第六章

「いやー今日は有意義な一日でしたね」

「お前にとってドラゴンを殺すことは有意義な事なんだな」

「言い方が悪いですよ」


右の方でのろまに歩く時雨。

彼女はこっちの方を向き明らかに不服そうな表情を浮かべると一転して今度は満足そうな顔になった。


「だって今日はこの国に来て、ドラゴンを討伐して、図書館で本を読んで、夜に仲間とこうやって駄弁ってるんですよ?幸せだと思いませんか?」

「なんだそれ、いつも通りじゃねえか」

「そのいつも通りのことをいつも通りするのが幸せってやつなんですよ!」


暗いので表情が上手く読み取れないが頬を膨らませているのが分かる。

先週もモンスターを討伐した後四人で駄弁りそして国で寝た。一か月も旅を続けてきたからか俺はそんないつも通りな行動、徐々に億劫に感じてきたが相変わらず三人は楽しそうな笑顔を浮かべて会話をしている。毎日同じ空間におり同じ時間を過ごしているのに話が尽きないなんてこれまでどれだけ話してこなかったのか。

俺はそんな三人の笑顔を一番端で首をひねって聞いていることが多かった。


「それにしても『感情消失』も有名になりましたね」

「そうなのか?なぜそれが分かる」

「白咲さんはほんと世間に疎いですね」

「俺を老人扱いするな。お前とほぼ変わらないだろ?」

「ですね。これですよこれ」


時雨はそういうとポケットから見せびらかすようにそれを取りだした。

真っ白でこの世界の雰囲気と全く合わない電子機器。


「スマホって……お前は現代人だな」

「まぁ若者ですからね。とはいえ実際耳にすることが多くなりましたよ」

「『感情消失』のグループの名前か?まだ作って一週間くらいしか経ってなくないか?」

「そういう噂はまるで風のように面割るのが早いんです。氷のように冷たい白咲さんには分からないでしょうね」

「余計なお世話だ」


俺をからかうことができてご満悦なのか時雨は「い」の口のまま笑うとスマホをポケットにしまった。

感情消失の名前を時雨の国で命名して一週間。その間に俺は感情消失の噂を聞くことがなかった。だからこそ広まっていることを知るとなんだか不安になってくる。

それはこれまでの戦争と関係があった。


「とはいえ割と悪口も多かったりするんですよね」

「悪口? どんなのだ?」

「『第三の魔王誕生』だとか、『利己的集団がまたできた』とか探せばキリがないですよ」

「それ、前の魔王でもなかったか?」

「確かに、ありましたね」


何処に面白い要素があったのか分からないが、彼女はそういうと大きく笑った。

これまでの戦争は両方魔王と一般市民の戦いとなった。

そして今、『感情消失』の名が広まったということは俺らに『魔王』という汚名を着せられることとなるだろう。

確かにこれまでにも俺ら感情のないメンバー八人は『魔王』と言われることがあった。

だがそれも今後はさらに活性化していくこととなるだろう。前まではただのグループ、いわばゲームでいうパーティみたいなものが今後は魔王軍に変わってしまう。


「戦争は避けたいんだが」

「それは私たち次第になりそうですね」


相変わらずお気楽そうに返事をする。

何より不安なのはもし戦争になった時負けてしまうだろうということだ。

確かに『感情消失』は強い。これまでの魔王よりも断トツで強いだろう。だが生憎今城に残っている四人は戦闘向きの能力を持っていない。つまり『感情消失』は脆いということだ。

まるでダイヤモンド。硬いが割れやすいのだ。


「それにしても二人、おいてきてよかったんでしょうか?」

「二人って八神と快離か?」

「逆に誰がいるんですか……普通に店に置いてきましたけど」


俺ら四人は図書館を出た後ホテルへと向かった。ドラゴン討伐の報酬。俺が今日泊まれる場所を教えてほしいと聞いた時、親切にホテルを使わせてくれることとなった。もちろん追加の報酬として。つまり本来もらえたお金にプラスしてホテルも泊まれる。エスには絶対に黙っておこう。

そして多少ホテルで話国を少し回ることとなった。外に出た時はもう外は赤くなっており店は閉まろうとしていた。

俺が案内をしているとたまたまこの時間でも空いている店があったので入るとそこは武器や防具、その他雑貨が売ってあるお店だったよう。この国では売れないだろうと思ったが品質が良く割と売れるそうだ。

だが俺と時雨は武器を新たに買うことは無く先に帰ろうとなったわけであった。

二人は今綺麗で良質な武器を見て目を輝かせている所だろう。俺らが水を差すことは当然できない。ここは大人しく引いて正解だった。


「大丈夫だろう。ほら、もう着いた」

「割と近かったんですね。私は先にお風呂使わせていただきますね」

「俺はこの先に夜でも空いてる食料店を知ってる。適当に買ってから上がることにするよ」

「了解しました。それでは」


そういって時雨はこっちに手を振るとそそくさと建物の中へと入っていった。

その背中を見届けると俺は道のりに沿って進んでいった。

今晩は三人に飲み物を買ってあげようと考えた。

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