第6話 奴隷狩りと戦う男

 俺はマヌケな冒険者だ。廃墟に逃げ込んだ俺を今度は幼い少女がベッドで襲う。俺にロリコン趣味は無い。無いったら無いんだ!




「狩りだ!

 奴隷狩りの連中が来てる!」


 二階に上がって来た子供はそう叫んだ。随分と物騒な単語が飛び出して来たじゃないか。


「サマラは?」

「今呼びに行ってる」


 銀髪の少年は建物の外の様子を覗う。行きがかり上俺も付き合った。


「ずいぶんと凶悪な面相の奴らだな。

 少なくとも愛犬の散歩に来たんじゃなさそうだ」


 馬車から降りて来た連中が俺の視界に入る。人間だけじゃない。犬も連れている。


「……まずいね。

 人数が多い」

「馬車が2台か……

 人数は……20人はいるな」


「普通は4、5人しか来ない。

 ここのところうまく追い払っていたんだ」

「子供だけでか?」


「建物に入ってきたら薬を嗅がせて、動きが鈍いところなら子供でも殺せる。

 後は……強い仲間がいるけど、今はいない。

 そのタイミングを見計らってきたんだと思う」


 武装をした男達が建物に近づいて来ていた。

 連れている犬まで凶悪な面構えだ。勿論お座敷犬じゃない。黒と茶色の毛、人間に近い体躯。向こうの世界のドーベルマンに似たタイプ。牙がちょっとばかり軍用犬より飛び出ているのがご愛敬。


 「黒魔犬ブラックドッグだ!」

 「アイツら……人間まで食べちゃうんだよ」

 周囲の幼い子供達が怯える。


「イナンナの街は武器を抜き身にするのは許されないと聞いてるんだがな、行儀の悪い連中だ」

「そんなの守る人はここにいないよ」


 男達が犬を放っている。


 グルゥ……グアァァァァアッ!!

 こちらに猛烈な勢いで走る獣ども。

 だが建物の近くでその勢いはいきなり落ちた。


 ガウッ!

 キャイーン!

 落とし穴に落ちるモノ、ヤリに貫かれるモノ。


「罠のオンパレードだな」


「罠で動けなくして毒矢でトドメを刺すんだ」

「大人があんなにいちゃトドメにはいけないよ」


 子供達が俺に教えてくれる。

 犬は何頭も倒れたが罠を越えたヤツが近づいてくる。その後を人間達が近づいてくる。


「犬を先に行かせて罠を破るとはな。

 動物愛護団体からクレームがくるぜ」

「……ドウブツアイゴ……?」


「入り口に網が仕掛けてある。

 身動き取れなくなったら矢で攻撃するんだ」


 美少年の合図で子供達が入り口の脇に待機する。みんな投矢・ダーツゲームで使うようなヤツを持っている。

 アレに毒が仕込まれてるワケか。

 俺ならこんな危険地帯には近づかない。もちろん犬は恐れげなく飛び込んでくる。

 網にかかってもがく犬たち。

 死のダーツが飛んでいく。

 オッソロシイねぇ。どちらが被害者か分からない。


「剣を貸してくれ」

「……あなたが僕たちの味方とは限らないな」


 俺は銀髪の少年に言う。美少年は賢しげな顔で応えるが、それどころじゃないのだ。


「人間達も近づいてくる。

 早くしろ!

 …………さっき妹ちゃんにキスをプレゼントして貰ったからな。

 そのプレゼント代くらいは働いてやるぜ」


 黒魔犬ブラックドッグどもは網に絡まって動けなくなっているが、悪運強く抜け出してきたヤツが子供を襲う。


 グルルゥゥ!!……グァッ!ガアアア!!!!

 派手な牙が子供達に向けられる。

 

 その寸前だった。

 俺の剣が犬の胴体を刺し貫く。

 美少年に渡された剣は手入れがいいとは言えないシロモノだったが、贅沢は言っていられない。網の中でもがいてる犬どもにも俺はトドメを刺す。


 子供たちに奴隷狩りと呼ばれていたな。事情は知らないが、手加減する必要は無いだろう。

 俺は剣で威嚇するが相手は人数が多い。入り口の前に来たヤツと闘い、通路を塞ぐ。それ以上の敵が建物に入って来れないように動いたのだ。

 子供たちも毒矢でフォローしてくれるが、相手は革で素肌を露出しないように備えている。以前にも死のダーツを喰らったのだろう。同情する気は無いがね。


「キサマァ!

 なんのつもりだ?!」

「お前らこそなんだ?

 人の家に入る時はベルを鳴らしてからだって教わらなかったのか」


「今のうちに大人しく道を開けろ。

 コナー・ファミリーが俺達の後ろにはついてるんだぜ」

「ここの子供達は躾けが良いんだ。

 知らないオジサンを家に上げちゃダメだってさ」


 奴隷狩りと呼ばれたヤツらにしてみれば計算違いだったんだろう。ワナを犬でかいくぐってしまえば、赤ずきんちゃんを捕まえ放題と思っていたはずだ。

 ヤツらの計算違いは続く。


「何グズグズしてるんだ。

 相手は一人だぞ」

「……イヤ!

 俺はこいつを殺った!

 手ごたえは有ったんだ」


「替われ!

 俺がやってやる」

「確かにそこそこ出来るようだが、こいつで終いだぜ」


 長尺の槍で後方から刺してくる。それは見事に俺の腹を貫いた。

 前線で疲弊した輩と交代で入ってきた男の剣。そいつは俺の胸を切り裂いた。


「……嘘だろ!」

「なんてタフなヤツなんだ?!」


「いや……タフとかいうレベルじゃねぇ!」

「コイツおかしい!

 おかしいだろ!!」


 ヤツらの顔色が変わる。

 前に立ちふさがるヤッカイな相手を倒した、と歓声を上げるたびに期待を裏切って俺が戦い続けるからだ。


「なんなんだ……コレは!」

「俺ら……薬で幻覚を見せられてるんじゃ……」


「チクショウ!

 死ね!

 もう死ねよ!」


 男達の顔色は既に青くなっている。目の前で起きてるのが超常現象としか思われないのだ。

 パニックを起こしかける男ども。

「……窓だ!

 あの窓をぶち割って入れば!」


 俺のいる入り口からは離れた場所に窓がある。

 正確には窓だったんだろう場所だ。ガラスはすでに無く、木枠のような物が下手くそに打ち付けられている。

 男達は俺の相手に3人ほど残してそちらに向かう。なんとかしたい処だが、俺の身体は一つしかない。


「罠はもうないのか?」

「さっきの網で終わりだよ」


 年長の子供達が窓に向かうが、武器は毒矢だけ、盾も鎧も持っていないのだ。相手は武装した男達だ。勝負にならないだろう。

 窓の木枠を打ち破り、奴隷狩りの連中が建物に押し入る。

 俺は入り口にくぎ付けのままだ。一人は剣で切り伏せたが、まだ2人残っているのだ。

 

 男達が子供を捕えていく。打ち据え、抵抗できない者を縄で縛り上げる。

 少年達は抗うが、相手は武装しているのだ。抵抗を続ける子供が切られ血を流す。


「おい殺すなよ。

 せっかくの売り物だ」


「2、3人みせしめに殺した方がよくねーか」

「毒矢で狙ってくるようなガキどもだ。

 少しおしおきしとかねーと」


 ヤツらは奥にいた銀髪の少女に目を付けていた。


「ヤッたぜ!

 上物だ」

「ヒュー……

 こいつは高く売れるぜ」


「しかしこの年じゃ娼館には売れないぞ」

「変態の貴族様が買ってくれるさ」


「その前に少し味見しようぜ」

「俺のデカイのを入れたら壊れちまうだろ」

「上の口なら……」


「……キサマら、妹には手を触れるな!」

 銀髪の美少年が男たちの視線から妹を隠す。


「こいつも上物だが……男かよ」

「イヤ、それでも買ってくれる客がいるぜ」


「おい、オニイチャンよ」

「おとなしく捕まればイタイ目をみないですむぜ」


 男達が少年と少女に近寄る。美少年は答えずにビンを取り出すと男に向かって中身を浴びせかける。


「ギャーッ!」

 男達は離れた場所にいる俺でも魂消るような悲鳴を上げる。


「手が焼ける……

 皮膚が溶けてやがる?!」

「顔が……

 おれのかおが……」


 酸だった。それも強力なヤツだ。最後の武器を隠し持ってたのか。大した少年だ。

 しかしまだ人数はいるぞ。それに相手を怒らせちまった。どうする?

 

 俺ははさらに一人切り伏せていたが、窓から入った男が後ろから加勢してくる。前後からの挟み撃ち。先ほどより形勢は不利だ。

 前から剣が、後ろから槍が俺を襲うのだ。助けに行きたいが行ける状況じゃない。


 意外な形で助けは現れた。

 建物の外から俺をしつこく攻撃していた連中がいきなり倒れたのである。

 そして倒れた連中の後ろにはマントを羽織り、山刀をかまえたヤツが立っていた。


 サメ男!

 いや、アリスの言葉を信じるならサメ女!であった。

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