第7話 子供達とグッスリ眠る男

 俺は次々に襲われる。サメ女、怪しい坊主、マフィア。挙句の果ては奴隷狩りと来たもんだ。何てツイてないんだ。



 俺の前には、先日俺とアリスを襲ったマントの奴が立っていた。


「……サマラ!」

「サマラちゃん」


「サマラが来てくれた」

「良かった~」


 子供達が歓声を上げる。泣きそうになってる子供までいる。サメ女を恐れて泣いてるワケじゃなさそうだ。喜びと安堵の涙。どうやら既知の仲らしい。


 サマラと呼ばれた奴は狂犬の様だった。

 頭まで隠すマントの中から、怒りに燃えた眼差しが奴隷狩りの男どもを睨む。

 真っ直線に走り出す。その速度を乗せて、山刀が振るわれるのだ。


 立ちふさがる者を容赦なく切り捨てていく。凄まじい速度で男どもが山刀で切り殺されていく。

 なんだか、映像の早送りでも見てるみたいだな。

 ノンキな感想を抱いてた俺にまで、その凶器が向けられる。

 

 マントの中から光る目が俺を捉えるのである。

「…………キサマ!

 ……どこかで見た覚えがあるな」


 俺は内心ずっこけた。昨日、俺とアリスはこの女に殺されかけたのだが、サメ女は覚えてないらしい。


「待って! サマラ」

「その人は僕たちを助けてくれたよ」

 幼い子供達が口々に叫ぶ。


 ありがたいねぇ。

 しかしサマラは俺を睨みながら迷っている様子だ。俺を狙って憩いの広場を流血の大惨事にした女だ。見境という物があるだろうか。

 しかたないので俺も剣を構える。


「……駄目だ、サマラ!

 その人は敵じゃない」

 銀髪の美少年の声だった。


「サマラ、敵はあっちだ!」

 奴隷狩りを指して言う。


「……その人は恩人だ。

 殺しちゃダメだ」

「デミアンが言うなら……分かった」

サマラは俺を睨むのを止めてくれた。


 その物騒な凶器は奴隷狩りの男どもへと向かう。どうやら俺は美少年に認められるのに成功したらしい。


 その後はサメ女の独壇場だった。俺も無論加勢したし、子供達もダーツでフォローしたが……必要無かったかもしれない。そのくらいあっけなく男たちは片付いた。

 相手が剣を構えていようが、迷いなく突っ込むサマラの気力が半端な奴隷狩りを圧倒したのである。俺はサマラに切られたヤツを縛り上げ、逃げないようにするくらいしかする事が無かった。



「僕は感動しました。

 あなたはスゴイ人だ。

 死ぬような傷を受けながら、たった一人で闘い続けた」


「……初めて会った子供たちのために命懸けで闘う。

 おとぎ話の英雄以外そんなコトありえないと思ってた。

 ……あなたは僕の英雄です」

「おいおい……

 やめてくれよ。

 いくら何でも褒めすぎだ。

 おれはマヌケな冒険者で通ってるんだぜ。

 少しばかり痛みに鈍感なだけだよ」


 銀髪の美少年が俺に礼を言い、手放しで褒めてくれる。

 照れるがまぁいいだろう。このところ苦難の連続なのだ。たまには誰かに褒めてもらわなきゃやってられない。


俺の方も少年に言わなきゃならない事が有る。


「デミアン……でいいのか?」

「はい、僕の名です」


「デミアン。

 今後は妹に躰を売らせるな!」

「は……はい」


「金を工面する方法なら俺も協力する」

「あの……妹は清い身体です」


「……?……」


 少年は薬でぼーっとした男をさらに酔わせて来たらしい。

 酩酊した男たちは妹を犯してるつもりで……近所の犬相手に腰を振ってるワケ。

 デミアンは笑いながら説明した。

 俺は自分にロリコンの気が無かったことに感謝した。一歩間違えれば、犬相手に交尾してる姿をデミアンに見られていたかもしれない。


 サマラは手加減を知らない。それでも奴隷狩りは死んでいる者は少なかった。彼らは毒矢に対するため革装備を着こんでいた。そのお陰もあるだろう。重傷の者は血止めだけして、全員一緒には縛り上げている。

 やはり防具は大事だな。

 また教訓を得る俺である。ただしその教訓が活かされる事はあまり無い。


「やった! お肉だね」

「腐っちゃうから早く食べなきゃ」

身動き取れない奴隷狩りの連中を見て、喜ぶ子供達。


 いや、ちょっとソレは……

 ……俺としてはさすがにどうも……


「僕も子供たちにそんなコトはさせたくありません。

 でも子供たちは万年栄養失調です。

 死ぬか生きるかの選択なんです」

 デミアン少年の言う事は正しい。

 でも協力者に大人もいるのだ。なんとか別の選択がありそうじゃないか。とりあえず朝までひと眠りと行こう。


 ザコ寝している子供達と一緒に横になる。

 建物には汚い毛布や破れた布しか無かったが、男たちの馬車に毛布やマントが有った。子供たちは大喜びした。

「やった、新品の毛布だ」

「破れてないマント初めて見た~」


 サマラはここの出身らしい。ずっと子供たちの中で最大戦力だったが、リーダーではなく用心棒扱いらしい。まぁそうだろう。狂犬じゃリーダーにはなれない。

 今は『赤いレジスタンス』に戦力として力を貸し、その報酬で子供たちに食料や衣類を買っている。


「おまえ、どこで見たんだっけ?

 ……まあいい。

 子供を守ってくれて、ありがとな」

 サマラは無邪気に礼を言ってきた。

 凶悪に見えたサメ女も子供たちに混じると、身体が大きい子供に見えた。サマラは子供達と一緒になって驚くほどアッサリ寝てしまった。何を警戒する事も無く、グースカ寝ている。

 帽子とマントを外した顔を見ると間違いなく女だった。遠方の血が混じっているのか、この辺の人間にしては色が黒い。彫りの深い顔立ちと相まってエキゾチック美人に見える。彼女の身体には子供たちがくっついて寝ている。


 俺も眠くなる。今日は忙しかったのだ。ランニングをした挙句、荒事をいくつもこなしたのだ。横になる俺の身体にも子供達はひっついてきた。子供達の体は温かく、俺も安心してグッスリ寝てしまった。



 翌朝、俺は奴隷狩りの持ってきた馬車に連中を詰めて運ぶ。

 つきそいはデミアンとサマラだ。行先は冒険者ギルドである。


 アリスは目を白黒させていた。


「コイツら、強盗なんだ。

 俺が捕まえた。

 証人はこの二人だ」


「僕は街はずれで薬屋を営んでいる、デミアンと言います。

 この人たちが昨夜いきなり襲ってきたんです

 ジェイスンさんが助けてくれなかったら、僕と妹は攫われるところでした」

「ウム、ズッと見てたよ。

 マチガイ無い」


「……ジェイスンさん……

 捕まえたって10人以上いますよ。

 ……それにその証人の女性……」

俺は背の低い受付嬢を抱き寄せ、小声で語る。


「アリス、頼むよ。

 コイツラ調べれば犯罪歴が絶対出てくる

 あと、この馬車も買い取ってくれ。

 載ってる武器やらなんかも全部頼む」


「報奨金は手付だけでもいい。

 銀髪少年に渡してくれ」

「ジェイスンさん?!

 報奨金ってそんなの、すぐには出ませんよ」


「アリス、ほんの一部でいい。

 とにかく今すぐ渡してやってくれ」

 アリスにもろもろ全部押し付ける。

 ……キィーッ……

 とか奇声を発していたが彼女なら上手くやってくれるだろう。

 アリスが銀髪少年に名前と住所を書くように言う場面で俺は緊張したが、少年はサラサラと書いていく。デタラメを書いてるにしては澱みない。フーン。


「……ジェイスン!

 良かった、いいところに来てくれた!」

「……カニンガム、久しぶりだな」


「お前を探しに行かなきゃならんと思ってた」

 カニンガムは慌てて俺をギルドの奥に連れていく。


「待ってください、カニンガム副隊長。

 まだ手続きが残ってるんです……」

「アリス!

 ギルドの一大事なんだ。

 上手くお前が代筆しといてくれ」


 上司に言われて目を白黒させるアリス。悪いね、後は任せた。


「良いか、ジェイスン。

 サラ子爵がお前と面会を希望している」

「……誰だって?」


「サラ子爵。

 200年以上続く貴族でこの街の評議会の一員。

 最大手商会の会長で、娼婦たちの大元締め、兼騎士団の御意見番、兼冒険者ギルドのスポンサーで人事権まで持ってる」

「待ってくれ、覚えきれない」


「他にもいろいろな顔を持ってる。

 ついでに…………コナー・ファミリーのボスだ!」

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