第三話
「痛い、まだ若干感覚が残ってるんだけど!」
国についてから1時間が経過していた。が、
「あのー、まだ着かないんですか?そのギルドやらには」
「安心しろ、もう少しだ」
「お前、その信用のできない言葉ほんとに好きだな」
「あたしの鼻の心配もしてよ!」
10分で着くという勇の言葉を過信しすぎていた。
いざ行くとなると予想以上に歩くことになり、体力の少ない俺にとっては苦行以外の何物でもない。
「というかそもそもその『ギルド』ってどこにあんの?」
「この国にいる大半の人が行くから国の真ん中に建ててあるぜ」
「そういやこの国って大体どのくらい大きいの?」
快離が身を乗り出して聞いた。
「そういえばこの国って世界で3番目に大きい国ですよね」
「そうだな、この国は中心に簡単に行けるように円型になってんだよ」
「ならその直径は?」
「10キロ程度じゃね?詳しく知らんがな」
「え、てことはお前、5キロもの距離歩いて行こうとしてたのかよ?」
「運動にはもってこいでしょ!な?快離」
「まぁその距離なら散歩にいいかもね!」
「散歩にいいかもね!じゃねぇよ、てか聞く相手間違ってんだろ」
どう考えても10キロや5キロもの距離を歩きで行くなんて普通じゃおかしいと思うが、
趣味が運動の勇が率いているんだったと付いてきたことに若干後悔をしている。
だがしかし、俺以外のメンバーは誰一人として疲れず笑顔で雑談しているのを見ると、自分の体力は本当に少ないんだと改めて考えさせられた。
いや、もしかしたらこいつらが化け物並みの体力を持っているだけで俺が普通なのかもしれないと根拠のない戯言を考えていると、
「あの…ちょっといいですか?」
一人の女性に話しかけられた。
若い女性だ。背丈は低く黄色味のある髪をしていた。
「ど、どうしたんですか?」
あまり人と話すのは得意ではない。
いきなり話かけられると思考が話に追いつかず非常識なことを言ってしまわないか不安だが、一度気づかれないほどの大きさで深呼吸をし落ち着いて話すことにした。
「あの…和颯さん…ですか?」
「へ?」
つい声が裏返った。
「どうしたの?」
「え?いや、なんでも、ない。」
まさか自分の名前がいきなり出てくるなんて全くの予想外。
道を聞く、落とし物をする、とかのありふれた質問ではなく、まるで有名人のような扱いを受けて心の中で驚いた。
そのまま正直にYesと答えるか、面倒ごとを避けてあえてNoと言うか…
自分に全く得がないことにしばし悩んでいると、
「和颯?知らないですね」
隣で聞いていたクズがどうやら助け舟を出してくれたらしい。
「え、じゃあこの方は…」
「有名人でも何でもないですよ、ね?ギト?」
どうやらここでは俺の名前を『ギト』ということにするらしい。
わざわざ助けた恩を腐らせるわけにもいかないので話に乗ることにした。
「すまんな、俺は『ギト』っていう名前だ。その『和颯』って人とは違うな。期待させて申し訳ない」
「い、いえ!間違えたのは私の方ですから、謝らないでください!」
随分と丁寧に相手をしてくれた。
活気のある勇の国の住人とは思えないほどの丁寧さに驚いていると、俺の肩を掴み快離が覗き込むようにしその女性の方に話しかけた。
「その『和颯』って人有名人なの?私たちもどんな人か気になる!」
「あ、写真がありますよ?見ますか?」
「いいの!?見せて見せて!!」
遠慮がないとはいえ、自分が有名人のような扱いを受けている理由が気になる。
日本人が来たことによってすぐさま作られたこちらの世界のスマホ。
日本のような様々な機種、十人十色なバリエーション……はさすがにそろってないが何不自由なく使えて意外にも重宝していた。
それらはもちろん勇の国にも普及しているようで、女性は白い無地のスマホを慣れた手つきで操作していた。
目当てのものを見つけたらしく、満足そうな笑みを浮かべてスマホの画面をこちらに向けた。
「これです!絵になっていて少しわかりずらいんですが…」
4人してスマホを覗き見るとそこには、美化された俺の顔が描かれたポスターが映っていた。
それもまるで指名手配のようだ。顔の絵の下に賞金であろう数字が書かれている。
「ほ、ほんとに俺に似た人ですね…」
「けどこの写真の人、超絶イケメンじゃん!『ギト』と一緒にされたらこの人も困るでしょ?」
まるで煽るような口振りで俺の顔を覗き見る。
いちいち距離が近いので腹が立つ。
「うるさい。俺だってこの人と似たくて似たわけじゃねぇから」
「でも美化されてあるとはいえ割と特徴はそっくりですよ?」
「なんでお前が疑ってんだよ、別に俺はこの『和颯』ってやつとは関係なんかない」
「あ、ちなみにこの人の仲間の人も一緒に描いてありましたよ!」
そういうとスマホの画面を横にスクロールしていく。
そこには『快離」と『葛楽』に似た絵が映っていた。
が、もちろん本物以上に美化されていて逆に分かりずらくなっていた。
そのせいか絵に描かれた本人が目の前にいるにもかかわらず、女性は全く気付いていない様子だ。
こちらにとっては好都合だがポスターを貼った人はこれでいいのか疑問である。
そんなことを考えているとクズが「そういえば…」と少しつぶやいた後、
「このポスターってどこに貼ってありました?私たちも気になるのですが」
と聞いていた。
面倒なことに首を突っ込もうとしているクズを止めたい気持ちもあるが、さすがに自分の顔が貼られてあるのは気に障る。
俺もこのポスターをリアルで見てみたいとクズの気持ちに賛同した。
女性は少し空中の一点を見つめ小さな声でつぶやいた後、考えながら話し始めた。
「このポスター自体はこの道の先にある『ギルド』にあります。ですが細かい場所は覚えてなくて……」
「いや、『ギルド』にあるってことが分かればいいですよ!ありがとうございます!」
「いえ、こちらこそ親切に!」
快離が満面の笑みで見送ると、女性は満足そうに俺たちが通って来た方向へ、手を振って歩いて行った。
「奇妙ですね」
「あたしたちの顔が載ってるって、有名人じゃん!」
「それよりも不思議なことが一つあるんだけど」
「ど、どうした?」
これまで目を泳がせて全く口を開かなかった勇の方を見た。
「どうして勇の絵はなかったんだ?」
「え、それは、俺の知名度が低いからじゃないのか?」
「そんなことないでしょ!だって勇ってリーダーじゃん!」
「しかもこの国って勇さんの国ですよね?『ギルド』は町の中心にありますし管理はきっと王がやってるんでしょうねー!」
クズはそういうと冷めきった眼で勇を見つめた。
「え、え、何?俺がポスターを貼ってあんたら3人の首を取ろうとしてるとでも言いたいわけ?」
「いや逆にそうだとしか考えられないでしょ?」
「待って!冤罪だから!そもそもあんたらの首取るくらいなら国民の手を借りるより俺が直接切ったほうが早いでしょ!」
「ですが自分の手を汚さず、一人ずつ確実に殺していくのならば国民に手を借りるのにも納得ができます…」
「勇?もしかしてあたし達を裏切ったな!?」
そういうと快離は手の平を上に向けた。すると、
―パパパッ
っと、空中で小さな爆発が複数回起きた。
まるで危険な状況だがなぜか快離はにやりと笑って楽しそうにしていた。
さすがに冗談だと思ってるのだろうか。
「待て待て!お前ら俺を信用しなさすぎだろ!」
「いえ、私たち感情のないメンバーは8人もいるんですよ?一人くらい裏切者がいてもおかしくありません!」
「そ、そこまでメンバーに事信用してないの葛楽…ほんとにクズ野郎だね」
「快離さん!?裏切りましたね!?」
「落ち着けお前ら!とりあえずそのポスターを見に『ギルド』まで行くぞ!」
「なんでお前が引き連れるんだよ!」
「リーダー気取ってますね」
「うるせーどっちにしても行くんだろ!黙ってついてこい!」
そういうと勇は皆を置いて一人で勇ましい姿で歩いていった。
その様子を見て二人は焦った様子で走って追いかけた。
なぜか快離の額には汗がつたっていた。
快離もさすがに疲れているのだろうか。
「また歩かないといけないのか…」
そうつぶやくと俺も3人が行った道を渋々歩いていった。
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