。
今度は私が働かなければー
でも、学歴もこれといった取り柄や資格を持たない私は、ロクな就職先も無いし、アイドルを辞めさせられた事で、母もまた私に無関心に戻るし…。
落ち込んでるところに声をかけてくれたのが
是都は、「君はとても魅力的だ。“デートできるアイドル”の君をずっと見てたよ。ファンがお金をあんなにたくさん使って、すごく喜んでるんだからさ、それはもうすごい才能だよ。」
と褒めてくれた。そして、
「君の力が必要なんだ。もしこの仕事が上手くいって業績が上がったら、また君がアイドルに戻れるよう、僕が事務所にプッシュするよ。2人で頑張ろう。」と言ってくれた。
私には渡りに船だ。給料も貰えて上手くいけばまたアイドルに戻れる。
そしたら母は私をまた見てくれる…。
仕事内容は投資セミナーを開催するアシスタントだ。
それとセミナーの参加者で、是都が指名した人を、指定された場所まで誘い連れて行くこと。
連れて行くだけで、話には参加しなかったけど、そのうちなんとなく怪しい事をしてるんじゃないか?と疑うようになる。
是都は私の働きをすごく褒めてくれるし、投資についても色々教えてくれる。
別に自分に害がある訳じゃないし、私は何も気付かないフリをする。
だけど…なんとなく気になって調べているうちに、是都が投資詐欺をしていることが分かった。そのうち、ジワジワと詐欺じゃないか?って言う話が広がってくる。
是都は私に、「セミナー講師の隅田が、詐欺をしていると噂を流せ」と指示してきた。
もちろん隅田さんは関係ない。私に指示を出すのは全部是都だし、隅田さんはとても信頼できる良い人だ。
でも、私が連れて来た人と話する時に是都が渡してた名刺は、『隅田』の事務所の名前が入った名刺で、住所は架空の会社、電話は是都に転送される物だ。
誰がどう見ても、隅田が絡んでると思うだろう。
私はすごく嫌だったけど、私に拒否する選択肢は無い。
私が隅田さんの仕事を、生活すべてを壊してしまった。
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