第四話
「よっこいしょいっと!!」
轟轟たる鳴き声と共に倒れていく緑の怪人は、その皮膚から見たこともない茶色の液体を弾けさせ、奇声を上げて倒れていった。
それと同時に剣を腰にしまった八神は「ふぅ」っと一回、ため息をついた。
「お疲れ様!」
「この程度で疲れてんのか?」
「うるせ、この剣見た目に反して結構重いんだぜ!?」
「けどまだ四体目ですよ? ここからが勝負です!」
「無茶言うなよ」
八神が持ってる灰色の剣は特別なものだという、詳しいことは知らないがきっと貴重な素材で作られているのだろうと無知ながらも考える。
そんな俺は勇の苦労を理解することなく、乱暴に振り回していた槍にこべりついて剥がれない奇妙な色をした血を丁寧にふき取る。
「なんでこんなに汚いんだ?」
「なんでって、血なんですから仕方ないですよ」
「そうはいってもこんなゲル状にならなくてよくないか?」
「げる、じょう、って?」
「スライムみたいなもんです」
「納得」
「けど様になるだろ?」
「見た目の問題か?」
俺ら4人は結局時雨の言ったモンスター退治のため、北西の広野でモンスターと戦っていた。
数が数なので効率よく耐久重視で、男二人が前線に出て攻撃をしていた。
とはいえ相手は所詮雑魚、男で二人もあれば楽々倒せていった。
女二人の仕事はというと……
「お、おい、八神」
「なんだ?」
二人がモンスターの方に向かって行ったことを確認するとすかさず八神の肩に手を回し目線を反対に向かせた。
八神がびっくりしているようで目が点になっている。
「ど、どうした急にそんな馴れ馴れしく……」
「そういうことじゃない」
そういうと親指で二人の方を指した。
八神は察したのか額に汗を浮かべた。
「あの作業はお前見たくないだろ?」
「あぁ、そういうことな、ありがとう……」
そういうと八神は急に苦い顔をし、目線を下げた。
二人の方を見ると、快離と時雨は丁寧にモンスターの左目を抉って袋に詰めていた。
そう、目玉を抉って……
モンスター討伐と言っても討伐した数なんていくらでも騙せる。
それもそのはず、この広野には大量のモンスターがいるのだ。
生態系を崩しに崩しまくったモンスター達を、一匹一匹把握するほど暇のない国のために定められたモノ。
冒険者、及びモンスターを討伐する者は証拠としてモンスターの体の一部を提出しなければならないルールがあった。
「いやさ、あれって目玉じゃなくてもよくないか?」
「馬鹿言うな、それ以外だと一匹からいくらでも取れるだろ?」
「いやいや、一匹に一つしかないやつ……例えば、生殖器……とか?」
「そいつが雌だったらどうするよ?」
「……じゃぁ舌とかは?」
「切り方で大きさに差が出るし何せ唾でいっぱいの袋を提出する気か?」
「……けどさぁ」
そういうと八神は二人の方を向こうと顔を動かした。
それを気づきすぐさま八神の顎を掴み無理やり止めた。
「ちょ、おもえ」
「何やってんだ、今ちょうど視神経切ってるところだから」
そういうと八神の顔は一気に青ざめ、素早く座り込んだ。
「そ、そんなに怖いか?」
「冗談じゃない!想像しただけで……」
「このままじゃPTSDまっしぐらだな」
「あ、やば」
「うおっ!」
そう、快離が呟いたと思うといきなり鼻の奥を突くような刺激臭がしてきた。
明らかにアンモニア系の臭いだろう。くさいというより痛い。
「おい、お前何してんだ!?」
「死んでる生き物だったら多少遊んでも平気かなーって?」
快離は右手に得体のしれない内臓を持ち、左手で鼻をつまみそう言った。
俺もすぐさま鼻を腕で覆った。
「快離、八神は今無くした感情を取り戻しそうだ」
「おおおお!?ごめんごめん!いやでも、感情が戻るならいいことだよね!?」
「とりあえずそれしまってください! くさいんですよ!」
時雨はそう同じように鼻を腕で覆って言った。
こいつが困った顔をしているのは新鮮だ。
「や、八神……大丈夫か?」
「大丈夫だと思うならお前の感性を疑うが?」
「ご、ごめん」
八神はやはりしゃがんで鼻をつまんで小刻みに震えていた。
こいつは本当に『怒り』の感情がないのだろうか?怒ってないだけだろうが。
そもそもなぜ俺が謝っているのだろう?問題を起こしたのは快離ではないのか。
そう考えていると、空気を読まないのか楽しそうな顔をした二人がやって来た。
「お疲れ様」
「疲れてないけどありがと!」
「あれ?勇さん……」
「気にしないでやってくれ……」
八神はいまだにダウンしているが、それはともかく一旦の討伐は終わった。
次はまたモンスターを探すことになるが……
「なんかこの調子だと三日経っても終わらなさそうじゃない?」
「それ思った、まだ九体目だしな」
「モンスターを探すのに時間がかかってるんですよ、倒してからはすぐなんですけど」
「これは、効率をもっと重視しないとね!頑張るぞ!」
快離はそういって右手を上に突き上げた。
八神と真逆でとっても楽しそうだ。
「と言っても、どうするのがいいんだ?」
「人から盗る!」
「冗談じゃねぇよ」
「四人で分かれるとかどうでしょう?」
「おぉ!それだと効率的! だけど……」
「俺はそれに反対するぞ」
いまだに顔色の悪い八神が顔を上げずに言った。
確かに個々で動くとなると自分で目玉を抉らなければならない。
そしたら最後。気絶した八神がモンスターに食われ彼の物語はここで終わるだろう。
「うん、個々はやめとくか」
「じ、じゃあ二手に分かれませんか!」
「それ賛成!」
「そうだな、それが最善策だ」
「なら俺は時雨と行かせてくれ!」
急に立ち上がった八神は青色の唇からそう発した。彼の目だけは皆と違い真剣だ。
「何でそんな必死に……怖いの?勇ちゃん怖いんだ?」
「そうじゃない、お前と白咲だけは信用できん!」
「ど、どうして?」
「お前らのおふざけは冗談内に収まらんからな!」
「確かにな」
「え!?ちょっと和颯否定してよ!」
「妥当な判断ですねー」
「嘘じゃん……」
こうして二手に分かれるメンバーが決まった。
「まぁじゃあよろしく!向こうよりも大量収穫目指して!」
「そうだな、さっそく行くか」
なんだか頼りないがこいつの戦闘スキルには俺でさえ感化される。
考え方は屑だが面白いことが起こると多少の期待をしていた。
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