第五章

声も音もほとんど聞こえない広々とした空間。

そんな中聞こえてくるのは、紙をめくる音だった。

背もたれに身を任せ何気なく周りを見渡してみると、バラバラの席に座る人たちが目につく。そんな皆だが総じて本を真剣な顔つきで呼んでいた。

ここは図書館。他の国よりも優っていると言える要素、それは国民の知識の多さだ。他の多くの国では物騒な世の中、モンスター多さや戦争の名残が多くあり基本的には戦力を中心に考えることが多かった。

しかしこの国にはモンスターもいなければ、戦争の名残なんてものは存在しない。つまるところ国自身の戦力をあげる意味はほとんど皆無に等しかった。

そんな情勢の中、国内で何か目立った行動はしないかと言う案がちらほらと浮き上がってきた。

この国の個性はほとんどなく、ある意味戦争が無い平和な国と言うのが個性と言い張る他なかった。そんな中大きな図書館を設置する案を否定するメリットはなく我々はそれをつくることになった。

そのおかげか図書館は次第に規模を大きくしていき、国には知識を得ようとする人が来るようになっていった。

生憎転生者が戦争を終え職を失ったこともありこの国に来るのもある意味必然だったのかもしれない。

俺は視線を右から左に流していく。するとそこには時雨も興味深そうに分厚い本を読んでいた。どうやら本当に本が好きらしい。

どんな本が好きなのかと気になりタイトルを聞くとどうも物語ではなさそうだ。いわゆる歴史に関する物だろうか。よく分からない。

俺はそのまま視線を奥へとやるとガラスの奥で顔を下げている二人に目が行った。案の定八神と快離だ。

彼らと一緒に図書館に入りいろんな本を手に取ってみていた。だが二人に関してはやはりこのような落ち着いた空間は好まないのか小声で話をしていた。

その場にいると意外に分かるが大きな空間、無音の世界で誰かが小声で話しているとなると目立ってしまう。そのうえ図書館に来るような人は基本的に本や資料に集中したい人だ。

彼らは予想通り図書館員に呼び出され図書館の使い方について説明を叩きこまれることとなった。

俺がキョロキョロしているのを察したのか時雨は俺と目を合わせると「お手上げだ」と言わんばかりに首を振った。

普段気の合わない時雨だが今に至っては同感だ。

俺はそんなことを考えつつ「第一・第二ラグナロク」と言うタイトルの分厚い本をなんとなくめくった。

『戦争』。いろんな思い出を引き出してしまう単語だ。

特に第二ラグナロク。それに至っては恐怖すら覚えた。

『戦争』と言うのは魔王と一般市民陣営の戦い。日本でいう一揆のようなものだった。

そして第一ラグナロクは人対人の戦いがメインとなった。

問題は第二ラグナロクだ。そこでは大きくモンスター対モンスターの争いが起きた。

魔王サイドに果たしてモンスターがいるのかと言う問題だが、そもそもこの世界にはモンスターは存在しない。いても雑種の野生動物だ。

つまり、モンスターと言うのは基本人間が生み出したものなのだ。

生み出したと言ってもそれは『チート』によるもの。生き物として不完全な種が大量に作り出された。

初めは一般市民側の誰かがモンスターを興味本位で作り出してしまった。

それが公に出てからというもの人間を使って指揮を取り戦うよりもモンスターを使って戦わせた方が効率がいいことが分かった。

そしてそれが第二ラグナロクになった時、小耳にはさんだ情報。

『知能を持ったモンスター』が現れたというモノだ。道徳心がないものに作られた生物兵器。結局表の部隊に姿を見せることがなかったがどう考えても理にかなっていない。

人はモンスター相手だと躊躇せず殺そうとする。知能を持った、すなわち人間と同じ感性や能力を持っているということは痛みも覚えるということだ。

あまり考えたくない悲惨なことだがそれが存在したことは否定できない。

だからこそ戦争には様々な思い出があるのだ。

俺は本を即刻閉じると横目で時雨を見た。

時雨は本を読み終わったのかおもむろに伸びをしていたが俺と目が合い小さく笑った。

俺は目線を逸らすと今度は窓の外の二人に目が行った。どうやらこっちに戻ってくるみたいだ。

俺は二人を迎えに行こうと席を立った。

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