七
薬を受け取り、今後のことを相談した。といってもいつもと変わらない。もっと調べてみよう、というだけだった。
『もうちょっと頻繁に会えない? 二、三カ月に一度で数時間じゃ情報交換しかできない』
『そうですが、ぼくの立場が立場なので。この腰痛が治ったらもっと減るかも。魔王軍をほぼ壊滅させたでしょ。それで王は空白地帯の支配を考えてるんです』
『遠征する気? じゃ、尾上クンも?』
『確実に連れていかれます』
『そんな』
器具を洗う手が止まり、それに気づいてまた動かす。
『あたしたち、無力ね』
『わからないこと多すぎ。いっそ、なにもかも話してここの人たちも巻き込みますかね』
『そういうのしないほうがいいっていったのは尾上クンだよ』
『そうでした。ここの王や貴族たちを見るかぎりほかの世界があるなんて知ったら目の色変えるだろうな。文字通りの帝国主義者だし』
『城にいるの、あぶなくない?』
『そこはだいじょうぶ。手は出させない。文書管理はぼくが一手にやってるから。ここの連中、文書管理どころかそもそも管理って概念もなかったし、人を育ててもいなかった。いいかげんですよ』
『だめだよ。そうやって見下したら。そりゃ遅れてる部分もあるかもだけど、ここの人たちはばかじゃない。理解する力は変わらないよ。あたしの親を見ればわかるでしょ』
『そうだった。ありがとう。おかげで助かった。自分が知らないうちに落とし穴にはまりかけてたのに気づいた。先輩と話せてよかったです』
野々宮先輩は机を回ってこっちに来た。近すぎる。調合室兼実験室は広くはない。
『ねえ、先輩っていうのもういいんじゃない? ここでの暦の年齢はおんなじなんだから。あたしもクンとかつけて年上ぶらないから……』
下を向いてしまった。
『名前で呼んでもいい? 健ちゃんとか、健とか。あと、ですとかますとか、そういうのもいいから、ちょっとずつでも減らしてこ?』
『いいですけど、照れるな。ずっと野々宮先輩だったから。じゃあ、美園さん、かな』
顔を上げた。近くでじっと見るとほんのちょっぴりそばかすが散っている。
『健ちゃんっていうんなら、みぃちゃんはどう? 子供っぽいか』
首から真っ赤になってきた。いけない。怒らせたか。ぼくはすぐに調子に乗ってしまう。
『すみません。やっぱり美園さんで』
まわりが急に明るくなった。天井の明り取りから日がさしたのだった。
と、いうことは……。まずい!
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