オリオン星座にて
是波青村
第1章 封筒づくり
第1話
封筒づくり 1
ある地方のある小さな町に、おばあさんと男の子との二人だけの家族が住んでいました。男の子のお父さんとお母さんは、男の子が幼い頃に悪い病気に
そこは、北国の海の近くにあるとても寒い町でした。冬にはいつも雪ばかり降っているのです。ですから雪がたくさん積もって健太の背丈ほどになることもしばしばあるのです。健太は、おばあさんと二人だけですが、でも、寂しい様子は少しもありません。いつも元気に明るく学校に通っています。そうです。健太は、この春になると小学五年生になるのです。
それは、二月も過ぎて冬も終わりの頃の、戸外にはいつものように雪が降りしきっている寒い夜のことでした。時折、海の潮騒の音がザァーザァーと鳴っては引いていきます。風もだいぶ吹いているようです。ヒューヒューという唸りの音が烈しく聞こえます。その度毎に、雨戸が何度も、ガタゴト、ガタゴト、音を立てます。健太はいつものようにおばあさんのお仕事を手伝っています。そのお仕事は、炬燵の上で、折った紙に糊をつけて小さな封筒をつくることでした。小さな封筒を沢山つくって、それを封筒屋さんに売るのです。その利益でおばあさんと健太との生計が立っているのです。ですから、部屋の片隅には、新しいきれいな封筒がたくさん積んでありました。その時は、丁度、九百枚でした。いつも千枚になると封筒屋さんがやってきて、お金と引き換えに封筒を持って行くのです。
「あと百枚だ。」
と、健太が言いました。「そうだ、あと百枚だ。」と、おばあさんも言いました。すると健太は、今まで動かしていた手を止めて、
「おばあちゃん、少しやすもうか。」と言いました。それは、いままで休まずに仕事を続けていたので背中が少し痛くなってきたからです。でも、そればかりではありません。健太は、自分の背中が痛い以上、おばあさんの背中はもっと痛いだろうと思ったからです。おばあさんも、動かしていた手を止めて、
「うん、やすもう。」と言いました。そうして、丸めていた背中を「うーん」と言って伸ばして、右手で左の肩をとんとん叩きました。それを見ていた健太は、おばあさんに、
「おばあちゃん、肩を叩いてあげるよ。」 と言いました。
健太は、炬燵から出て、真向いのおばあさんの背後にまわっておばあさんの肩を叩いてあげました。
おばあさんは、「ありがとうよ、ありがとうよ」と何度も頷きました。
健太は、自分の背中が痛かったのですが、我慢しておばあさんの肩を叩き続けました。でも、健太は、こうしておばあさんの肩を叩いてあげるのが大好きでもあったのです。それは、おばあさんが、いろいろのお話をしてくれるからです。ことに、健太がいつも夢に見るお父さんとお母さんのお話をして貰うことが一番の楽しみでした。おばあさんは、目を細めながら、真上の電灯の明かりに顔を赤く染めながら、ぽつりぽつり話します。
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