第10話 酔って娼館に行く男

 俺はマヌケな冒険者……だが、やる事が旨いタイミングでハマる時もたまーにはやって来る。子供達を奴隷狩りから助けた俺。そこに奴隷狩りの連中を探すマフィアの女ボスが現れたのだ。まぁまぁツイてる……のかな。




「……知った顔はいるかい」


「ジャネル叔母さんの飼ってる連中ね」

「ジャネル叔母は持ってる店は全て上手くいっていない筈なのに、一時期金回りが良かった」


「ジャネル叔母はサラ様の5番目の娘さんだ」

 アーニーが俺に教えてくれる。


 ちなみに長男の娘がケイト、4女の息子がアーニーらしい。いったい何人子供がいるんだ。


「自分が知る限り息子が5人、娘が8人だ」

 ホントか。

 バスケチームどころかサッカーチームが作れる。


「ジャネル!

 あの娘ただじゃすまさないよ。

 アタシに恥をかかせてくれたね」

 サラ子爵と黒服どもは怒りながら去っていった。


 また礼をしに来ると言っていた。

 嫌いな女性じゃないが、あまり会いたくは無い。どっと疲れる。

 カニンガムは酒を付き合わせようとしたが「心労が激しい」と言って帰って行った。お前は何もしていないじゃないか。

 デミアンとサマラも帰った。

 報奨金は一時金でも人数が居た分それなりの額になった。子供達の食料を買うのに不足は無いだろう。


 元々デミアンの家は街の薬屋だった。ファミリーに金を払わずにいたため、店を潰され貧民街へ追い出されたのだ。

 デミアンは薬の知識を受け継ぎ、子供たちの治療をし治療薬の一部を闇ルートで販売した。売買役は貧民街上がりの若いのだ。

 その売買役が『赤いレジスタンス』の始まりとなっている。

 デミアンによるとあの香料は自衛のために作ったもので、売ってはいないと言う。


「コーザンは?

 ヤツも貧民上がりか?」

「違うよ、用心棒として売り込んできたんだ。

 実際強い人は必要だったから」


「……でもあの男『赤いレジスタンス』の名前を勝手に使ってるフシが有るし……」


「……あの香料のレシピが行方不明になった事が有る。

 その後しばらくしたら戻ってきた。

 誰か盗んで書き写して返したんだ」

 言外にコーザンが犯人だと言っている。


「デミアン、これを持っていけ」

「これは金貨じゃないか?!

 こんなに貰えない。

 さっきも報奨金を貰ったばかりだ」


「どうせ、拾い物さ。

 良いか、隠しておいてイザというとき使え!

 子供が金貨を見せびらかしてたらトラブルの元だ」

「分かった。…………大事にする」


 金貨1枚稼ぐには普通の商売なら3カ月は懸かるだろう。子供に持たせるには危ない額だが、デミアンならへまはしないだろう。



 俺は宿屋に帰らずに寄り道した。昨日今日と良く働いたのだ。自分にご褒美したってバチは当たらない。

 

 大通りからは外れてるが、それなりに上等な店に行く。

 俺は良い酒と良い料理をジャンジャン頼んだ。

 報奨金の前渡し分は全部デミアンに渡したが、調査次第で後金が出るはずだ。馬車や武具の金も入る。半分はデミアンに渡すとしても余裕は有る。

 店の女を横に座らせる。豪遊する俺に女は愛想が良かった。


「キミも飲むかい?」

「お客さん、景気がいいのね」


「ああ、臨時収入が有ったんだ」

「すごーい、冒険者でしょう。

 どこかでお宝でも手に入れたの?」


「盗賊を退治したのさ。

 最近山賊が出るってウワサだったろう。

 なにを隠そう、あれを退治したのがこの俺さ」

「うっそー?!

 そんな強そうに見えないわ」


「いや、人は見かけによらないっていうだろう。

 なんなら今夜試してみるかい」

 

 良い感じに酔っぱらって店を出る。


 路地裏をウロウロした後、また別の店に入る俺。そこでも上等の酒を注文する。前の店で食べ過ぎたから、今度は飲む専門だ。葡萄酒を飲んで、エールで乾杯し、カクテルを注文して、蒸留酒を胃に流し込む。


 ベロベロだった。

 そのまま道をウロウロしていた俺は客引きの男に捕まる。

「お客さん、いい娘いるよ」

「ヒック……この辺で一番安い娼館はどこだ?」


「おいおい旦那。

 安いとこは値段の分、女もバケモノしかいないよ。

 そんなとこよりオススメの店があるんだ」

「良いんだよ。

 俺はゲテモノ趣味なんだ」

 

 そのまま客引きと女の居る店に行く。

 街はずれに近い場所だ。パッと見では飯屋のようだったが、中に入るとそれなりにムーディーな飾りつけがされていた。

 少し暗くした店内、女が何人か俺のテーブルに来る。その中から選ぶ仕組みだとボーイが俺に説明する。選んだ女と上の階に行き、朝まで過ごすのだ。

 俺は身体が少しばかり大きいが、顔立ちの整った娘と二階へ行く。

 ホットパンツにタイツ、色っぽい服装だ。階段を上がる時、後ろから下着が見える。


「……ついてきてるわ」

「気が早いヤツだ。初日からか」

「何軒も店を廻った甲斐があったじゃない」

「2.3日そっち持ちで豪遊しても良かったんだがな」


 俺の前を歩いていた男が部屋に入っていく。やたら体格の良い男に美女がしなだれかかっている。扉を閉めたら即、始めそうな雰囲気だ。

 俺達もその隣の部屋に入る。俺は部屋に入ると、水を飲みベッドに寝そべる。なんせ俺は酔っぱらっている。

 

 露出度の高い格好をした女が俺の横に寄り添う。

「どうせだから、ホントにやるかい?」

「光栄だがね……そんな時間は無さそうだ」


 部屋の窓ガラスが割れる音がした。

 二階の窓だってのに、外から誰か入ってくる。


「ジェイスン、ずいぶん楽しそうだな」

 僧侶姿の男、コーザンだった。


「ずいぶん酔っているな」

 僧侶姿の大男は言う。

 彼を見てベッドから立ち上がってしまった娼館の女に指を突き付ける。


「そこの娘、その客は連れていくぞ。

 大人しく見ていればなにもせん」


 コーザンはまだ気が付いていない。娼館の女は僧侶の後ろに廻り、窓へと向かう退路を断つ。


「……ずいぶんじゃないか

 昨日抱いた女の顔を忘れるなんて」

「むっ?!」


 娼婦の声にコーザンはやっと相手が誰だか理解したらしい。顔立ちはクッキリと整っており、美女と言えない事も無い。しかし、その体格を見てしまったら口説く男は滅多にいないだろう。

 筋肉女・ケイトだった。


 隣の部屋から壁を蹴破り、アーニーが入ってくる。部屋に入る前、俺の前を歩いていた男はコイツだ。

 入り口からは黒服軍団がドヤドヤと入って来る。


 俺達はサラの囮計画を実行に移したのである。

 目立つように路地裏の店を何件も廻り、人気の少ない娼館へと誘いこんだ。気付かれないようコナー・ファミリーの護衛はつけていない。娼館以外は。

 護衛をつけないで娼館に誘い込むのはのは俺のアレンジだ。この娼館だけは全てコナー・ファミリーの人間で固めておいたのである。


「アンタが気の早い男じゃ無ければ……

 俺はしばらくコナーの金で豪遊し放題だったんだがな」


「ジェイスン、コナーと手を組んだか?」

「俺は冒険者だからな。

 相手が誰だろうと条件次第で依頼は受けるぜ。

 それが囮になれ、ってんでもな」


「一匹狼の冒険者と聞いたがな。

 存外、姑息な男だな」

 コーザンは偉そうな皮肉を言ってくる。


 マフィアの連中に囲まれてるってのに、大した度胸だが……

「コーザン、姑息なのはどっちだい?」


「『赤いレジスタンス』に頼まれて俺を追ってると言っていたな。

 むしろ逆じゃないのか。

 俺を捕まえる仕事は『赤いレジスタンス』に来た依頼じゃない。

 お前が勝手に貴族に売り込んだんだろう」


「貧民上がりの少年達の集まりに取り入ってどうするつもりだった?

 その名前は利用しておいて、

 もしもコナー・ファミリーが本気になって『赤いレジスタンス』を追ったなら、とっとと逃げ出す気だったんじゃないか」


「しかも……『赤いレジスタンス』の用心棒をやってるウチにあの薬の存在を知ったな。

 レシピを盗み出したんだろう。

 自分で作って裏で販売し始めた。

 それも『赤いレジスタンス』の名前を使ってな。

 デミアンの奴を子供と見くびり過ぎだ。

 ヤツはとっくにアンタを怪しいと睨んでたぜ」


「……フフフたった一日でわしの事に随分と詳しくなったようでは無いか。

 しかしまだわしを見くびってるようだな」


 コーザンは男どもから逃がれ、窓へとその身を翻そうとするが。


「ここはアタシが通さない!

 コーザン、ケイト・コナーを辱めたな。

 その借りは返す」

 ケイトの拳に鋼鉄のナックルが光る。

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