第六話
「お、見ーつけた!」
「ほんとか」
広い広野、障害物さえ見当たらない場所。ここにいるとお天道様から逃れることはできないだろう。
快離の思うように腕を引かれて走っているとやはりモンスターよりも先に人を見つけた。
と言っても今回の標的はモンスターではなく人。この際無駄な慈悲は捨て、完全完璧な最悪ヒールとして相手にしようと考える。
もちろんできればしたくないがこれも効率の為だと心を痛める。
どう考えても自分の為だけに人の物資を奪うなど、ヒールでもなんでもなくただの悪なのだが。
「と言ってもほんとに盗むんだよな」
「なにとぼけたこと言ってんの? 言ってんの和颯から言い出したんでしょ!」
「それはまぁ、そうだけど」
「それに案外簡単に渡してくれるかもよ?」
「そんなことはないだろ」
そういいながら標的を遠目に見る。
幸い、緑の生い茂ったこの世界に来て何年も経っているわけで、当時眼鏡をかけなければ色しか認識できなかったこの腐った目も今では鷹のように先の先まで見える。
自分で見えなくした目なのに自らの力で直すというのはなんと滑稽な事だろうか。
「男二人に女一人」
「渡しては」
「くれなさそうだ」
「残念」
そういって快離は掌の上に右手を目の前に突き出した。
途端、目の前、空中から冷たい冷気が漂い始めた。
快離の得意とする魔法だ、今使ってる魔法は氷かなんかだろう。
「魔法使いのくせに今回は随分物理的だな」
「仕方ないでしょ? 今回的にするやつ男2人だよ?」
「俺が動くから任せろ」
そう言っているとやがてその冷気は固まり棒状になった。
それを左手に持つと、持った場所から徐々に灰色に染まっていった。鉄に変えたのだろう。
「やっぱり魔法ってすごいな」
「いまさら何言ってんの?早く行くよ!」
「焦って変な行動起こすなよ?」
「もちろん! あたしが挑発するから和颯は何かあったとき助けてね?」
「了解」
そういうと快離の腕を掴んでチートを使った。
その瞬間。俺らの視界は変わった。
「こんにちは、旅人さん!」
完全に悪役になりきっているのだろう、さっきの棒を後ろに持ち煽るようにして話し出した。
遠目で見た通りの平原の中心。
俺らはそいつらの目の前に出たせいですぐにお互いが認識しあった。
急なことに驚きが隠せないのだろう、三人とも目を点にして固まっている。
やはり細身の男性が二人、同じような女が一人。
台車などモノを運ぶものやめぼしい物はぱっと見なく俺らと同じようにモンスターの目玉狩りだろうと推測する。
「こ、こんにちは……どなたですか?」
「そんなに緊張しなくていいよ?あたしたちはただ君たちにお願いがあって来ただけ!」
「と、言いますと……」
細身の男性が話し出した。
相手は気が弱いのか、それとも緊張しているのか、手を組みしどろもどろになっている。
そんなことは気にせず快離は目を離さずに淡々と話している。
表情はずっと笑顔で逆に狂気を感じてしまうが彼女が残酷だったことは無いので今回も健全に終わるだろうと、推測する。
もちろんこの状況で俺は入るわけにもいかず相手と目を合わせないよう話を聞いていた。
「お願いは一つだけ! ちょっと目玉分けてくれないかな?」
「え、目玉ですか……?」
明らかに相手は困っている。
それもそうだ、普段の平和ボケした環境下でこんなことを言われるのは想像もしてないだろう。
そんな彼ら、人を見た目で判断するなんて弱者のすることだが相手はなんだか弱弱しい。
押したら簡単に倒れてしまいそうだ。
日が強いのに白く華奢な体つきをした男性は一瞬考え込むとパッと笑顔になった。
「お金に困ってるんですか?僕たち目玉をお渡しすることはできませんが……」
「そうか、君たちが行儀よく渡してくれないとなると」
「一緒にモンスターを狩りませんか?」
「いいね!」
「快離?」
こいつは二重人格なのかと疑いたくなる。
協力、とにかく奪ってやろうと意気込んでいたがまさかそんなことを言われるとは。
なぜか相手に賛同している快離の首根っこを掴み俺が前へ出る。
「それでいいよね?二人とも」
「待ってくれ、俺等はそんな時間に余裕がないんだよ、だからお前らの」
「僕らまだ二つしか目玉集まってないんですよね」
「……そうか」
これは、確かに奪うよりも協力した方が速そうだ。
しかしそうなると俺らのグループがわざわざ二手に分かれた意味が無くなるし、なにより倒した報酬はそれぞれに渡るのだから効率が悪くなるが……
「僕たち、ちょうどいい狩場知ってるんですけど何より戦力が足りなくて」
「よし、行こう」
「和颯?」
協力の方が確実に効率が良いことが分かった。
そうと決まれば相手方には愛想をよくし最大限の成果を得て帰ろう。
どうせなら最後にこいつらの分の手柄を盗めばさらに大量の目玉が盗めるだろう。
「快離、協力するぞ」
「了解!」
ここにさっきまでの悪しき心はなく、ただ単純に協力を要請する純粋な部隊となっていた。
とはいってもこちらには戦力がある。ここで効率よく集まればもしかすればいろんな部隊から盗むよりも良いかもしれない。
「こいつは喜城、俺は白咲だ」
「僕はオド、元々4人の部隊だったんですけど最近一人抜けちゃって」
「そうなのか、お気の毒さまだ」
「魔王を名乗る人間に人質にされて……」
「え、死んだの!?」
「どうでしょう、その先のことは知らないので」
「とりあえず話はあとだ。とにかく今はモンスターの狩場?とやらに向かうぞ」
「そうですね、お願いします」
なんだか突飛な話だが、物資を盗もうとしてた部隊に協力することとなった。
なんとなく魔王という言葉に違和感を覚えたがお構いなしにオドという男に付いて行くことにした。
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