第30話 女詐欺師の正体

「ねえ三牙、ここにフリーライターの人が来たの。何を聞きに来たかと言うと、その…私がオフ会で聞いてきた“女詐欺師”の正体が、三牙じゃないかって…。」

 三牙がその話はしてくれないので、とっても聞き辛かったけど麻智の方から聞いてしまった。


 三牙は、何の事?っていうような顔をして首を傾げる。

「え?何でオレが“女詐欺師”?オレ、男だけど?」

「私もそう言ったんだけど…。」

「ん…?あー、もしかしたらアレかなぁ…?」

「やっぱりそうなん?」

「いやー、オレは詐欺をしたつもりは無い。でも、もしかしてっていう心当たりは無くもない。」

 三牙はまた少し話にくそうに話し出す。


「オレ、実は学費稼ぐために“ミックスバー”でも働いてるんだ。」

「ミックスバーって?」

「普通のノンケでも、LGBTやジェンダーとか、男装・女装した人とか、どんな人でもオッケーなBar。

 オレさ、そこでバイトする時女装してたんだ。店長に“君は女装の方がウケる!”って言われて、やってみたら意外にハマっちゃって…。

 そしたらある日、どっかの会社仲間の団体が来て、そん中に居心地悪そうにしてる女の子がいたんだ。

 名前は“ヒカリ”って言ってた。本名かどうかは分からんけど、多分本名かな。

 その“ヒカリ”が、オレとだったら話し易いって話してくれたんだ。『男の人も飲み会も、こういうお店も全部苦手だけど、“がっちゃん”は大丈夫。』って言ってくれて。あ、“がっちゃん”てオレの源氏名ね。

 それから友達と一緒に何回か店に来るようになったんだ。

 で、なんかすっげ冴えない顔してる日があって、聞いたら『オフ会っていうのに誘われて、断れなくて困ってる。』って言うんだ。

 嫌なら断らなきゃって説得したんだけど、『なんか、誘ってくるのがグイグイ来るタイプの人で断れない。バイト代払うので、仕事として私の代わりに行ってもらえないかな?』って強引にお願いされたんだ。

 オレにそんなに押しが強くできるんなら、断れるだろって思ったけど、バイトならいっかと思って、“ヒカリ”になりすましてそのオフ会に参加したんだ。

 で、そん時のオフ会で会った男と盛り上がって、つい店の名刺を渡してしまって…。

 丁度さ、“ヒカリ”が使ってたハンドルネームが[ガチャプン]でさ、オレが“がっちゃん”と呼ばれてるのが丁度ハマってたんだ。

 で、そいつもそれから店に来て、いっぱい金使ってくれた。

 てっきりオレが男だってバレてると思ってたのに、ある時『結婚して!』ってマジ顔で言ってきたからさ、『オレ、女装してるだけのノンケだよ。』って言ったらびっくりされて、『騙されたー!』って泣いたんだ。オレが本当の女だと思ってたみたい。

 それからそいつが『詐欺師だ!』って多分どこの飲み屋行っても言いふらしてるみたいで…。

 でもさ、お店でお金は使ってたけど、ぼったくりじゃないし、オレが直接お金もらったことも無いよ。

 …っていうのがあったけど、それかな?」


 「…きっと、それだね。」


「あとはさ、実はその“ヒカリ”って子にお金借りてる。支払い日にどうしてもお金が無くて、店で困った顔してたら事情聞いてきたからつい言ってしまったんだ。

 そしたら、この前助けてくれたから、今度は私が助けるって言ってくれて、つい甘えてしまった。

 でも、バイトのお金入ったから、ちゃんと返すって何回も言ってるんだけど、『また今度でいいよ』って全然受け取ってもらえなくて…ちょっと困ってる。

 麻智には言いにくいけど、『お金返さなくていいから結婚して』って言われてるし…。冗談か本気か分からないんだけど。

 それでさ、ちょっと前から俺の店用の携帯が残高不足で止められててさ、しばらく気付いてなかったんだ。店でも会ってないし、もしかしたらその“ヒカリ”って子がそう言ってる可能性も無くはないかも。」


 麻智は、“ヒカリ”という子の存在がすごく嫌な気分だが、本当に詐欺を働こうとしたんじゃないと分かってホッとした。

 そして中森に連絡して、三牙から直接聞きたいことを聞いてもらった。


「なんだー、そっか。でもまあ良かった。正直、“被害にあった家族の末路”っていう記事書けそうかな?と思ったけど、全然違ってたんだ。」

「え?そんな酷い記事書くつもりだったんですか?」

 中森が言った言葉にすごくムカついて、麻智は怒って中森に抗議する。


「すみません、商売なもので。

 “詐欺の連鎖”っていう内容は、かなり読み手の興味をそそるかと思ったんで。

 読まれないとスクープした意味無いですからね。

 でも、そりゃ怒りますよね、本当にすみませんでした。」

 

「もし、三牙が本当のことを話さなかったら、どうしてたんですか?」


「あー、“こんな噂あります”的な感じで書いてたかも…。」


 それを聞いて麻智も三牙も、中森と話できて良かったと思った。勝手にそんな話を作られたらたまったものじゃない。

 絶対そんな記事出さないで!と念を押した。


「あのさ、もう一つ黙ってたことがあるんだ。」

この話はこれで終わりだと思ってたら、三牙がま話始める。

「実は、麻智のお父さんと中森さんが参加した時の写真を麻智に見せてもらってびっくりしたんだけど、オレに身代わりを頼んだ“ヒカリ”って子は、間川と一緒に参加したもう1人の子なんだ。」


「え⁉︎嘘…。」

麻智は言葉を失う。


「“ヒカリ”から、お店で使ってる携帯に『山口で開催されるオフ会に参加してきます』ってメール入ってたから、もしかして…と思ってたけど、やっぱりそうだった。」


「三牙…それも私に隠して、知らないフリしてたんだ…。」


「ごめん、それ話すとさ、全部話さなきゃいけなくなると思って…。」


 隠し事だらけの三牙に、麻智はさすがに不信感を抱いた。

「ねえ、いくら付き合いが浅くても、ちゃんと話してほしかったよ。

 私って、全然信用されてないんだね…。」

麻智がそう言い出すと、


「あー、まあ、大きく見えるけど、全部で1つのくくりだからさ。」

と中森が口を挟む。続けて、

「そういえばさ、その“ヒカリ”ちゃん、あのオフ会ですごく元気無さそうだった。全然話してくれないから連絡先聞けなかったんだよね。

 三牙くん、“ヒカリ”ちゃんの連絡先聞いてもいいかな?それと、君と間川さんの仲介役してた人の事も教えてよ。」と言う。

 中森が、麻智が怒るのを止めたのは、やっぱり情報をもらうためだ。


 麻智はどいつもこいつも…と思って呆れて怒るタイミングを逃してしまった。

 

「私はこれで失礼しようかな。“ヒカリ”って子はまた何か分かったらお伝えしますよ、。」

そう言い残して中森は、用事が済んだら早速さと退散する。

 そこで中森とは別れた。

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