第五話
「殺してもいいってことですよね!?」
明らかに何か問題が起きそうな空気を感じる。
『異世界』という言葉に全く合わない派手な服装の男達は主に勇の方を見て叫んでいた。
正直問題なんて起こしたくないし、ここに感情のない4人。然もこの国の王である勇がいれば一大事になりかねない。
できれば早くにここから逃げ出したいが、今逃げ出すとどんな悪評が流れるか心配だ。
俺たちは何もできずに突っ立っていた。
だがこの4人は感情のないメンバ―。お互いが強調しあった仲間たち故にこういう大事は慣れていた。
「何ですかいきなり、初対面を相手にしてるとはいえ随分失礼な態度ですね」
クズが口角を上げ、堂々とした様子で男たちの方に歩き出した。
「初対面だと思ってるのはクズ野郎だけですよ」
「お前外でもその名前で呼ばれてるんだな…」
クズ野郎と呼ばれクズは若干顔を引きつった。
「今日は貴方達3人には用事はないんですよ」
そういうと男たちは勇のそばまで歩いた。
勇も同時に下がったせいで勇の背中が掲示板に着いた。
勇の額には汗がつたっていた。どうやらものすごく焦っているようだ。
「皆さん聞いてください!!」
勇を追い詰めるとともに、こちらを向いてるギルドの人へ話し出した。
「わが国の王、勇様さんは一度正義を信じる人々を裏切りました!ですが!今度はこの王、魔王の皆まで裏切ろうとしてるんです!」
「ちょ、ちょっと待て!それは違う!お前らの解釈が間違ってる!」
「なにが間違ってるんですか?仲間であるはずの魔王の皆さんを指名手配にしてほおっておく。こんなの仲間だと思ってる相手にはできないですよね!」
俺達と同じことを言っている。
クズはそれを聞いて何回も頷いている。
快離に至っては「そーだそーだ!」と煽っていた。
「というか勇この人たちなんなの?知ってるんだよね!?」
「お、俺たちのこと知らない何てことあるんですね…」
「え?何?知ってるの?」
快離が周りを見渡す。
「いや、私は分からないですけど」
「俺もさっぱりだが、勇が悪者だってことだけは分かる」
「まぁ知らない人もいますよね……」
そういうと男は勇から離れて話し出した。
「ま、初めに僕らの説明しても分かりにくいと思うので勇さんの説明からでもしましょうか」
「勇のことなら知ってるけど」
「勇さんとこの国、そして敵対する団体の話です」
そういうと男は気取っているのか、同じ場所をくるくると回りながら説明しだした。
目を閉じて話し出した。今なら殴りかかってもバレないだろうか?
「この国の王、勇さんは王である以前に魔王なんですよ。なのでこの国も『魔王が率いる国』と言われ噂されたんです。まぁこの話は置いといて快離さん、『不可侵班』って知ってます?」
「『不可侵班』って…よく知らないけどみんな青い布つけてるよね…?」
「ほんとに何も知らないんですね…」
男は呆れた様子で頭を掻いた。
「『不可侵班』っていうのは正義を糧に動いてる団体のことです。ゆわば勇者もどきです。」
「勇者もどき…?」
「僕らのような普通の日本人はせっかくの異世界だからと魔王を名乗ったり獣を生み出したり魔法で遊んだりと世界を楽しもうとしてるんです。ですが『不可侵班』の人々は逆、魔王や獣を倒して世界を退屈なものにしようとする軍団なんですよ!」
「それって自分の立場で見方が変わる奴じゃないの?」
「……」
快離が首をひねって放った言葉が急所に入ったのか、男は立ち止まって唇を噛んだ。
「なんだか偏見が入っていて分かりずらいですね」
「『不可侵班』の奴らなら多少知識がある」
「さっすが和颯!普段からすかしてるだけあるね!」
「今度は鼻もいでやろうか」
「ほんとにやめて勘弁して」
快離は首を振って俺から距離を取った。
「『不可侵班』ってのはゲームの世界でいうところの勇者みたいなもんだ。俺らみたいな魔王を倒したり人々を困らせてる獣や人間を退治する奴ら。まぁ最近は立場を悪用してたりするけど…」
「魔王を退治したり獣や悪党を退治するってほかの人たちもそうじゃないの?」
「『不可侵班』の奴らは特別、それを目標にして生きてる人のことだ。」
「なんだか薄い人たちなんだね」
「まぁ結局はゲームやアニメにあこがれてる人たちが多い団体なんでしょう…薄いのも分かります」
快離とクズはそう言って嘲笑った。
「ただ『不可侵班』だけの特別なルールもあるんですよ」
さっきまで初めの威勢からは考えられないほどのおとなしいさで黙っていた男が話し出した。
「先ほど快離さんが言ったように『不可侵班』である人たちは皆青い布をつけてるんです。男性なら首や手首、女性なら太ももの付け根や足首に巻いてます」
「人の文化に口をだすのもなんだが、なんともめんどくさそうなやつらだよな」
「ほかにも名前に『クール』と入れたりチートが使えるようになった人はリーダーに報告など…」
「めんどくさい団体なんだね」
「さすが、二次元の世界に囚われた人たちはすることが違うね」
「というか話の本題はここじゃないんですよ!」
男がいきなり叫び勇の方に指を指した。
「さっきからずっと黙ってますけど正直勇さんがいなければこんな問題も起きてなかったんですよ!」
「何回も言ってるけど俺は関係ないって!」
「関係大ありですよ!」
勇が困った様子で叫んでいる。
はたから見れば喧嘩の現場だ。
「勇さんが魔王って立場にいるから俺たちは『不可侵班』に攻撃されてるんですよ!毎日毎日門燃やしたり民家襲ったり家畜を根絶やしにしたり!」
「そもそも嫌ならこの国から出ればいいじゃんか…」
勇は冷めきった態度で相手をしていた。
そのせいか一方が激怒してもう一方が煽ってるようなことになっている。
常時冷静であるのが不幸中の幸いだろう。
「他の国なんていけませんよ!どこ行っても『不可侵班』はいるんですよ!」
「分かったから落ち着け!てかそんなこと俺に言われてもどうにも…」
「俺はいたって冷静です!国の問題は国が、政府がどうにかすべきでしょうよ!」
「そんなこと任せられても他国が絡んでるんだからどうにもできないよ、どうしてほしいの?国民全員に10万円寄付でもすればいいのか?」
人が多くいる中で叫んで言い争っている、それはどう考えても迷惑な行為で。
ギルドの役員が来るのは、時間の問題だった。
「喧嘩しないでくださーい!ギルド内ではお静かにお願いしまーす!」
やる気のない女性の声が館内に響く。
さすがにモラルの守れる男たちは状況を察したのか、逃げるように帰る奴がいた。
だが、丁寧に『不可侵班』の説明をした男はめんどくさそうな顔をして立っていた。
それを見ていると、奥の方から人をかき分けて役員の人が早歩きでやってき…見たことのある顔だ…
「ちょっと、喧嘩はやめてくだ…」
役員は勇の顔を見ると真っ先に勇の方へと行った。
「さい…勇さんじゃないですか!何してるんですか!」
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