第2話

 封筒づくり  2


 「ほんとうに、よい、お父さんじゃった。よい、お母さんじゃった。お前がな、生まれて、ちょうど、ふた月頃のことじゃった。初めての端午の節句のお祝いのことじゃった。近所の人たちが集まって来てくれて、お前のことを祝ってくれた。お前はな、お母さんの手に抱かれて、温かそうな産着にくるまり気持ちよさそうにすやすや眠っておる。近所の人たちが、よい子だ、よい子だ、よく眠っておるのォ、と言って、かわるがわるお前を覗きに来る。お父さんとお母さんは、その度に、嬉しそうにうなずいて笑っておる。やがて、お前のお父さんが立ち上がって『皆さん』と挨拶をする。


 『今日は、よく来てくれてありがとうございます。』そう言って、お庭の真ん中に高く泳いでいるこいのぼりを指さしてな、『あの、こいのぼりのように、この子を元気に丈夫に育てます』と言った。みんな一斉に外を見た。ちょうど葉桜の時節でな、緑の葉をいっぱいつけた桜の樹が、窓向こうの野原に輝いておる。庭のこいのぼりが、それを見下ろして悠々泳いでおる。五月の、正午の、眩しいほどによく晴れた日だったなァ。ほんとうに、明るい日だったなァ。」

 そう言って、おばあさんは、大きく溜息をつきました。


 健太は、これまでに、この話を何度も聞いたことがあるのです。そうして、この話を聞くごとに、健太の頭には、健太がいつも想っているお父さんとお母さんの姿が浮かんでくるのです。そのお姿は、健太の机にいつも飾ってある写真のそれでした。健太は、やがて、お父さんとお母さんに連れられて、海の砂浜を一緒に駆けずり回ったり、そこで相撲をしたり砂山をつくったり、近くの野原に行って木登りをしたり、川原で水浴びをしたり、そんな楽しい想いが走るのです。おばあさんの肩を叩きながら、健太は呟きました。


 「ほんとうに、お父さんとお母さんといっしょに、いっぱい遊びたい。」

 健太がそう呟くとおばあさんの頭が前に垂れているのに気付きました。健太は前かがみになって、おばあさんの顔を覗きました。すると、おばあさんは、気持ちよさそうにこっくりこっくり眠っています。

 「なあんだ、おばあちゃん、眠っちゃったのか。」


 健太は、そう言って、おばあさんを畳の上に横にしてその上に毛布を掛けてあげました。そうして、部屋の片隅に積んである封筒をちらり見て、

 「そうだ、残りの封筒は、ぼくが、みんなつくってあげよう。」と言いました。

 健太は、炬燵の前に座って、また、封筒をつくり始めました。

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