第六話
館内に女性の声が響き渡る。
それは役員からすればどう考えても迷惑な行為で、
「あ、しまった!とりあえず皆さんこっち来てください!ほかの方へのご迷惑になるので」
そういうと役員の女性は派手な男たちをかき分けて勇のところまで行くと手を引っ張って管内の奥、人が少ない場所まで連れていかれた。
俺達も渋々後を追う。後ろを見れば派手な男たちも何人かは話しながらも付いてきていた。実に滑稽だ。
周りの人たちの視線も気になるが無視をする。そもそも役員がいるだけさっきの状況よりもましだろう。
「どうしてここにトトがいるんだよ?」
「どうしてって。それはこっちのセリフですよ!」
二人で話し出した。親しいような話し方だが内容的に仕事仲間だろうか?
暇するのも時間も無駄だし冷たい視線を送っていると役員の人がこちらに気づきい一度咳ばらいをした。
「も、申し遅れました!私、ギルド役員のトトと申します!」
「『と』が多いな」
「呼びずらいね」
「人の名前にケチ付けないでください!私も私で困ってるんですよ!」
そういうとトトは派手な男たちの方を見ると口角を下げて真っ当な態度で話し出した。
手を腰の前で組んで丁寧な人と思える。
「そんで、今日も今日とで何しに来たんですか?また『クール―』がどうのこうの言いに来たんですか?」
「なんでそんな適当な扱いなんですか、今日はたまたま国王様がいたから話してただけですよ」
「って毎回言ってますけど実際役員も困ってるんですよ、もうギルドに来るのやめてもらえませんか?」
「まぁまぁ二方とも落ち着いて」
「この話の火種は国王様なんですよ」
「勇さんも被害者面しないでくれません?」
「あれ?俺なんか間違えた?」
なんだか俺らにとってはどうでもいい話が始まりそうな予感。
この国のいざこざなんぞに首を突っ込んでいればどう考えても時間の無駄。
確かに国の事情は自分の持っている国の為にも知っておいて問題はないだろうが今は違う。
目標はエデンのお国事情ではなく感情の復元について。
できる限り初めのうちに抜け出しておくのが吉だったが、
「というかこの国の行政は仕事してるんですか?日本と同じで税金泥棒ですかエデンとかいう楽園でも」
「こっちも必死で頑張ってますがお金で解決しないことが多いんですよ?そんな簡単に政治を語らないでください」
「まてまて発端というのは俺が自称現魔王だからであってそれについては俺が何とかしてるだろ?」
「「何とかなってないですよ!」」
「す、すまん……」
どう考えても首をつっこめる雰囲気ではない。
横を見るとクズも快離も暇そうだ。というか一応は聞いてるのだろうが正直なんの得でもないしいる意味はない。
と、考え事をしているとクズと目があった。どうやら俺の視線に気づいたらしい。
こっちを見たクズは顔色を変えることもなくこっちまで来ると静かに話し出した。
「これ私たちいる意味あります?」
「それ俺ずっと思ってた」
「まって、それあたしも思ってた」
目を見開いて驚いたような表情で快離が話に加わった。
嫌そうな顔はしてないがいかにも退屈そうだ。そもそも話についていけてなかったのだろうと思う。
「ここにいても何ですし、抜けませんか?」
「って言ってもどこ行く気だ?」
「それはまぁ外出てから決めるということで」
そういうと快離が一歩前に出て手を上げた。
堂々としているが自己意識が高いんだなと再確認させられる。
「邪魔して申し訳ないんだけど……あたし達お邪魔なようだから、先出てるね?」
「お、おい?嘘だろ?」
「あなた達も、たしか私たち三人には用はないんでしたよね?」
「まあ、そうだが……」
「じゃ、お先に失礼して?和颯よろしく」
「人任せにもほどがあるだろ……」
そういうと快離はウインクした。面倒ごとは避けたいし、今いる現状とあまり関わりたくない。
俺はため息をつき右手を払った途端。快離の姿が一瞬にして消えた。
「き、消えた!?」
「皆初めて見た時必ずそれ言うよね」
「私もお願いしますね。勇さん……いえ、国王、頑張ってくださいね」
「憐みの言葉はいらないよ」
クズの方へ掌を向け力を入れた瞬間に、クズも消えた。
この世界における俺の『チート』。
『空間の操作』。いわゆる瞬間移動や早く動いたり浮かせたり。と様々な空間に関する能力を持っている。
なんだか中二っぽい能力だが「欲しい能力は?」と聞かれると必ず上位に組み込むほどの能力だろう。
なんとなく順番に飛ばしたが俺もここにいる必要性はない。
「じゃ、国王。これ終ったら大通りにあった噴水な」
「お前もか!?俺を置いていくなんて下劣なやつめ」
「巻き込んどいて何言ってんだよ、じゃ、後はがんばってー」
「お、おい!?」
そう言った瞬間。俺の視界は変わった。
ぱっと見路地裏だろうか?適当な目標設定にしたせいで場所が分からない。幸い勇の国は円形状。カーブのない方向に一直線で進めば必ず国の中心に行ける。
粘土で作られた家が入り混じっており道も極限まで狭くなっていた。家々に遮られ光は通ってくれないがなぜか明るい気がした。
「お、和颯遅れたね」
「勇に冷たい目線を送ってただけだよ」
「さて、どこ行きましょうか?まだ昼ですよ?」
「昼って言ってももうすぐ4時とかじゃ?」
そんなことを言っていると急に快離の腹の虫が鳴いた。
快離は腹をさすって卑しい顔をした。
「あたし朝から何も食べてないんだよ!?もうお腹が減りまくってるよ……」
「同感ですね。とりあえず何か食べに行きましょうか。」
「なら大通りだな。一直線に向かっていくぞ」
そういうと俺らは場所も分からないがとにかくい直線に歩き始めた。
と言っても道は狭くせいぜい人一人がと通るのでやっと。俺らは疲れているが話しながら歩いて行った。
狭くて息苦しい道だが壁も地面も綺麗だ。地面に関していえば砂が落ちていない。
煉瓦タイルの床は欠けることなく完璧に並んでいた。
「そういやさ、なんでところどころに開けた空間があるのだろ?」
少し進むと必ず、8畳くらいの開けた空間が均一に並んであった。
端を見ればゴミ箱に、水を流す下水道でさえも綺麗なままだった。
「掃除するためか、はたまたは治安が悪くならない為でしょうか?」
「勇にしては考えたんだな」
「いやいや、こんな構造勇が考えれるなんて思えないよ、大臣か誰かの発想でしょ」
そういうと二人はクスクスと笑った。勇を滑稽にしすぎているな。
このままでは悪口になりかねない。本人の前でも言っておかなければ。
そんなことを考えていると耳に何やら不思議な音が聞こえた。
途端に思考が働く。
「まって、やばい」
「どうしたの和颯?」
「トイレに行きたい」
「え、朝から何も食べてないんですよね?」
「いきなりだね、大通りまで公衆トイレなくない?」
「いや、さっきトイレを見かけた。道端がきれいなのも至る所に公衆トイレを設置してるからなんだろうな」
「そういうことなんだ!」
「とりあえず先行っててくれ。あとで探す」
「何かあればギルドにでも行ってくださいね」
「あっちは面倒そうだな……何が何でもお前らを見つけることにする。それじゃ」
「早く戻ってきてよー?」
そういうとお互いに反対方向に進み始めた。
二人は話しながら歩いている。あの二人のコンビをあまり見ないので会話内容が気になるが、そんなことより気になったのは泣き声だろうか?それとも悲鳴?
さっき声が聞こえた方向まで歩く。急いで歩く。正直助けたところで得はないが勇の国での問題は解決すべきだろう。
そっちの方まで歩いていくとどんどんと声が大きくなってくる。女性の声だ。
「おお、随分と横暴だな」
道を抜けた先にあった光景はあまりにも杜撰で。
汚れた服に血の付いたスカートを履いた涙を流した女性はどうやら複数の女性に暴力を加えられてる真っ最中のようだった。
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