第15話  短期決戦

 手に持っていたレジ袋の中からペットボトルのスポーツ飲料を手に取り喉の渇きを潤す。

 喉の渇きを潤した保は荷物をコンビニ横の建物の壁に置き、元の場所に戻る。

すると、どこからともなく「早く戦えよ」という声が聞こえてきた。

 二人の様子を遠くから見物していた人の声だ。

 統選者選抜の殺し合いというものに興味があるのか。やはりこの世界は異常だ。

 保は大きく深呼吸をして、その場で数回ぴょんぴょんと軽く飛び跳ねる。

「来いよ」

 保は右手を前に出し手の平を上に向け、指をくいくいっと曲げる。

「そうこないとな!」

 男が前方に飛び出し、男の右手が保の顔面を狙うが保は左腕で男の右手を払う。

 その際わずかに男の手が保の左肩に触れた。 

 続いて男の左手が保の顎を狙ってくるが、保は上半身を軽く後ろに反りそれを避ける。

 それを見た男は右足で地面を蹴って勢いをつけ左足を軸に回転し、そのまま右足で保の左脇腹を狙う。

 保は手でそれを止めることもできたが、上半身をさらに反って男の蹴りを避けた。

 男の右足はベルトを掠め、保はそのままバク転をして男から離れる。

「避けんねー」

「……」

 男に触れられたシャツの左肩部分が不自然に破れている。 

「……お前の力は触れたものを壊す力か」

「……」

「お前に触れた他の場所が無事であるところを見ると、力の制約として直接お前の肌が触れないと壊せないといったところか。ただ肌に触れた左腕のシャツが破れていないから、こっちから触れるなら大丈夫そうだな」


 力には制約や条件みたいなものが存在する。そして強力な力であるほどその制約や条件が厳しい傾向にある。


「……正解だ。よくわかったな。短い殴り合いしただけなのに」

「事前情報のおかげだよ。普通拳が当たっただけでレジ袋は破れない」

 保は破れたレジ袋に視線を向ける。

「なるほどな」

 男はボンタンの裾を膝上までまくる。

「随分あっさりと認めるんだな」

「違うって言っても信じないだろ」

「まあ、さっきの正解も含めてあんたの言うことを百パーセント信じるつもりはない」

「そうか」

 男はこの戦いを本当に楽しんでいるようで笑顔を絶やさない。

 一方で保はため息をついてその場にヤンキー座りをする。

 その様子を見た男からは笑みが消え、少しだけ困り顔になった。

「何してんだよ? さっさと立って続きしようぜ」

「攻撃かわしたんだから俺の勝ちでいいだろ」

 保は下を向き自分の腹辺りを掻きながら面倒くさそうに言った。

「はあ? 何言ってんだよ。戦えよ。お前も力、解放されてんだろ?」

 男はそう言いながら保に近づいて来る。

「……」

保は近づいてきた男の左足首に素早く叩くような感じで一瞬だけ手を触れた。

 すると男はバランスを崩し尻餅をつく形で倒れてしまった。

「リアルの戦いって漫画やアニメみたいに長期になることないんだな」

「てめえ、何を……」

 男は自分の左足首に痛みを感じていた。立ち上がった保のシャツの前ボタンはなぜか壊れている。

「骨折でもしてんじゃないのか? 病院に行って医者にでも診てもらいな」

 保は置いておいたコンビニの袋を再度持ち地面に散らばっていた自分が買った商品を拾い上げ、自転車のかごに入れる。

(アイス溶けてる……)

「待てよ。これがお前の力っていうことか? 俺と同じ力か? コピーか? なんで俺の力が【触れたものを不完全に破壊する力】って分かった?」

「自分の力ペラペラ話わけないだろ」

 保は男にそう言い残すと家への帰路についた。


 翌日、男はある工事現場で地面から生えた謎の岩に串刺しとなり統選者選抜から敗退した。


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