第7話

 オリオン星座にむかって  2


 雪の精は、三度その詩を歌いました。そして雪の精がその詩を歌い終わりかけたときです。今まで静かだった周囲の気配が少しずつざわつき始まました。同時に、あたりが真昼のように明るくなりました。健太は、一瞬、めまいを覚えました。

 「なあに、何の音なの。それに、どうしてこんなに明るいの?」と健太は、雪の精に訊きました。

 「天の川よ。」と雪の精がこたえました。

 「健太くん、右の方を見てごらん。ね、きれいでしょう。あれが、天の川よ。」

 それは、何ときれいな光景だったでしょう。さきほど、地上で仰いだ天の川が、いま、無数の真珠を散りばめた帯のように、健太の目の前にてしなく流れ続いています。


 しばらくして雪の精が言いました。

 「さあ、もうすぐよ。オリオン星座は間近だわ。健太くん、わたし達はオリオン星座の真ん中の星、上から数えて三番目の星、その星の、山と丘とに囲まれたある湖水のほとりにつきます。なぜなら、その湖水の岸際に、健太くんのお父さんとお母さんとが住んでいるのです。健太くんのお父さんとお母さんは、そこで民宿を生業なりわいとしているのです。湖水の景観がよいのと湖水でとれるお魚の料理が美味しいのでいつもお客でにぎわっているわ。


 健太くん、先程の約束は覚えているわね。お陽様が水平線の彼方に昇る前にわたし達は還るのです。おばあさんが、目を覚ます前にね。オリオン星座の時間の流れは、健太くんの住んでいる星よりもはるかに速いの。だから、健太くんは、オリオン星座には相当な期間いられるわ。湖水のほとりの丘の上に三本の桜の樹があります。わたしがそこに迎えに来ます。わたしの合図は、さっきの歌よ。わかった?」


 健太の目の前には、大きな七つの星がぐんぐん迫って来ました。

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