第四話

「割と近かったな……」


 俺たち4人は『エデン』のド真ん中、勇おすすめの場所『ギルド』に着いていた。

 勇の言うことだからまだ遠いのだと思っていたが今度は10分もかからずに到着した。

 しかもさすが世界で3番目に広い国、何かイベントがあるわけでもないのに目に余る程の人がいた。

 あまり込み合った場所は好きではないが、ゆっくりと歩くことになったので、今回ばかりは呼吸が整えられて逆に得をした。


「な!言ったろ!近いって」

「まて、あの女性に話しかけられてからここまでが近かっただけで実際は4人が集合してから5時間くらいかかってるからな?」

「ほんとだよ!お昼『エデン』で食べようって言ってたのにもう5時間経ってるんだよ!?」

「この後すぐ何か食べに行きましょ、私もさすがに疲れてきました」

「あたしも、もうくたくただよ!」


 エネルギーの補給が間に合っておらず皆疲れた様子でいた。

 快離は自ら「くたくた」と言っているが見る感じ元気そうだ……

 正直俺も朝9時起きてすぐに待ち合わせの場所に行ったので朝は何も食べていない。

 しかもこんなに歩くとは思ってもいなかったのでもう体が休息を求めている。

 だがそんな私的なことは今はどうだっていい。

 何より俺らのポスターだ。

 4人の旅のメンバーで唯一体力が多く全く音を上げていないリーダーに詳細を聞く。


「そんでポスターってどこにあるんだ?」

「ま、マダワスレテナカッタンデスネー」

「何なかったことにしようとしてるんですか!とにかく今はそのポスター探しですよ!」

「探すって言ってもどこに貼ってるか覚えてるよね!?」

「えっ?」


 快離が勇を睨んで言った。


「そうですよ!勇さんが貼ったんですよね!」

「それは違う、俺は貼ってない」

「じゃ何をしたんですか?」

「勇が貼ってないとしたらほかの誰かが貼ったってことだよね?」

「へーなるほど、お前は仲間の指名手配のポスターが貼られてあるにもかかわらず、それを知ってて尚放置してる訳か」

「それは……」


 勇の声が小さくなった。

 上の方を見ながら汗を流していた。

 『ギルド』に着いてからは、割と大きな声で言い合っているが建物の中が賑わっているようで周りには聞こえてないようだ。

 そうとなればここからが攻め時。貶してこそ開花するのが勇の性格。

 何か訳がありそうだが罪人に言い訳は無用だった。


「まさかそのポスターの場所、把握していなかったとでも?」

「そうじゃないならば勇さんが貼ったことになりますよね?」

「まて、話を聞け、いろいろ御幣が混じってる!」

「御幣も何も勇がそのポスターを知ってるのには間違いないよね?」

「まさか忘れてるわけじゃないですよね?だって勇さんは国の王なんですから!」

「ちょっ、声がでかいぞっ」


 勇が素早くクズの口元に人差し指を当てて「シー」っとつぶやいた。

 あいにく周りの騒音にクズの声はかき消されたようで、周りには聞こえてないようだ。


「な、なにするんですか!?」

「国民に王がここにいるってことがバレたら一大事だろ?」

「そんなおおごとですか?私は素直に王名乗ってますよ」

「というか国民が国王知らないの?」

「お前らの国とは違うんだよ…」


 そういうと勇は背を曲げ小さな声で話し始めた。


「この国の人俺のこと嫌いな人が多いんだよ」

「え、ここ勇の国なのに?」

「まぁ勇って問題ばかり起こすからな」

「そ、それも間違いじゃないけれど実際はいろいろとあるんだよ」

「そのいろいろなことを教えてくださいよ」

「今はそれよりポスターだろ!」


 勇の声が途端に大きくなった。3人が同時にびくりと驚く。

 そして俺たちを待たずに歩いて行った。

 マイペースなリーダーを持ったものだと思うと非常に腹立たしい。が、あれだけ愚弄しておいて俺たちを丁寧に扱えなんて言うのは理不尽なようがした。

 俺たちは早歩きで勇の隣まで行く。


「待ってくださいよ、というかとうとう自分から犯行を認めましたね」

「認めたわけじゃない。だけど理由があるんだよ、実際そのポスターはこの先にある」


 勇はまた頭を掻いた。

 そういうと勇は正面を指さした。そこには掲示板がずらりと並んでいた。


「あそこにあるんですか?」

「てかあの大量の紙なに?」


 掲示板と書かれた壁には数えきれないほどの紙が貼られていた。

 紙が多すぎるせいか重なって見れなくなってるものもあった。

 だが、区別はされているようで上に行けば行くほど古く、紙がコーヒーっぽい色になっていた。

 視力は割といい方だが文字が小さすぎて読めない。だが、確実に指名手配と書かれた場所が一か所だけ見えた。


「なんだかクエストみたいだな」

「クエスト?ゲームに出てくるやつ?」

「そう、なんか依頼を受注するあれっぽい」

「和颯正解!あれ『クエスト』なんだよ!」

「本当かよ…」

「やっぱ『エデン』ってなんだかゲームの世界みたいですね」

「実は指名手配も同じ理由であるんだけど…」


 雑談しているとあっという間にポスターのある場所までついた。

 遠くからだったので分かりにくかったが、写真に写っていたポスターと明らかに同じものが貼ってあった。

 しかも一番上に。すごく目立っている。


「こういう『クエスト』みたいなのがあると二次元の文化が発達した日本の人達は絶対喜ぶでしょ?しかもゲームみたいで楽しいし人助けにもなる!何より!」


 そういうと勇は目線を上げて指名手配のポスターを指さした。


「倒すべき対象、つまり目標があったほうがモチベーションも上がるってわけ!」

「は?なんですかその理論…」

「ってことは、俺らは『エデン』の国民のモチベーション維持のために指名手配にされてたの?」

「あ、だからか!」


 快離が驚いた様子で声を出した。

 数人がこちらの方を見る。


「あたしの城に時々『エデン』から来たっていうすっごくごつい鎧被った人が来ることあったんだよ!」

「そういえば確かに俺の国にも来てたな…」

「そうですか?私の国には来てないですけど…」


 俺らの意に反してクズは来てないと主張した。だが、


「もしかしてあれのせいじゃない?」


 勇がポスターよりも下の方を指指した。

 そこには俺ら三人の詳細な情報が書かれた紙が貼ってあった。


「待て、いくらモチベーション維持のためとはいえこんなにも詳しく書くやつがいるか?」

「しかもクズだけ優遇されてない!?」


 そこには、三人の外見、城の場所、チート、体格、性格と事細かく書かれていた。まるで恋愛ゲームのプロフィール欄だ。

 そしてなぜかクズだけものすごく強そうな設定にされていた。

 パッと見るだけでも、『時を操る能力者!?』と書かれている。なんだか胡散臭いポスターだなとため息が漏れる。

 快離の方を見るとさすがのポジティブ脳筋でさえも若干引いてるようで唇が震えていた。だが顔は笑顔のままだ、さすがポジティブ脳筋。

 そう考えていると、隣りの方から「はぁ」っとため息をつく声がする。


「リーダー…」

「な、なんで、すか……?」


 さすがに勇も察したのだろうクズがまるでお怒りの様子だ。

 勇はよりいっそ、額に汗を流した。

 だが、クズに怒鳴られると思ったが……


「……なんだかもう呆れてきました」

「へ?」


 クズはくたびれた様子でため息をもう一度ついた。


「これ、良かれと思ってやったんですよね?」

「ま、まぁ悪気はなかったぜ」

「そうですよね、とりあえずあの引くほど詳細に書いてある紙、無くしてください」

「は、はい」


 リーダーが押されている……

 さすがの勇も反論できないようで頭を掻いてクズの話を聞き入れていた。

 と、そんな時。


「ねぇ和颯」

「どうした?」

「なんかあたし達注目されてない!?」


 快離が大きな声でそう言った。

 周りを見てみると図星だったのか俺と目があった瞬間に頭を下げる人が何人もいた。


「ん?どうしたんですか快離さん」

「葛楽?あ、え?」


 二人も俺等の方を見たと同時に状況を把握する。

 ポスターの下で話すのではなかった。

 大きな声で城の話をすべきではなかった。


「も、もしかしてバレてます…?」

「すんませーん」


 固まって行動すべきでなかった。

 そして勇が、国王が国民から嫌われているのを理解すべきだった。


「このポスターに描いてある人たちって貴方達ですよね…?」


 この国の人を信用しすぎたのかもしれない。

 威勢のある堂々とした豪傑な勇の国なのならば、


「このポスターに載ってるってことは…」


 非常識な人がいてもおかしくはなかっただろう。


「殺してもいいってことですよね!?」


 ギルド内が静まり返る。

 6人ほどの知り合いなのだろう。

 身長から見てまだ高校生くらいの年。

 見る限りピアスや髪に服装とガラの悪そうな雰囲気しか感じないが彼らなりのファッションなんだろう。

 そんな奴らが、異世界で粋がっている奴らが俺らに話しかけないことなんてありえないだろう。

だって、


合法的に人を殺せるのだから。

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