第三話

 ここは時雨が王となって政治を務めている国『アルカディア』。の、北東に当たる大都会。

 二次世界の中では最先端の未来を生きてるといっても過言ではない国だった。

 プラスチックのようだが硬くて白いこの地面は日本、いや地球でも見たことがない。

 近未来を具現化したようなこの国は、何処を見てもビルやらマンションやらモールやら……。だが同時にどこを見ても白かった、機械的で面白みに欠ける。

 ここまで入り組んでいると平均気温が上がりそうだったが、意外にも風通しが良かったのか暑さは予想以上に感じなかった。

 地面にはゴミがほとんど落ちてない。それもそのはず、この国には均一にゴミ箱が設けられていた。というかそもそもゴミを捨てる人がこの街にはほとんどいない。

 ここまで歩いてきたが人に一度も会っていない気がする。不思議に思っていたが八神や時雨はそのことをまったく気にしない様子だった。

 他の皆の会話を無視し、そう考えながら時雨の方を見ると、俯いて「うーん」と唸っていた。


「どうした時雨」

「少し、いや、大変重大な問題が起きましてね……」

「ん? どうかしたの?」

「まさか早くもこの問題がやってくるとは……」

「え、お前、それ俺らの旅に使う金が入った財布だよな!?」


 時雨が持っていたのは俺らの旅費をまとめて入れてある財布。

 俺らが個々に所持している財布とは別に作っておいた、旅で一番需要であり丁重に扱わなければならないものだが……


「に、2000円しかないの!?」

「これだともってあと一泊ですかね……」

「嘘だろ、こんなん呑気に旅なんかしてる場合じゃないぞ!?」

「うまいで有名なあの棒状の駄菓子も200個しか買えない!?」

「そんなこと言ってる場合か」

「いや、200個もあれば一週間は持ちますよ!」

「時雨も乗っかるんじゃない」

「そもそも2000円で4人が入れる宿もなくないか?」

「お菓子を買い貯めてあたしたちは野宿!?」

「そろそろ黙ってくれないか?」


 持っていた財布の中身を3人が覗き込むように見ると中には紙幣が二枚と多少のコイン。

 この世界でのお金は日本と見た目は違うが大きさや素材はほぼ一緒だった。

 というのもすべてのお金をコインにしても紙幣にしても、どちらにせよ使いずらかったため結局日本と同じにしたらしい。

 ともかく、今解決すべき問題は時雨の持っている財布の中身だ。


「お前まだ国二回しか回ってないんだぞ!? それなのにもう無くなりそうってどういうことだ!?」

「いやー、まさか勇さんが本当に旅を続けるなんて思ってなくて……そんなに用意してなかったというか……」

「まぁこれは流石に勇が悪いよね!」

「嘘だろ!? ここでも俺悪者扱いかよ……もうちょっと仲のいいチームにしようぜ?」


 八神は怒ってる、というより焦った様子で話していた。そもそも八神は『怒れない』のだが。

 俺等感情のないメンバーはそれぞれ感情を失っている。

 その中でもリーダーの八神は『怒り』の感情を失っていた。

 そのため、うつうなら怒る場面でも冷静であり、非常に優しい性格をしていた。

 それに漬け込み俺らは甘えているのだが……


「というかどうするよ?このままじゃ旅費足りなくて餓死ENDだぜ俺ら!」

「いやいや、駄菓子200個買えば……」

「聞いてたか?お前は黙ってろ」

「それは気にしなくて大丈夫です!この国には働き口があるので」

「働き口?なんだバイトでもするのか?」

「働くのは嫌だぜ俺は」

「違いますけどそんなもんです」

「え、なに?何一つ理解できないんだけど」


 時雨は顔を上げ話しだした。

 確かに今はこんな呑気に散歩してる場合じゃないと気づく。


「この国の北西にはものすごく広い広野があるんです、そこで適当なモンスターを倒せば少なくとも確実にお金が入ります!」

「え、この国は敷地の中にモンスターがいるの?」

「まぁ国内と言っても広い広野を無理やり城壁で囲んで国って言ってるようなもんですから」

「そんな重大な問題放っておいて大丈夫かよ」

「なんか随分と……適当な国なんだね?」


 流石の快離も言葉に詰まっている。

 というか国内にモンスターがいる重大な問題を『適当』の二文字で済ませるのか……


「だがそんな仕事、国民の中二病で勇敢な人達が率先してやらないのか?」

「確かに!そうだとしたらもうモンスターとかいないんじゃない?」

「それが起きないからモンスター退治なんて言う仕事があるんですよ……」

「へー、そんな簡単そうな仕事誰もやらないのか?」

「この世界はゲームの世界じゃないんですよ!」


 時雨がふくれっ面を見せて怒っている、何か癪に障っただろうか?


「そもそもこの世界にはモンスターはいなかったんですよ!」

「そうなの!?」「そうなのか!?」


 二人が一斉に目を見開いて驚いた。

 声が大きく邪魔をしたかと後ろを見たがそもそも人はいなかった。


「この世界で生きてた生物なんて基本地球と同じで…… 変わってる生物と言ってもトカゲぐらいしかいなかったんですよ? というか進化の過程でスライムやらゴブリンみたいな生き物が生まれたらそれは奇跡じゃないですか」

「たしかにあれって何がどうやって進化した姿か想像も出ないな」

「ゴブリン程度ならその程度の奇跡ありえそうじゃないか?」

「ありえない、ゴブリン程度の知性があればそれこそ進化して人間になってるだろうな」

「え、なんかそう考えるとゴブリン気持ち悪くなってきたんだけど」


 急にリアルな話をして若干快離が震えている。

 なんだか気味の悪い話だ。


「話を続けると、そんなモンスターもいないこの世界に『異世界転生』を果たし、モンスターや獣に期待していた日本人は呆れたんです。けどある日、自分たちは願えばそれが手に入るこの世界の『ルール』に気が付いたんですよ」

「ラグナロクの予感」

「懐かし……そんなのあったな!」

「え、生きてたの?」

「まぁ……そん時に感情のないメンバーが生まれたからな」

「でも300年くらい前じゃないの?」

「あの……」

「あ、ごめん」


 なんだか話がどんどんと壮大になっている気がする。

 そのせいか勇と快離の集中がどんどんと切れてきていた。

 快離に至ってはカバンのチャックを弄っている、飽きた子供のようだ。


「つまり日本人達はチートを使ってモンスターを生み出した訳か」

「そうです、誰かは知りませんが多分『RPGに出てくるようなモンスターがこの世に生まれろ』なーんて願ったんでしょうね」

「代償が大きそうだね」

「まぁ多少の犠牲は払っただろうな」

「命と引き換え?なんかかっこいいね」

「いや、それが故に消えた人間……」

「そのせいでモンスターが生まれたんですよ。でも日本人は予想以上に外道だったんですよ!?」


 いきなり時雨がそう叫んだ、なんだか感情的な気もする。

 遊んでいた快離も手を止めて口を開いたまま話を聞いていた。


「奴らモンスターを生み出したくせに一向に倒そうとしないんです!ゲームと違って命がけだから?倒したところでメリットがないから?そもそも戦えない?おかしくないですか!?生み出したのあなた達のくせに責任取らないんですか!?放置ですか!?」

「……」


 俺らは黙ってしまった。

 予想以上にリアルな事情で言葉が出ない。


「しかも皆外にでる必要がないからって家でゲームですよ!今倒すべきなのは、順番を待ってくれる魔王ではなくて、広野に出る雑魚なんですよ!」


 だから外に出ないのかと今、合点がいった。

 この国はやけに近未来だ。そのせいか電子機械の技術能力がやけに高い。

 日本から来た平和ボケしている日本人は、どうやら皆引きこもってゲームをしているらしい。なんという体たらくだろうか。あまりにも無様で滑稽だ。


「つまり俺らはその倒されずに増え続けるモンスター達を倒せばいいわけだな!」

「察しがいいですね勇さん。と言っても実のところモンスターを倒したときに得られる金額って決まってるんです」

「そうなの!じゃあノルマが先に決まるね!」

「で、一体倒せば何円になるんだ?」

「種類は構いません。一体50円」

「やすっ」

「私たちが今得るべき金額は10000円」

「わお、計算が楽だね……ん?」

「つまり俺らが倒すべきモンスターの数は……」

「200体……ですね……」


 ここにいる4人が一斉に固唾を呑んだ。

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