第2話 妹との会話
夕食後。食器類を洗い終えた母は今日はもう子供たちと話さないと言った事を本当に有言実行し、父と二人リビングで楽しそうに会話をしている。
一方の子供たちは食事が終わると、そそくさと二階の自分たちの部屋まで戻っていた。
保がベッドの上で俯けになり手持ち無沙汰に有を待っていると、しばらくして部屋の扉が前触れもなく開いた。開いた扉の隙間から有が顔を覗かせる。
「ノックは?」
「してない」
「……しろよ」
有は聞いているのか聞いていないのか、それとも興味がないのか、悪びれた様子もなく部屋に入ってきた。
保が起き上がりベッドの上に胡坐を掻いて座ると、有はベッドに保とは少し離れた位置に腰を掛ける。
「用件は?」
「さっき変なこと言おうとしてただろ?」
「変なこと?」
「夕食の時、統選者選抜について余計なこと言おうとしてただろ」
「余計なことなんて言おうとしてないよ?」
「本当に?」
「否定的なことは言おうとしたけど」
「有……」
「……はいはい。分かってますよ。余計なことでした。ごめんなさい」
とてもそう思っているとは思えない。
「でも家族にもダメなの?」
「家族でも言わない方がいいことはある」
「でも、お兄ちゃんも思っていることでしょ? 小学生の頃、学校でそういった発言してたじゃん」
「経験したから言っている」
小学生の頃、保は統選者選抜についてどこかおかしいという感情・感覚を覚えた。統選者選抜について学んでいる授業中、自分の考えを伝えた保はクラスで孤立した。孤立と言っても保から話しかければ無視せず会話はしてくれたのでイジメという感じはしなかった。クラスメイトも子供ながらにあまり関わらないようにしようとしていただけなのだろう。
「パパとママにも言ってたっけ?」
「言ってない」
「じゃあ、経験してないじゃん。家族になら言っても大丈夫だよ。きっと」
「甘いな」
保はそう言ってスマホで何かを検索したあと、スマホ画面を有に向けた。有は前のめりになって画面を覗く。
スマホ画面には『ありえない! おかしな発言をする子供が増加中』という見出しのネットニュースが表示されている。記事の内容は、統選者あるいは統選者選抜に否定的な意見を言う子供が増えているというもの。その子供の中には親に精神科へ連れていかれたという子もいるらしい。
「うーん」
「な」
画面をスライドさせて記事を読み進めるほど、有の顔は険しいものへと変わっていく。
「この記事本当? デマじゃないの?」
「デマかはどうかは分からない。ただテレビのニュースでも取り扱っていた」
「へー」
有はスマホの画面を見るため少し前のめりになっていた姿勢を元に戻す。
「変だよ。絶対。ここまでする必要ある?」
有の意見はもっともなことだろう。保もこの意見に同意している。
「分かったら、両親にも言うなよ」
「ふーん。まあ、別にいいけど」
話が終わったとみると、有はベッドから立ち上がり自分の部屋に戻ろうとする。
「おやすみ」
「まだ、寝ないけど?」
有は後ろを振り返りジト目で返事をすると保の部屋を後にした。
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