第二章

「ついたー!」

「案外近かったですね」

「お前らの国と同じにするな」


空は満点の青空だというのにやはり雰囲気は暗い。俺たちは難なく役場へと着くことができた。

役場もやはり黒を基調としたモダンな雰囲気を醸し出す建造物。俺の好みで建物の雰囲気を決めたわけではない。ほとんどが国民の自由にしているのだが国の中央になるにつれてなぜかやはりくらい雰囲気になっていってしまった。


「にしては門からここまで近すぎる気がするんだが?」

「それもそうだろうな、お前らと違って国の真ん中に役場を置いてるわけじゃない」

「え、それって敵からの攻撃とか来ないの!?」

「そんな常に他国から狙われるような国なのはお前らの国だけだ」

「ひどくないですか!?」

「国内にモンスターがいる時点で大問題だろ」

「無問題ですよ!」

「倒せばいいだけだ!」

「問題の意図を理解しやがれ……」


とはいえこの国は特別何も大きな問題が起きない健全な国なだけで言い換えると他国との関わりが少ない。それについてはこちら側も問題だが……


「今はなんだっていい。とにかく役場だ」

「そうですよ!ちゃっちゃと終わらせてちゃっちゃと図書館行きましょうよ!」

「問題がある前提で話を進めるのやめてくれないか……」

「失礼しまーす!」


そういうと快離は戸を目一杯開いた。

俺の国にしては割と広々とした空間だが人はそう多くはいない。

奥へと進むとそこにはカウンターが並んであり何人かの役員が行儀よく常に立っていた。

俺たちは何の気なしに話しながら奥で歩いて行っていた。と、その時


「え……?」

「お?」

「「「うーわ」」」



俺が気づくと同時に三人が嫌そうな声を上げた。

当然俺も思わずめんどくいさそうな顔をしてしまう。


「何がうーわだ。俺こそそう言いたいんだが」


そこには不可侵班のリーダー。『エス』が態度の悪そうに突っ立っていた。

不可侵班。要約すると俺達感情消失の敵のような存在。感情消失を悪とするなら真向の正義を貫くさながらヒーローだ。そしてよりにもよって俺達とは違い、大規模な団体でありメンバーは数百人といた。

そんな不可侵班のリーダーともなると俺等からすればめんどくさく絶対に会いたくないような奴なのだ。

手首に青色の布を巻き灰色の髪に赤いメッシュが数か所入っている。いかにもチャラそうな見た目だが不可侵班のリーダーと言うこともあり根は真面目だった。


「お前和颯の国に何の用だ!!」

「そう挑発するな」

「そうだそうだお前敵の国に来て何用だ?スパイか!?」

「そうですよ、遠慮はいりません!斬首です」

「待て待て待て、やめろ。このままだと俺らが悪みたいだ」

「実際そうじゃないか和颯」

「てめぇは守られてんだから黙ってろ」

「はぁ……」


三人が俺をかばうように立ちふさがると各々が挑発を始めた。

ため息をつきたいのは断然こっちの方なのだがやはり相手は不可侵班のリーダー。敵なのだ。

とはいっても俺の国の、しかも役場で問題を起こされては困る。面倒事はできるだけ避けたい。


「やめろって、和颯もしかして不可侵班の方につくの!?」

「お前……裏切ったのか?」

「まぁ待て、こいつは俺に用があるんだよ。そうだろ」

「間違いじゃない。正直国に渡せればよかったのだが来たというなら都合がいいな和颯」


そういうとエスはファイルをそのまま俺に渡してきた。中には何枚かの紙が挟まっている。

どれも丁寧な楷書で書かれており全て手書きだ。下の方には「不可侵班 リーダー兼責任者 エス」と書かれておりやはり予想通りだと理解する。


「なんだこれ?お前責任者だったのか」

「責任者って何?」

「社長みたいなもんですよ。不可侵班が会社かは知りませんが」

「いちいち首をつっこむな葛楽。これはお前等には関係のない紙だ」


三人は俺を囲むようにファイル内の髪を覗き見た。

どう考えてもこいつらが好むようなものではないが見られても問題ないので適当にしておく。


「なにこれ?道作るみたいなこと書いてるけど」

「そうだな快離。和颯は感情消失内でも敷地や土地に関する問題に携わってる。要は責任があるわけだ。だから国と国の間に道をつくるとか整備するとなった時によく助けてもらってる」

「ん-……なんだか難しいね」

「と言うか感情消失の名前もう知ってんのか」

「確かに!もしかしてあたしたちが旅してるのも?」

「当然だ快離」

「やはり話は早いんだな!」

「全く勇、もう少しこのグループが著名だということを自身で考えたらどうだ」

「そんなにも話広まってるんですか?」

「そうだな、少なくともまだ城に残っている奴等は『勝手に名前を決められて面倒』だとほざいてたな」


知らなかったがやはり感情消失が及ぼす影響は大きいのだろう。慎重に行動しなければならない。

ただやはり不可侵班にこのことが伝わっているとなると早く城に戻ったほうがいい気がする。城に残ってるやつらと不可侵班で大きな戦闘が起きては事の収集は厄介だろう。

ただし今は俺の国での問題解決だ。そう考え俺は今まで置物のように無表情を貫いていたカウンターにいる役員に話しかける。俺が目を合わせた途端その光のない瞳からは想像もできないような笑顔へと切り替わった。


「最近何か戦闘に関する問題はないか?」

「ありますよ」

「「「あるの!?」」」


そういうと三人はカウンターに身を乗り出した。役員はそれに驚きもせずにファイルを取り出すと淡々と説明を始めた。


「近頃この国周辺で『ドラゴン』と言うモンスターが現れるようになりました。原因は不明ですが国に支障をきたす可能性があるため即刻討伐をしたいのですが生憎この国の戦闘能力は乏しく猫の手も借りたい状況でして……」

「ドラゴン……!?」

「それって最近見なくなったけどゲームだと最強のやつだよな!!」

「急激にヤル気が実ってきましたよ!!」


各々が独特な興奮の仕方をしている。

そんな三人と関係のないにも関わらず興味深そうに話を聞いているエスを完全に無視し役員はまた淡々と話し出す。


「討伐すべき『ドラゴン』の数は計五体。一体ずつ報酬も用意しております。ドラゴンの鱗や牙等の素材を入手することができれば、この世界での生物の情報や武器防具等の生成に大いに役立つと思います。ですので討伐後の処理はこちらにお任せください。」

「うおおお!!みなぎってきたぜ!!」

「モンスター討伐に報酬……やっぱり異世界最高!!」

「落ち着けお前ら……そもそもこの国の精鋭を集めた討伐隊が苦戦してるんだ。甘い考えをするなよ」

「心配すんな!!俺ら最強だろ?」

「時雨の国のモンスター討伐で弱音吐きまくったやつとは思えねぇな」

「今回はグロくない。そゆことだ」

「どういうことだ」


そんな会話をしていると完全に蚊帳の外だったエスは足を出口の方へと向ける。

俺たちの方を向くと顎を突き出した。


「とりあえず俺はおいとまさせてもらうよ魔王諸君」

「随分人聞きの悪い言い分ですね」

「お?こっちは喧嘩上等だぜ!?」

「待て待てお前等挑発に乗るな」


いつもよりも殺気立ってる八神の手を引くとエスはふっと鼻で笑った。

それを聞くと同時に三人の勢いは強くなる。これは完全にライバルだ。実際にどっちの方が強いのか気になってしまうのは性だろうか?


「そうだ、そういえばドラゴンは五体って言ってたよな?」

「そういえばそうだね!」

「どうだエス。一緒に来ないか?」


俺の言葉を聞くと同時に三人はカッと目を見開いた。

と同時に俺の方へと向かってくるといつもよりも大きな声で話し出す。


「え?こいつとか!?」

「冗談も程々にしてくださいよ和颯さん!?」

「けど確かに楽しそう……」

「だろ?」


誰も首を縦には振らない。

だがモンスター五体の討伐なら五人で行くのが効率がいい。


「どうせバラバラの行動になるんだ。今日だけはいいだろ?エスはどうだ?」

「そうだな。お前らと共に行動するのは裏切り行為になりえるし何より俺はしたくない……が、報酬が出ると言われれば話は別だ」


そういうとエスはカウンターの方に向かうと役員と話し出した。

三人とも断じて笑顔を見せないがそんなに嫌そうでもなかった。

エスと役員との会話を待っているとエスがこちらを向き話し出す。


「よし魔王共。さっさと行くぞ。目標はドラゴンだ」


そう言いエスは無表情で歩き出した。腰につけてある剣が歩くたびに金属音を発する。


「待て待て、リーダーは俺だぞ?」

「ま、目標は同じだし、頑張ろ!!」

「そうですね!!一瞬で粉々にしてやりましょう!!」

「死体は残しとけよ……」


そう言い俺ら感情消失とエスをすくめた五人は国についてすぐ、国の門へと歩みを進めていった。

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