第18話 隠された真実

 男子児童はガラの悪い男が消えたのを見ると背負っていたリュックから本を一冊、手に持っていた図鑑と交換する形で取り出そうとしている。

 ここで保が動き出した。

 男子児童が力を使う前に自分のスマホを取り出し撮影ボタンを押すと、本をリュックサックから取り出している瞬間の男子児童の写真が撮れた。

 その様子を見て男子児童は焦ったのか、手に取った本を地面に落としてしまった。

 保はさっき撮影した写真に手を触れる。

 少し遅れて落ちた本を拾うため一瞬目を下に向けた男子児童が保の方に視線を向けた。そこには保と写真から取り出された自分自身の姿があった。

 保が取り出した男子児童の手にはリュックサックから取り出そうとしていた本が握られている。

 どうやら力で人物を取り出す場合、手に持っているものも一緒に取り出すらしい。

「頼むぞ」

 保がそう言うと、取り出された男子児童と本物の男子児童が全く同じ動きをした。本から力を使って取り出す。二人が取り出したのは同じ人物。

「なんでもありか」

 保はポツリそう呟いた。

 保の目の前には、男子児童が握っている本から取り出された架空の存在であるファンタジー世界の女騎士が二人いた。

 女騎士が一瞬で互いの距離を詰め刃が交わる。

 その衝突の勢いで周囲の建物の窓が割れ木々が揺らめいたと思ったら、女騎士はどちらも唐突に消えてしまった。

 保の目には特にどちらもまだ傷ついてはいないように見えた。

「どうなってる?」

 疑問に思い保は自分が取り出した男子児童に尋ねた。

「力で取り出したものはずっと取り出した状態が続くわけではないです。例え傷ついていなくてもある一定の時間が経てば消えます。その時間は取り出したものごとに決まっていて強力な存在は数秒間しか取り出すことはできません。そして、それをもう一度取り出すにはしばらく時間を置かないといけません。こちらも強力な存在であるほど長くなります。また全てではないですが架空の存在を取り出した場合はその後、力が一切使えなくなるインターバルに入ります。あの女騎士を取り出した場合のインターバルは二十四時間。つまり……」

「もう相手は無力ということか」

「ええ」

 男子児童を見ると「くそ、くそ」と言いながら手から血が流れるほど強くアスファルトの地面を拳で叩いている。

「そんな使い方もできましたね」

 男子児童は目に涙を浮かべながらこちらを見る。

「そんな使い方?」

「力の制約や詳細を取り出した本人から直接聞く方法です。僕の力の制約は取り出す目的のために必要な情報がわかっていないと取り出すことはできません。つまり、お兄さんを倒すのにお兄さんの力を使って倒そうとするなら、お兄さんの力を分かっておく必要があったんです。ただ、今思うと事前にお兄さんを取り出しておいて力を聞いておけばよかったですね。頭がそこまで回りませんでした」

 保の取り出した男子児童が答えた。

「さっさと殺してくださいよ。それとも殺すことに抵抗があるのかな?」

「お前は抵抗がないのか?」

「お兄さんが取り出した僕に訊けば?」

男子児童はすねた様子で言った。

 保が自分の取り出した男子児童に訊こうとした時、時間だったのか取り出した男子児童が消えてしまった。

 その消えた様子を見た男子児童は「フッ」と鼻で笑うと消えた自分の代わりに答え始める。

「そもそもこの国に人を殺すことに抵抗のある人なんかいないですよ。正確に言えば統選者選抜の参加者が同じ参加者を殺してもいいという法律や制度に則って殺す場合にかな? お兄さんは、この国の統選者という存在またはその制度に少なからず違和感がある。違う? お兄さんだけじゃない。この統選者選抜の参加者はそういう人物が選ばれている」

「どいうことだ?」

「なんで統選者を選ぶのに殺し合いなんていう物騒な制度を取っていると思う? そしてなぜ殺し合うなんてことが平然と認められていると思う?」

「力によって平和が保たれているからじゃないのか?」

「それは前者の話? それも間違いではないかもね。じゃあ、後者の答えは?」

「……ずっとそうだったから」

「うーん。確かにあたりまえのものとして存在しているなら違和感を持つ人も少ないのはわかるよ。でも少なすぎるんだよ。違和感を持つ人が。だって人を殺すんだよ? 殺し合いだよ? 殺し合いが日常の光景ならともかく統選者選抜の時にしか起きない殺し合いだよ? いくらなんでも変でしょ? だから、統選者選抜が始まってから確認したよ。この力を使って。何かを知ってそうな監視省監視部監視長の白神さんに。そして知ったんだ。このおかしな原因はマイクロチップによる──⁉」

 男子児童が重要な何かを言いかけたその時、男子児童の体は保の目の前で爆散した。

 突然の事に保は何が起きたか理解できず、ただその場で呆然としていた。


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