第3章 オリオン星座にむかって

第6話

 オリオン星座にむかって  1


 健太を乗せた紙は、上昇を始めました。最初はゆっくりだったのですが、丁度、健太の家の背後にそそり立っている山の頂と同じ高さになると、ぐんぐん速力を増し始めました。地上の物影はみるみる小さくなっていきます。雪をかぶっている家も木立も林も山も、それから銀色に輝いている海も、まるで点在する米粒ほどの大きさです。やがて、その面影も消えて、健太の住んでいる大地はまるい球体に変容してきました。その球体も、まもなく無限の天体に輝いている星と同じほどに小さくなりました。その間、どれほどの時間が過ぎたでしょう。健太は、まるで夢の中の世界にいるかのようにぼうっとしていたのです。


 「ぼくは、夢を見ているんじゃないか。」

 実際、健太は、そう呟きました。そして右手でおそるおそる頬をつねってもみたのです。

 「痛いッ、やはり夢じゃない。本当なんだ。」

 そう健太は、呟きました。すると前をとんでいる雪の精が言いました。

 「ホ、ホ、ホ、ホ、ホ。健太くんは夢を見ていると思っているのね。でも、これは夢ではないわ。ああ、ほんとうに、わたしは、良い子が好き。わたしは、良い子が大好きなの。良い子と一緒にいると、わたしは、歌いたくなるわ。」

 そう言って、雪の精は、きれいな声で歌い始めました。


 秋が過ぎ 冬が来て


 わたしは 空高くかけめぐる


 苦しみも 悲しみも


 それに打ち克つ 良い子のために


 わたしは 空高くかけめぐる


 ああ あの オリオンの星座


 幸せのときのめぐりを


 この子とともにおくります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る