第57話 アル様視点7 必死にアプローチしたのに、何一つシルフィに響かずに、母に呆れられてしまいました

「くっそーーーー」

このままでは全部良いところを母に取られてしまうではないか。


俺は何だ。母の引き立て役か何かか。


違う、今はそんなことを悩んでいるのではない。


俺はシルフィに良い所を全然見せられないのだ。


それでは流石にまずいだろう。


いや、と言うか、俺の気持ちをまずはシルフィに気づかせないと。


俺としてはシルフィと婚約したい。将来的に王太子妃として隣りにいて欲しい。


何しろ一緒にいて楽しいし、気を使わなくてもいい。


礼儀作法もある程度は完璧、平民でありながら平民としては最高クラスのB組にいるということは学力もあるということで、王太子妃としても問題はないだろう。何しろ一番の問題のあの鬼姑の俺の母に認められているのだ。それで王宮としては問題ない。それと平民なのに、父のバースは優良な官僚で元々爵位の授与の話はあったのだ。それを必死に断っていたのだが、母がかんで子爵家につかせることになった。身分的にも最低限はクリアだ。

 そのシルフィの母は、在学中に我が母らとともに悪魔の三つ子として十二分に存在感を示していたらしい。その魔力量は学園トップだったそうだ。そのシルフィの母に弱みを握られている貴族も多数いると言う。と言うか、男連中は父を筆頭に皆何故か必死にシルフィの母を避けているんだけど、何でだろう?


悪魔の三つ子の一人である、公爵夫人とも仲が良い。

その娘のタチアナとは親友で、タチアナは王弟殿下の息子の婚約者だ。


反対派の侯爵は失脚、外堀は全て埋められていた。


本人も母の性格を受け継いでいるのか打たれ強い。何しろ鬼と言われている我が母とも水の掛け合いで仲良くなったくらいなのだ。


王太子妃となっても十二分にやっていけるだろう。



後は本人がその気になってくれるかどうかだ。


というか、本人が俺を好きになってくれるかどうかなのだ。


俺は必死に色々アプローチして、告白したつもりなのだが、

「あれでしたんですか?」

「アル、もう少しなんとかしたほうが良いぞ」

タチアナとクンラートにはバカにされた。



うーん、俺としてはちゃんと言ったつもりなのに・・・・


全然響いていないのだ。それでなくてもシルフィは平民だから王太子妃なんて絶対に無理と思っている節もあるし。



もう、母たちに周りは完全に固められているのにだ。



休みの日はシルフィを母と取り合っている。


なんとか母に勝つと、シルフィと出かけて、いろんな食べ歩きとかに連れて行って、お互いの距離を近づけようとしているのだが、確かに距離は近付いたんだけど、それが恋愛感情かというと何かが違う。



これはもう最後の手段だ。




俺はとっておきの所にシルフィを案内することにした。


「着いたよ、ここだ」

俺は王宮の一番高い塔に案内したのだ。


シルフィはどこまでも続く螺旋階段を下から見て最初は驚いたが、俺の手に引かれて喜んで登りだしてくれたのだ。


一緒にこの永遠に続くと思われる階段を登ると二人の仲も縮まるし、一石二鳥だ。


でも、最後の方はシルフィは疲れ切っていた。



「ごめんね。少し大変だよね」

やっぱりシルフィにとっては中々大変な登りだった。



でも、シルフィは、はあはあ言いながらやっと登りきってくれた。



そこには夕日が照らす王都が一望に広がっていた。


「うわあああ、凄い!」

シルフィは感激してくれた。


俺はシルフィと一緒に王都の景色を見た。そうだ、俺はこれを見せたかったのだ。


「どう?」

「いや、もう言葉にも出来ないくらい素晴らしい景色だなって思って」

そのシルフィを見つめて

「俺はいつも辛いことがあるとここに来て、この景色を見て心を慰めていたんだ。こんな素晴らしい景色を守るためにも、もっともっと頑張らないといけないって」

俺はここぞとばかりに力説した。そうだ。この景色をシルフィと守りたいのだ。


「シルフィ、出来たらこの景色をこれからも一緒に見てくれないか。まずはそれから始めてほしいんだけど」

そう、シルフィに王太子妃となって一緒に見て欲しい。俺はそう言いたかったのだ。


「えっ、この景色をですか。見るだけなら全然問題ないですよ」

シルフィは頷いてくれた。


「えっ、いや、その・・・・」

えっ、でも待って、この反応はなにか違うぞ。

俺の真意が全然伝わつていない?


俺は次の言葉を必死に探した。しかしだ、


「あっ、アル様、あのお店、この前食べに連れて行ってもらったケーキ屋さんです」

「えっ、あ、本当だ」

シルフィの関心が下に見えるものに移って、俺はタイミングを逸してしまったのだ。

結局それ以上何もそのことについて言えなかった。




「あんた、本当にヘタレね」

何故かこの様子を知った母に言われてしまって俺は何一つ言い返せなかった・・・・

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