第2章 吹 雪

第3話

 吹 雪 1


 相変わらず戸外には風がビュービュー吹いています。雨戸がガタコト音を立てています。健太は、一生懸命に封筒をつくり続けました。残りがあと五十枚ほどになると健太はフゥーと溜息をついて、

 「あと、五十枚だ。」と呟きました。


 丁度、その時です。健太の耳元に、トントントン、トントントン、という雨戸を叩く音がしたのです。雨戸は、部屋を出た三尺廊下の外側にあります。健太は、頭を挙げて雨戸の方に聞き耳を立てました。が、先程から、ヒューヒュー唸っている風の音と、ガタコトガタコト騒いでいる雨戸の音と、それから、ドッドッドッ、ドッドッドッ、と迫ってくる海鳴りの音とが聴こえてくるだけです。


 「なあんだ、風の音か。」

 健太は、そう呟いて、また元の仕事を続けました。が、健太がもう一枚の紙を折ろうとした時です。今度は、健太の耳元に、「もしもし、もしもし」という人の声が聴こえました。健太はハッとしてまた頭を挙げました。そうして、「いま、誰かぼくを呼んだ?」と訊きました。しかし、そばにいるおばあさんは眠っているのです。まして、この吹雪の夜に健太の家を訪れる人はいないはずです。健太が不思議そうに周囲を見回したときです。また、雨戸の方で、トントントン、トントントン、という音がしました。健太はその音を耳にすると、「誰か来たのかな」ともう一度呟き廊下の外側の雨戸のそばに寄りました。そうして、雨戸を開けました。すると、ヒューという烈しい風の襲来と共に、沢山の雪が家の中に吹き込んできました。戸外には、誰もいなかったのです。


 「おかしいな。」

 そう思って健太は雨戸を閉め、部屋にもどって仕事を続けました。

 ところが、健太がまた一枚の紙を折ろうとしたときです。今度は先程よりも大きなはっきりした声で、

 「健太くん、健太くん。」と健太を呼ぶ声がしました。

 健太はまたハッとして頭を挙げ周囲を見回しました。そうして、

 「誰か、ぼくを呼んだ?」と訊き返しました。

 「呼んだわ、わたしよ。」という声が返ってきました。その声は、健太の前の方でしたようです。

 「だれ?誰がぼくを呼んだの?」と健太は訊き返しました。

 「わからないの、ホラ、わたしよ、健太くんの前にとんでいるでしょう。雪よ、わたしは、雪の精よ。」


 健太は、その声の方に目をこらしました。するとどうでしょう、真上の電灯のちょうど真下あたりに、一片の小さな雪がふわりふわりとやわらかい綿のように浮いているのです。健太は、ビックリしました。目を大きく開いて目の前の雪を見つめました。

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