第四章
目を瞬かせる。
その瞬間に聞き馴染みのある声が二つ聞こえてきた。
「お!お疲れー!」
「待ってましたよ」
八神と時雨だ。
俺は周りを見渡す。そんな俺とは正反対に快離は二人の方へ向かって一直線に向っていった。
「おぉ!すでに討伐済みなんだね!お疲れ!」
その言葉を聞き二人の方を見ると後ろには連なって倒れているドラゴンの姿があった。
その姿に違和感を覚える。
「傷の一つも付いてないじゃないか」
「何言ってんだ白咲。役員さんの要望はドラゴン討伐とついでに素材回収だろ?」
「つまり最も素材に傷をつけずに討伐すればよいというわけです。でしょう!」
誇らしげに時雨はそういった。
確かにドラゴンを再度まじまじと見てみるが汚れと言う汚れは足の土汚れのみで、体にこれと言った外傷はなかった。
やはり感情消失のリーダーがいればこういったことは当たり前のようにできるのだろう。俺は彼らのすごさを改めて感じた。
「それじゃあとはエスだけだな」
「え、行かなきゃ駄目ですか?」
「そうだよ、無視で良くね?」
「だめだ。あいつのもとにもドラゴンがいるんだ。それだけでも回収しておきたい」
「けどエスならドラゴンなんて片手で掴んで帰ってそうじゃない?」
「言い得て妙」
快離のその言葉を聞き想像をしてみるとその姿が一瞬にして浮かんだ。
文字にすると『ドラゴンを片手に掴んで猛ダッシュ』ともはやモンスターの説明のようだが生憎それが嘘でもなさそうだ。
俺はそこにいた倒れたドラゴンを軽く叩いきながら話を聞いていた。ドラゴンは俺が触れると同時に一瞬にしてその場から消える。
「とりあえず移動するぞ」
「りょうかい!!」
「お願いしますね」
「よろしく!」
皆がそういうと同時に俺は目を瞬かせた。
「お、遅かったな魔王共」
そんな声が聞こえそっちの方を見るとエスが何も持たずにドラゴンの前で立ち尽くしている。
見るにまだ討伐を終えていないようだ。ドラゴンは視線をずっと彼に向けている。
「え、まだ終わってなかったの?」
「魔王を敵にする正義を名乗るグループのリーダーがドラゴンごときに手こずってるなんて世も末ですね」
「世も末はお前らが原因なんだよ葛楽」
そういうとエスはため息をつく。
四人の中で「まだ倒してないのか」と呆れの空気を一瞬にして流れた。
「何勘違いしてんだお前等。俺はこいつごときに苦戦してんじゃない」
「じゃあなんでまだ倒してないんだよ?怖気づいたか?」
「やめろ、そう煽るな」
「魔王共がドラゴンごときに時間をかけてそうなのでそれを待ってあげただけです。随分と待たせましたよね」
「ただの強がりに聞こえるんだけどー」
「言っておけ」
そういうとエスはドラゴンの方を向き、鞘に収まる短めの剣の持ち手を掴んだ。
ドラゴンは相変わらず動かずにじっとエスの方を見つめている。そんなドラゴン相手にエスは臆することなく睨みつける。
「はぁ……」
時雨がそうため息をついた。
エスの剣はいつの間にか右の方へと移動しておりまるで短い距離ながら瞬間移動したようだ。
そしてその瞬間にドラゴンの首がきれいにドッと音を立て地面へと落ちた。俺を含めた四人は黙ってそれを見ている。
この速さは俺は時雨には容易に出せるがおおよそ普通尾人間が出せる速さではない。なんといってもそのスピードは視認できる速さではなかった。
「単にかっこつけたいだけじゃないですか。鞘から取り出すときに音がなってますよ?」
「強がりも程々にしておくんだな葛楽。和颯、これよろしく」
「いいように使いやがって、片手で掴んで持って帰れ」
「何を言っている……?」
俺はそう言いながら数歩歩いてドラゴンの首と胴体をそれぞれ叩いた。その瞬間にそれらはそこから消えた。
「にしても和颯のそのチートは不可思議だ」
「どういうことだ」
「チートを使うとき、その物体を触れる場合と触れない場合があるだろう。それはどういうことだ?」
「あぁ」
要するにドラゴンを能力を使って移動させる場合は触れるが三人を移動させるときは触れていないことだろう。
単に触れていれば目的地の精度が上がり触れていなければ思った場所当たりの適当な場所に移動するだけのことである。
だが説明するのもめんどくさい。しかも敵に説明するんなどなおさらだ。
「悪いが……」
「敵のエスさんには関係ないだろう?ほら行こうぜ白咲」
そういうと八神は手のひらをこっちへ向けた。
意図を読み取ってエスの方を向く。
「んじゃ残念だけど俺たちは用が済んだので戻ることにする」
「おい待て、まさか置いていく気じゃないだろうな……」
「何言ってんだ?敵であるお前を助けるなんてそんな事するわけないだろう?」
「せいぜい頑張って走りな!!」
快離はそういうとこっちに向かって手を伸ばして走ってくる。
俺は快離とハイタッチすると快離の体は一瞬にしてその場から消えた。
八神もその流れに乗ってタッチすると同じように消えた。
「お疲れ様ですエスさん」
そう時雨が舌を出して笑うとおもむろに掌をこっちに向けてきたので同じようにタッチすると時雨も消えていった。
「随分と億劫なやつらだ」
「それほどでも」
「にしても言いすぎなような気もしないか?」
「知らねぇよ。んじゃ頑張って走ってついて来いよ」
「ちょっと待ってくれ」
そういうとエスがこっちに向かって数歩歩いてきた。俺は動じずにそれを迎える。
目線がぶつかるとエスは声色を変えて言いだした。
「変だと思わないか」
「何がだ」
「ドラゴンのことだ」
そういうとエスは腕を組む。
俺も渋々エスの言葉に耳を傾ける。
「こんな広大な土地があるのにもかかわらずこの辺りにはモンスターは現れない。それは当然召喚されることがないからだ」
「何がいいたい」
「そんなことを言って、言いたいことは分かるだろう和颯」
そういうとエスは俺を見る目が鋭くなったのが分かった。
「このドラゴンは一体どこから来た」
「迷い込んだだけだろう」
「戦争が起きたのはこの辺りではない」
俺は咄嗟に睨み返した。
「第三ラグナロクはすぐ目の前だ」
エスはそういうと俺の背中の方へとおもむろに歩き出した。
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