ゴキブリと僕。今年最後のエンカウントかも。

 台風が去ってからは結構涼しくなったように思う。

 汗をかかずに一日過ごせたし、毛布の感触が気持ちいい。僕の好きな季節を見に感じている。

 そして涼しくなってくると食べ物が美味しいくなる。

 そんなわけで僕はチキンカレー作ることにした。

 僕は時々スパイスからカレーを作るのだが、あいにくスパイスを切らしていた。

 近くに24時間あいているスーパーがあるので深夜にも関わらず食材を買いに家を出た。


 涼しくなってと言えど、まだ虫はいる。スーパーまでの道はかなり虫が多い。虫嫌いの僕には過酷な道だった。

 僕はスーパーまで全力で走って無事買い物を済ませた。

 鶏もも肉にクミンとコリアンダー。ちょこっとお菓子。それにお風呂掃除用にカビキラー。僕は比較的綺麗好きなニートなのです。


 買い物を済ませた僕はルンルンだった。早く作りたい。しかし、夜の闇は甘くない。

 家の前までは何事もなくたどり着いた。

 しかし、ヤツはそこにいた。

 玄関の扉の前、照明が照らすその場所に、家に入れないよう通せんぼするように、ヤツがいた


 ゴキブリ。


 10センチはあるだろう。巨大なゴキブリが僕の行く手を遮っていた。



 経験上ゴキブリを侮ってはいけない。

 奴らのポテンシャルに人間の知識なの及ばないのだ。


 以前飲食店で働いていた時、5センチほどのヤツは厨房に現れた。

 地面を這い僕を挑発する様に冷蔵庫の下に消えたのだ。

 僕はわかしていたお湯をヤツが消えた冷蔵庫の下に流した。

 奴らはお湯で簡単に死ぬ。これで仕留めたと思ったのだ。

 ここは飲食、店死骸を放置するのは気持ちが悪い。冷蔵庫の下に水を流し死骸の回収をしようとしたが一向に流れてこない。

 諦めかけたときだった。ヤツは洗い場、食洗機の下に現れた。

 色も形も大きさも同じだった。同じ個体にしか思えなかった。

 そもそも掃除が行き届いた店だ。僕が徹底して掃除をしたのだ。ゴキブリ複数同時に現れることは一度もなかった。

 そう、右に消えて左から現れる。ヤツらはそれを意図も容易くやり除けたのだ。



 目を離せば一瞬に隙でヤツら背後に回っている。

 僕は扉の前に現れたそいつを凝視ていた。

 扉から離れてくれたら、その隙に家に入って殺虫剤を持ち出せるのに……

 30分異常にらみ合っていただろう。ヤツらは機動力はある癖に消えて欲しい時に限ってその場から動かない。

 そこで僕はカビキラーを購入していた事を思い出した。

 これでヤツを殺せるかもしれない。

 しかし、殺せなかった場合どうなるか……



 以前、家の中にゴキブリが現れた時のことだ。

 なにか料理をしようとしたとき、ガスコンロの下からヤツは現れたのだ。

 その時は夏も始まったばかり殺虫剤は小バエ用の物しかなかった。

 僕はその小バエ用の殺虫剤をゴキブリに噴射した。

 それはとても愚かな行為だった。

 ジタバタと苦しむゴキブリ。しかしヤツは死なず背負ったお飾りの羽根が震えだした。

 基本的にゴキブリは飛ばない。飛ぶとしても高いところから滑空しかできないと言われている。

 断言する。それは嘘だ。

 ヤツは羽根を羽ばたかせ飛んだのだ。

 小バエ用の殺虫剤をかけられ床でもがいていたゴキブリが飛び立ったのだ。7センチはあるであろう大きな身体を宙に浮かせ飛んだのだ。

 1.8メートルの高さを飛んでいたと思う。僕を見下ろす程の高さだった。

 ヤツは旋回してから、まっすぐに僕の方に突っ込んで来たのだ。

 そうヤツらは危機的状況に陥ると覚醒し空でさえ支配するのだ。

 僕は小バエ用の殺虫剤を向かってくるヤツに吹きかけた。

 ヤツは僕から逃げるように脱衣所の方へ堕ちていった。

 僕はおばちゃんにお願いしてゴキブリを探して貰った。

 ヤツを見つけたおばあちゃんはそのまま鷲づかみにしてティッシュにくるんで始末したのだ。

 ゴキブリと戦っている間、僕が泣き叫んでいるのは言うまでもないだろう

 ばあちゃんには感謝しかない。



 つまり、安易にカビキラーなんて物をヤツにかけてはいけないのだ。

 僕はヤツがどこかに消えるのを待つしかなかった。

 何十分も待って、チャンスが来た。ヤツもしびれを切らしたのだろう扉の前から離れて僕の方に向かってきたのだ。

 僕はヤツの横を一気に走り抜けた。心臓が跳ね上がる思いだ。トリハダがたち全身が震えた。

 扉を開け家の中に入り、殺虫剤を持ってヤツのもとへ向かったが、もうそこには何もいなかった。

 僕は扉の周りに殺虫剤を撒いて家の中に入った。


 その後はヤツの侵入もなく、トマトの風味が残ってしまったがカレーも美味しく作れた。

 眠れず、とても疲れた。


 僕はゴキブリが本当に嫌いだ。大人になってこそ泣かなくなったが中学校まではゴキブリを見ると大泣きしていたくらいにゴキブリが嫌いだ。


 きっと、赤ちゃんの頃、夜に母親が暗闇の中ミルクを作ったさい、哺乳瓶の中にゴキブリがいることも知らずに僕に与えてたってエピソードを物心ついたときから聞かされたから、ここまでトラウマになっているのかもしれない。

 母は笑い話のつもりだろうが、こちとら笑えないよ。


 もう、今年はゴキブリに会わないとこを祈る。

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