中森の記事で
第29話 雑誌のスクープ記事
麻智のアパートへ郵便が届いた。差出人はフリーライターの中森だ。
中身は『エレットリク』という雑誌で、スクープ記事が載っている。
『大手会社の闇 芸能事務所とグルか⁈
詐欺部の活動』
というものだ。
内容はー
**
『最近急成長した会社がある。元々は小さな会社からスタートして堅実に業績を伸ばし大きく成長していたが、創設者の社長が体調不良のため代替わりとなる。
新しい社長が色々な分野へ手を伸ばし、そこからさらに会社は大きくなっていった。その色々な分野の中に、芸能事務所との提携もある。
だが、手を広げ過ぎたことと、時代の波に乗り切れず、会社の業績が悪化する。そして近年、倒産間近と噂されていたのだが、その頃からある部署で詐欺活動が行われるようになってきたのだ。
後に詐欺を行う部署は“
会社の名前は
創生部はまず、提携してる芸能事務所のアイドルグループの売り出し活動を始める。
CDの大量購入特典で、“推しとデートできる券”獲得挑戦券というものを作った。
見事当選して、“推しとデートできる券”を使うと、指定されたデートコースで推しメンバーとデートができる。指定されたコースは全部、
断っておくが、これは詐欺ではない。CDを購入する人は納得して買っているし、ちゃんとデートも実行されている。
CDは売れるし、ファンも“やってあげたい”欲求を満たせるし、我啼会社関連の売り上げも上がる。ネットに上げると宣伝にもなる。
ネット配信のため、動画を撮影する第三者が必ず同行するので、アイドルが危険な目に合うことも防げる。というものだ。
しかし、それは全くと言っていいほど上手くいかなかった。
人気と売り上げが1番の人に次のセンターを任せるというルールが、グループの雰囲気を悪くし、ファン同士も敵対する者が出てきたり、ストーカーになる者も作った。何より、グループの人気がイマイチだった。
始まりは健全な方の戦略だったが、そのうちにデートクラブのようになり、裏では体を使ってファンを獲得する者まで現れてくる始末だ。
グループ内はさらに雰囲気が悪くなり、トラブルが発生して、狙われた1人が脱退することになる。
それがMだ。
創生部の仕事はアイドルグループの活動だけではなかったが、どれも上手くいっていなかった。
責任を追求され、酷く叱責された社員Kが次に思いついたのが詐欺だった。
Kは部署の一部精鋭メンバーと、アイドルグループを脱退したMに目を付けた。Mには“上手くいけば新しいグループで再デビューさせる”という甘い話で仲間に誘い入れた。
Kは投資セミナーを山口・九州で開催する。Kは表には顔を出さず、セミナーに関する事は全て部下に任せていた。しかし影では、セミナーに参加した投資初心者の中でターゲットを見つけると、Mに“貴方だけ特別です”と声をかけさせ、個別面談という形で未公開株への投資を誘う。
Kは投資家に偽名を使い、セミナー講師の会社の住所を載せた名刺を渡している。
ターゲットには未公開株に多額の投資をさせ、その後その会社を倒産させるという手口を使った。
未公開株として紹介するのは架空の会社であり、もちろん詐欺である。
そして騙し取ったお金は、K個人の投資で利益を出し、利益分を我啼会社の売上として計上した。
そのうち詐欺という噂が流れ始めると、セミナー開催にあたり講師を依頼したファイナンシャルアドバイザーに全ての責任を被せ、Kは我関せずとした。
Kは元々は証券会社に勤めていた過去はある。さらにセミナーで得た知識も加わってなのか、騙した金を元に投資を行い、それが莫大な利益を産んで我啼会社は急成長を遂げた。
会社が莫大な利益を得た後に、セミナー主催者であった会社からの補償金として、騙した方への元金は返済している。
我啼株式会社が、詐欺行為を行っているという噂が流れないように、被害者救済という形の口止めをしたのだ。
しかし何故、Kは株の投資で莫大な利益を上げることができたのだろうかー?
また、詐欺に加担した元アイドルMは、階段から落ちるという事故(?)に会い、現在入院中である。
(取材担当:中森)』
**
この記事を読み終えたところで電話がかかってきた。
中森からだー
「柳井田さん、お久しぶりです。私が書いた記事が載ってる雑誌をお送りしたんですが、届いていますか?」
「はい、今ちょうど読ませていただいたところです。でも、なぜこの雑誌を私に?」
「うん、取材協力をしていただいた方に送ったんだ。もちろん貴女のお父さんにもね。」
「中森さんは、この事件について調べてたんですね。すごい…単なる元アイドルの突き落としだけかと思っていたら、こんな詐欺だなんて。しかも、私でも聞いたことのある、あの会社だなんて。」
「そうだね。ところで彼は戻ってきたのかな?」
「いいえ、それがまだ…連絡も取れてないです。」
「そっかー残念。でも、それは心配だね。」
「はい、すみません…。」
「いや、柳井田さんが謝ることではないので。」
そう言って中森との会話は終了した。
*
しばらくしてピンポーンと家のチャイムが鳴る。玄関のドアを開けるとそこに三牙がバツの悪そうな顔をして立っていた。
「お、おかえり…。」
「た、ただいま…。」
何となくギクシャクとした感じで、麻智は三牙を部屋の中へ招き入れた。
部屋に入って三牙は『エレットリク』の雑誌が目に止まりハッとする。
「何でこの雑誌?読んだ…よね?」
「うん、三牙ももう読んだの?」
「うん。」
「ていうか、今までどこで何してたの?」
「警察行って、事情聞かれて…上京して来た母親と会ってた。」
「そうなんだ…。私、聞いてもいい?」
「もちろん。その為に来た。」
三牙は私が淹れたコーヒーを飲みながら、お父さんの事を話してくれた。
三牙の話はほぼ雑誌に書いてある通りだった。でも、三牙の話はそれで終わった。
私が知りたいのはまた別の話、中森が聞きたがっている“女詐欺師”のことだ。
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