第四章 知恵の国常夢
第一章
「すまん、待たせた」
「全然大丈夫ですよ」
「「待ってたぜ!!」」
遠くから手を振りそういうと勇と快離が親指を立てそう言った。
皆わざわざ待たせていたというのに笑顔で迎えられ仲間の親切心を感じた。
「ではいきましょうか」
「ついに和颯の国だね……!?」
そう、感情消失三番目の国。それは俺の国『常夢』であった。
『常夢』は名前のインパクトはあるものの大きくも小さくもない、中規模な国であった。
他国の交流などは多くなく鎖国をしているわけでもないのに他国との接触の機会は少なった。
「にしても『常夢』って変な名前だな……」
「失礼だな、とはいえこれは国民の投票によるものだ。不満があるならお前が代表して言うか?」
「え、遠慮しとくぜ……」
「というかなんか今日なんか暗くない?気のせい?」
空を見上げてもいつも通り違和感のない空だ。だが快離がそういうのも無理はない。
ここ『常夢』はモノクロを基調にした建物が多い。実際周りを見てみても基本は白黒の二色で構成された建物が多く雰囲気は暗かった。
デザイン的には俗にいう「館」を参考にした建物が多く二色だがおしゃれだと感じるものが多くあった。
そのうえ国が経営している役場や図書館などの施設はその大きさに圧倒されること間違いなしだ。
「確かに俺も思う。俺あんまり白咲の国好きじゃないんだよな」
「なんでだよ」
「だってこの国不気味だもん」
「そんなことないですよ?落ち着いてて空気が澄んでていい国じゃないですか!」
他の国から来る人にとってはこの国の景観や国民に対し賛否両論な意見がいつも飛び交う。
何せこの国にいる人間は基本真面目で勤勉、いかにも黒が似合うだろう性格の人間ばかりだ。
そのうえ勇や時雨の国にいるような人や出店に娯楽などは滅多になく、あるのは図書館や学校などの頭を使うような施設ばかりだ。
「空気が澄んでると言えばそうだけど」
「すごいのがさ、さっきからすれ違う人皆に礼されてるよね!」
「しかもちゃんと目合わせてきて、ここまで来ると若干怖いぜ?」
「お前ら言いたい放題だな」
この国では大きな貧富の差や格差が基本的にはない。
もちろん禁止しているわけでも強い法律があるわけでもない。国民が皆真面目で平等の精神持っているため、王という立場の人間は貴い存在と思い称えるべきだと考える人が多いのだ。
無論この国の人は王の存在を理解している。礼をしているのは俺ではなく俺らなのだろう。
「そうだな、すまんかった」
「この国宗教色が強いね」
「そんなことない、ここはフリーダムな国だ。この国にはストレスや憎悪の感情は存在しない」
「その代わりポジティブな考えをする人もいないんだよな」
「いいじゃないですか!こんなにも統制の取れた国夢のようですよ?」
時雨がそういうと二人は腕を組み「うーん」と唸った。この国の何がだめなのだろうか。
それとも彼らの国は賑やかな人が多いため、それとのギャップについていけてないのだろうか。
「とりあえず俺の国に来たんだ、それこそ感情についての本や資料は山のようにあるぞ?」
「そうですね、調べ物にはもってこいです!」
「えー、そんな堅苦しいのいやだ!」
「そうだ、俺らの国みたいなクエストとかモンスター討伐的なもんはないのか?」
「お前ら何のための旅か忘れたのか……?」
そう言いながら考えるため空を見上げる。
この国にはモンスターが出るような広い土地もなければ栄えているギルドなんて存在しない。
そもそもこの国の国民は戦闘なんて言葉知識以外では知らない、剣すらまともに握れないだろう。
「まぁ、モンスター討伐と言えばこの国の周りはよくモンスターが出やすい。だが役場の人間にそれの討伐の仕事を任せてるのだが……」
「ちょうどいいじゃねぇか!それ手伝ってやろうぜ!?」
「生憎人では足りている。しかも彼らの仕事を盗むのは善にはならないだろう」
「そうなんだね……」
あからさまにがっかりと肩を落とす二人、この国に来てからというもの二人がずっと阿吽の呼吸のようだ。
とはいえモンスター討伐は時々苦戦を強いられ俺のもとに助けを求めることがある。役場にいる人間はそこそこの戦闘力はあるもののその力は全てを合わせたとしても俺らに並ぶことは無い。
「一応役場に向かってみるか、何かあればそちらに向かおう」
「おぉ!いいね!」
「何かあるって信じよう……!」
「それはそれで困るんだが」
そう言い歩いていると時雨の足が止まった。
何かに気づいたようだ。時雨が顔を上げ驚いた表情をしている。
「どうしたの?」
「こ、これって図書館ですか……!?」
時雨の目線の先、俺らの立ち止まった場所はちょうど図書館と書かれた建物の目の前だった。
それは大きな建物でありその大きさは役場と同じ、またはそれ以上だ。漆黒の壁面には太陽光による影を生成を上手く理解し緻密な罫線の上出来上がったこの国一番の建築物。
この図書館の為に他国から来る人もいる程の完璧で欠けたモノも無いなんでもそろっている場所だ。
「そうだ、この国唯一にしてこの付近一の図書館だ」
「すごい……こんな図書館あこがれてたんですよ!私本が好きで」
時雨がなんだか語り始めた。とりあえず相槌を打っておくが……
なんだか永遠に話している。時雨はその知識で感情消失を良く助けることがあるが知識を得ることに趣を感じるなんて知らなかった。
助けを求めるように二人の方を見ると困ったような顔つきでそっぽを向いていた。
時雨はこんなにも勤勉だっただろうか……
「つまり私元々は宗教色が強い……」
「わかったわかった、役場行った後ここに来るか?」
「もちろんですよ!むしろ行きたいぐらいですから!!」
時雨の目がキラキラと輝いている、楽しいことは良いことだ。
学ぶことに躊躇なく悦楽を感じるものはその勤勉さ故に良い人柄を手に入れる。そう考えているため時雨がこんなにも嬉しそうだと俺にとっても都合が良い。
「とりあえず役場にいそご!盛り上がって来た!」
「おうよ、強いモンスターがいればこの俺がボッコボコよ!」
「お前ら時雨の国でモンスター討伐してせいか血の気が増したな……」
とはいえ初めはどんよりとしていた空気が闘志が高まったおかげでよくなった。
この調子で進めばよいと国王ながらそう思った。
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