第13話 違う

「その死ぬんだしは俺が死ぬということか?」

「あたりまえだろ。俺がお前に負ける要素がどこにある?」

 そう言われて保は男の体を観察する。

 保は同年代の子よりは筋肉がついている方だが、それ以上に男は筋骨隆々で身長もある。筋肉は剛というよりは柔に近い感じだ。

「容姿と中身が必ずしも一致するとは限らない」

「言うじゃねえか。なら、俺を殺せるのか?」

 男の問いに保が黙り込む。

「ほら、見ろ。自分でも分かってんだろ? お前は俺を殺せない」

「人を殺すことにためらいはないのか?」

「ためらい? そんなものはねえよ。そもそも、この統選者選抜では統選者を決めるために相手を殺していく必要がある。そして、その人殺しは法律で認められている。どこに迷う要素がある?」

 男はまるで人を殺すことができることに喜びを感じていることを見せつけるかのように饒舌に語る。

「まあ、統選者を決めるのに人を殺し合わせる必要があるのかは疑問だがな」

「ほー、殺し合いに疑問を抱いているのは意外だな」

「意外?」

「ああ意外だ」

 男が「意外」という言葉に引っ掛かるのも無理はない。

 統選者選抜で行われる殺し合いについて疑問を抱いている人物はこの国にほとんど存在しないのだから。

「どうせお前も他の奴と一緒で、統選者を決めるために殺し合うのは当然って思っている口だろ」

「そんなことはない。俺もあんたと同意見だ」

「あ?」

 保の発言に男は面食らう。

「俺と同じ?」

「俺も統選者を決めるために殺し合いをさせることには疑問を抱いている」

「は、はははははは」

男は手で顔を覆い、声高らかに笑う。

「笑う要素あったか?」

「俺と同じ考えの奴に初めて会ったよ。しかも、統選者様じゃなくて統選者って呼ぶところまで一緒」

 男はまじまじと保を見つめたあと真面目な顔になった。

「だが……」

「?」

「違うな。俺とお前じゃあ」

「……そうだな」

 そう二人の意見は同じようで違っている。

 統選者選抜の殺し合いについて二人は疑問を感じている。

 しかし、二人には決定的に違う点がある。

 それは、一方は人を殺すことにためらいがなく、もう一方はためらいがある点。

 この違いは殺し合いの統選者選抜では大きな意味を持つ。

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