第三章
国からそれほど離れていない永遠と続く広野。
周りを見ても、国、草、草、ドラゴン、泣き叫ぶ快離、それを追うドラゴン、草、草と正直言ってここの空気は俺からして非常にうまい。
もちろん自分の国の空気が一番うまいことは明らかであるがやはり草が生い茂る広野にはまた違った風物を感じる。
俺の目の前にいるのは倒れたドラゴン。薄汚れた緑の鱗に、蛇のように長い胴体。手足は短いが、顔は人間を丸呑みにできるくらいには大きい。胴体だけでも俺と同じくらいの高さを持っている。ドラゴンが立つとなるとどれ程の大きさになるのか気になってしまう程の大きさ。
そんなドラゴンを軽く叩いた。するとドラゴンはその場から一瞬にして消えた。
これで俺は終わり。俺は手に持っていた槍に多少の力を込めるとその槍は一瞬にして粉々になり紫色の煙となった。俺は掌を上にし待っていると煙は徐々に集まり最終的にはそれは小さな紫色の石ころとなった。
石ころをポケットに入れ、声のする方を見ると、
「ちょちょ、和颯!!助けて!!」
全速力でこちらに走ってくる快離と、大きな口を開けてその巨体からは想像もできないスピードで走ってくるドラゴンがいた。
役場から出た後、俺たち俺と快離、八神と時雨、エスと言うように三つの班に分かれた。
これは固まって行動すれば効率が悪い、最も効率のいいメンバーに分かれて早く討伐を済ませるという時雨の提案だ。
どうやら早く図書館に行きたくてたまらないようだった。早くて困ることもないので時雨の言うとおりにした。
効率の良いメンバーにしたはずだったがどうやら時雨の提案は間違っていたようだ。こいつは一人いるだけですべての計画を遅らせるに違いない。
「ねぇ見てないで助けてよ!!」
「なんだお前やかましいな」
快離はこっちまで走ってくると一瞬にして俺の後ろに隠れた。俺を生贄にでもする気なのだろうか。ドラゴンに食われるなんて興味はないわけではないがたまったものではない。
討伐は一人一体。手伝ってドラゴンを倒したとしてもそれは快離の手柄ではない。その為できる限り手を貸したくはないのだが……
「こいつあたしには無理だよ!だってこいつなんも効かないもん!鱗固くない!?」
「能力使えば大丈夫だろ」
「能力?チートのこと?」
「チートって言い方ダサくないか?そんなことよりドラゴン来てるぞ」
「あーもうどうしよ!なにか策ないの!?」
「知らねぇよ。火でも撃ってみろよ」
そういうと快離は俺の隣に来ると思いっきりドラゴンに向かって指を差した。
すると指先の少し先の空間が徐々に明るくなっていきそこに唐突に火が現れた。可燃物が見当たらないにもかかわらず燃え続けている火は、急激にスピードをつけドラゴンの鼻先へと直撃した。
だが、ドラゴンは勢いを止めることなく大きな口を開けたままこっちへと向かって来た。
「ほら効かないじゃん!!」
「そんなことよりあぶねぇよ!」
目を瞬かせた。俺は能力を使い少し離れた場所まで移動したが生憎快離はまだその場にとどまって目を瞑っていた。
もちろんその状態から逃げれるわけもなく、ドラゴンのその大きな顎は目標を見定めることなく勢いに任せ大きく噛みつく。
「ゲームオーバーだな」
俺は皮肉交じりにそういう。
だがドラゴンの顎は快離を捉えることなく見事に空振りすることとなった。
快離の身体はドラゴンの顎と重なっている。まるでゲームの当たり判定の大きさを間違えたかのようになっており普通なら目を疑うだろう。
この世界における快離の『チート』。
『身体の透明化』。いわゆる透明人間だ。状態は三つあり一つは普通の、体が見え触れる状態。二つ目は体は見えているが触れられない状態。三つ目に体に触れられるが見えない状態。どうやら見えない触れないの状態は作れないそうだ。だが確かにその状態になったら快離はこの世界に存在するのかとまた別の問題が発展してしまう。『チート』とはこの世界の化学の常識を否定する人知を超えた力でありそれも『チート』と片付けれそうだが、さすがに何でもかんでもありと言うわけにはいかないそうだ。
「お前何ビビってんだよどうせ当たらないだろ?」
「でもだって怖くない!?ドラゴン怖いのは当然だよね!?」
「火が無理なら氷でも当ててみろ。鱗がだめなら目にもの見せてやれ」
「話聞いてる……?とにかく分かった!」
快離はそういうとドラゴンから距離をとり胸の前に集中を込めた。
するとそこへ白い煙がおもむろに集まり小さな氷の塊を形成し始めた。すべて見事な球体をしており快離の魔法への適性を感じる。
ドラゴンはさせまいと快離に向かって勢いよく尻尾を振ったが快離は気にしない様子でそこに集中をやっていた。
案の定ドラゴンの尻尾は快離の体を透け、ドラゴンはただ一回転しただけとなった。
ドラゴンに感情はないのか困った様子もなくただ淡々と快離の方を睨みつけている。だがそれは快離にとって好都合であった。
「おら行け!!」
快離がそう言い思いっきりドラゴンに向けて指を差すと氷の粒は勢いよくドラゴンの目玉めがけて飛んで行った。
流石のドラゴンも目玉は駄目だと思ったが……
「あれ……?」
「ドラゴンつえー」
ドラゴンは全く表情を変えずに動くことなくそのすべての氷を受けきった。
痛くもかゆくもなさそうだ。
「ねぇ和颯……」
「なんだ」
「手伝って……?」
「仕方ないな。槍作ってくれ」
「さっき持ってなかった!?」
「しまった。次作るのに時間がかかる」
「仕方ないなー!」
そういうと快離は右手を思い切り伸ばした。手のひらから徐々に白い煙が集まってくる。そして同じ様に今度は縦に長く氷が集まっていった。
さっきよりも時間がかかることなく氷は溶けずに槍の形を作った。そしてそれを快離が強く握ると同時にその部分から氷が徐々に灰色になっていく。
ドラゴンはただずっと快離を睨みつけている。逃げることも攻撃することもない。攻撃が当たらないが、相手の攻撃も痛くない。ドラゴンもそろそろ疲れているのだろうか?
やがて槍が全て灰色になった時快離がこっちに向かって投げてきた。
「よろしく!」
「ほんと都合がいいなお前は」
俺は槍に目をやると槍は急に自我を持ったかのように空中に向かって進みだした。そしてドラゴンめがけて進んでいく。
流石のドラゴンも危ういと思ったのか顔を後ろにやり逃げの姿勢を取る。
その遅さでは俺に勝ることは無い。
槍はドラゴンの顎の下に潜り込みそして……
「おぉ……」
「やはり物理」
「やっぱり力、筋肉!筋肉は正義!」
「何言ってんだ」
槍はものすごい勢いでドラゴンの顎の下から脳天を貫きそして空中で砕け散った。
ドラゴンに鉄の雨が降り注ぐ。それと同時に鉄が地面に落ちる乾いた音が聞こえた。
「こんなあっけないんだね」
「お前が苦戦する理由が分からない」
「いや、だってドラゴン体残さないとじゃん!残さなくていいなら燃やして一発だったよ?」
「ドラゴンの体は鱗で守られてる。さっきも効かなかっただろ?」
「鉄すらも溶かす熱さだよ?いくらドラゴンでも生き残ることは無いでしょ」
「ドラゴンのステーキな……食べてみたいもんだな」
「お、確かに!頼んでみる?」
「時間があったらな」
そう言いながら俺はドラゴンを軽く叩いた。
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