十一
野々宮さんは衛兵に連れられて出ていった。なぜかうれしそうじゃなかった。
健はすべてを話した。といっても書類にあるとおり、ここにあらわれてからのことのみだった。つまりほとんど新しい情報はない。なにかの計画などないし、帰還予定もない。わからないものはわからないし、出現以前の日本のことを話す契約はない。
そして、これが最終回答となるので、以後同様の問いに答える必要もなくなる。
話し終わったころにはすっかり日が暮れ、灯りがともされた。
「オノウエよ。おまえ、ほんとうになにもわからぬのか」
王の声には哀れみがにじんでいた。
「そう申しあげていたはずです」
両脇で姫姉妹たちも目を丸くしていた。すこししてもトリナ姫はとまどったままだったが、サナルカ姫の目は笑いに変わった。
「こんな引っかけをしおって、もしわたしが怒りのあまりわれを忘れたらどうするつもりであった?」
「それはあり得ません。そのような方でしたらその玉座には座っておられません。王は冷静に損得勘定がお出来になる方です」
王は笑った。底抜けの大笑いだった。
「よし。よい。今日は下がれ。空白地帯に遠征するときは呼びだす。お前にも計画立案に加わってほしい。よいな」
健は礼をしながら様子をうかがった。廷臣たちが小声でざわめいていた。また、かれらは王とサナルカ姫の機嫌が非常に良くなったことを不思議がっていた。トリナ姫だけが廷臣たちも理解できる不審な表情をしていた。それらを背中で感じながら、すみやかに王の広間から下がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます