第五話

 広い広野、広すぎるがゆえに分かりやすい目印がなく自分がどこにいるかさっぱり分からない。

 草の臭い、嗅覚を刺激しすぎてそろそろ嗅覚疲労が起きてきている。

 心を癒す日光、集中を阻害し、戦闘では厄介な目くらましにとなっている。

 モンスターの目玉を集めるため、四人は二手に分かれ、広い広野にいるモンスターを効率よく狩ることにした。

 のはいいが……


「しまった」

「あー!またやっちゃったの!?」


 今の状況と相まって、順調とはいっていなかった。

 探索を初めて2時間弱、さすがに俺等、特に俺の集中力は切れ始めていた。


「もう、また目玉に傷でもついたら知らないよ?」

「申し訳ない」


 そういうと快離は倒れたモンスターに駆け寄り目のあたりをまさぐり始めた。

 遠目で見たら完全に眼科だがやってることは目玉の摘出と完全に真逆の行いだ。

 こんなことをしているとモンスターを見つけにくいのも分かる。

 多分モンスター同士で「あいつらは気をつけろ」なんてアピールでもしてるだろう。

 そんなことより今は目玉の傷が気になる。


「それ、提出できるか」

「大丈夫そ、気を付けてって言ったのに」

「すまない、集中力が切れ始めてる」

「まぁ確かに効率悪いもんね」


 快離は腰のあたりからナイフを取り出すとそれをモンスターの眉間に突き刺した。

 派手金髪が楽しそうにナイフを振る姿はサイコパスにしか思えなかった。

 まるで手馴れている動作だが知識のない俺からすれば拷問のようにしか見えない。


「目玉提出するとか普通に考えて物騒だよな」

「けど最近はグロが苦手な人のために死体提出がOKになってるんだよ?」

「え、それ持ち運び不便じゃないか?」

「台車持ってくればいいんだよ。ま、そもそも日本人は平和ボケしすぎて、こういうことしないけどね」


 なぜかやけに冷静な彼女はそう淡々と話した。

 事が終わったのか、血まみれの布の袋を持ってこっちへと歩いてくる。

 周りにモンスターがいないことを確認すると俺も槍の汚れを取った。


「それで何個め?」

「八つ目、ほんと効率悪いね……」

「二時間で五つは流石に悪すぎる、やっぱりモンスターの巣とか群れとか見つけるべきなんだな」


 モンスター狩りと言っておきながらやっていることは完全に散歩のようなもの。

 広い広野を道も分からずただただ歩いて、モンスターをの見つけては狩る。を繰り返すのは流石に苦行としか言いようがない。


「完全に出鼻をくじかれたね、なんか効率的な方法ないの?」

「と言ってもモンスターの目玉を集めるいい方法だろ?」


 こうやって頭をひねることも何度目なのか覚えていない。

 幾度となく考えた策を練っては捨て練っては捨てと繰り返してる。


「これだけは案として出したくなかったが」

「お?なんか策あるの!?」

「俺らの評判が悪くなるぞ」

「何そのお店みたいな言い方、まぁあたし達感情のないメンバーとか言ってるけど所詮ただのグループ?部隊?そもそもあたしらの噂なんて立たないでしょ」

「少しは心配したらどうだ、勇の国にポスター張ってあったし」

「大丈夫大丈夫、そんなことよりその案っていうのは?」


 快離は首を傾げてこちらを見る。

 こんな純粋なやつにさせて良い事なのか甚だ疑問だがここは効率を優先させよう。

 何より今はそうでもしないと八神と時雨からの期待がパーだ。


「一番の効率のいい方法は……盗みだ」

「おぉ、ナイスアイデア!」

「え、いいのか」


 意外にも賛成なのか目を輝かせている。

 なんとも杞憂だったらしい。


「お前こういうのは認めるタイプなのか?」

「いやいや、さっきからあたし『盗む』って言ってたじゃん?」

「本気の意見だったのか……」


 なんだかため息が漏れる。

 実際のところここまで歩いてきてモンスターにあった回数よりも、人にあった数の方が多い。

 ゲームばかりの都会である北東から人がくるとは思えない。到底南東からくる人が多いだろうがそんなにも広野に出る理由があるのだろうか?

 やはり俺らと同じ、ここに出て少し金を貯める法を取っているのか。

 何はともあれモンスターを倒すより他人が狩った目玉を得る方が目玉の採取量は格段に確実に速くなる。

 一番の問題は快離が却下することだったがあっさりと許可が下りた。


「ほんとにいいのか?人から盗むって言ってんだぞ?」

「自分から言い出したくせに、どうしたの?ビビってるの?」

「それは、ただの考えすぎだ」

「何それ、せっかくなら楽しくゲットしよ」

「お前、やけにテンションが高くなってないか?」

「気のせい気のせい」


 そういうと快離は俺の手首を掴み走り出した。

 何を目指して走り出したかは知らないが何故だか頼りになる気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る