十五

『薬は濃縮してある。使う時は水で溶いて。袋に書いといたから』

 調合室兼実験室はいつ来ても変わらない。せまくて、ごちゃごちゃして、変な臭いがする。美園さんは小分けにした密封袋をならべた。

『こんなにあるの?』

『半年分だけど、半分は予備のつもり。なにかあったときのために別々に保管しとくといいよ』

『ありがと』


 明り取りからこの季節のやわらかい光がさしこんできた。


『なんで、書類に自分のことも入れなかったの』

『あれは賭けだった。王を感情的にさせたら元も子もない。そのぎりぎりの線だった。城勤めのぼくまで不可侵にしたら激怒されていたと思う。だから、君だけでもって』

『そう。優しいのね』


 優しい、か。

 さあ、いわなきゃ。


『ちょっといいかな?』


 美園さんはぐるりと壁や天井を指さして、メモ板と木炭をだしてきた。


『いいんだ。ちゃんと言葉で伝えたいから』


 そばに来る。


『美園さん、約束する。かならず帰ってくる。ここに』


 目が見開かれ、微笑み、小指を出す。からませるとささやくように、指切りげんまん、を唱えた。


『約束したからね。健』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る